韓国の国家主権はアメリカに奪われた | 『月刊日本』編集部ブログ

『月刊日本』編集部ブログ

日本の自立と再生をめざす言論誌

安倍総理は13日にもTPP参加を表明するのではないかと言われています。それに対して、TPPに関する極秘事実(先にTPP交渉を始めた国々が遅れて交渉に参加したカナダとメキシコに対して交渉権を著しく制限する条件を課したこと)が公になったり、アメリカ国内でもTPP草案がリークされて話題になるなど、様々な動きが起こっています。


TPPに参加すれば新自由主義が加速します。しかし、新自由主義を推進してグローバル企業を育成したところで、日本の景気が良くなることはありません。それは、サムスンやヒュンダイなど有力なグローバル企業を抱える韓国経済が、極めて危機的な状況に置かれていることからもわかると思います。


ここでは以前掲載した、元農林水産大臣・山田正彦氏と立教大学教授・郭洋春氏の対談の続きを紹介したいと思います。(YN)

 

 

『月刊日本』2012年3月号より

 

韓国の国家主権はアメリカに奪われた

―― そこで郭教授にうかがいたい。米韓FTAは不平等条約とまで言われている。米韓FTAは韓国にとってどのようなものなのか。

 韓国は米韓FTAによって、国家主権を維持できるかどうかの瀬戸際に立たされることになった。今後FTAが発効されれば、韓国国内でアメリカの企業が自由に振舞い、韓国国民が築いてきた国富が奪われる危険性がある。

具体例をあげると、外国人投資家による韓国企業の買収が加速する可能性が高い。現在、韓国の上場企業の時価総額のおよそ3割は外国人投資家によって握られている。これを3割程度で抑えることができているのは、公正取引法によって外国人投資家の株式保有の上限が定められているからだ。

しかし、米韓FTAによって、この上限が撤廃されることになった。それが外国企業の自由な活動を阻害していると判断されたからだ。これにより、外国人投資家は韓国企業の株式を100%保有することができるようになる。

韓国人が育ててきた韓国企業の富が、株式配当という形で外国人投資家に巻き上げられていく。これが果して健全な姿と言えるだろうか。

また、米韓FTAでは「未来最恵国待遇」が定められている。これは、たとえば韓国が日本とFTAを結び、日本に対してアメリカよりも有利な待遇が提供されている場合、韓国はこれをアメリカにも拡大適用する義務がある、というものだ。

しかし、自由貿易協定というものは、それぞれの国情や産業の状況に基づいて結ぶものだ。日韓間ではお互いの利益になるような貿易協定だったとしても、米韓間では韓国にとって大きな損害をもたらす、ということは大いにあり得る。

しかも、米韓FTAでは、一度合意してしまった規定については、いかなる場合にも元に戻すことができないことになっている。これをラチェット条項という。

そして、最大の問題点は、日本の国会でも大きな話題となったISD条項だ。ISD条項とは、ある国家に投資していた外国人投資家がその国家の政策により不利益を被った場合、世界銀行傘下の国際仲裁センターという第三者機関に訴えることができる制度だ。

しかし、世界銀行の総裁は設立以降一貫してアメリカ人が就いている。また、世界銀行の議決事項については、出資の割合で議決の割合が決定されるが、最大の融資国はアメリカで17%を占めている。このように、世界銀行はアメリカの大きな影響下に置かれているのだ。

実際、NAFTA内で起きた紛争事案46件の内、アメリカ政府は15件の訴えを起こされたが、1件も負けていない。逆に、カナダ・メキシコ政府を訴えたアメリカ企業はいくつかの事案で賠償金を得ている。

こうしたISD条項について、韓国の司法権を侵奪するものであるとして現職の裁判官が反対運動を起こし、多くの裁判官がこれに同調している。

山田 アメリカでTPPを研究している大学教授に、なぜアメリカはISD条項による裁判に負けないのか、と尋ねてみた。

その教授の話によると、彼の友人の元国会議員が仲裁員になった時、メキシコ企業がアメリカ政府を訴えるということがあった。その友人はメキシコ企業の訴えに理があると思っていたが、国務省から呼び出されたため、アメリカ政府を勝たせたという。

このように、ISD条項による裁判は、最初からアメリカが負けないように決まっているのだ。

 

アメリカに操られる日韓のマスメディア

―― なぜ、それほどの不平等条約を韓国は結んでしまったのか。

 韓国政府にとっては、アメリカと友好的な関係を築くことが最も重要な外交政策である。北朝鮮という国家がある限りアメリカに頼らざるを得ない、といった冷戦体質から、韓国はいまだに抜けることができていない。

米韓FTAの協議が始まったのは2005年である。その後、わずか1年足らずで大統領間で合意に達することとなった。

この2005年がどういう年であったかというと、韓国は盧武鉉大統領、アメリカはブッシュ大統領の時代であり、この時の米韓関係は非常に悪化していた。

というのも、盧武鉉大統領は北朝鮮に対して太陽政策で臨んでおり、その一方で、ブッシュ大統領は北朝鮮に対して強硬姿勢で臨んでいたからだ。対北朝鮮政策という点で、二国間に大きな溝ができていたのだ。

このように悪化した政治的関係を修復するためには経済的関係を好転させるしかない。そうして考え出されたのが米韓FTAなのだ。実際、盧武鉉大統領も当時の施政方針演説でそのように述べていた。

しかし、この時は、アメリカで米韓FTAに対する反対運動が起こった。当時考えられていた米韓FTAは現在のような不平等条約ではなかった。そのため、賃金も安く、品質も高い韓国産業に対してアメリカ市場が開放されれば、自動車や農業など、アメリカの多くの産業が衰退すると考えられていた。

そこで、先ほども述べたように、アメリカは自国にとって徹底的に有利な、韓国の主権を奪い取るような米韓FTAを結ぶことで、国内の批判をかわそうとしているのだ。

山田 実際、米韓FTAはアメリカの大勝利であると、アメリカの議員たちは勝ち誇っていた。

―― 米韓FTAによって韓国の主権が奪われてしまうのではないか、といった議論は韓国国内では起きなかったのか。

 当初はほとんど起きなかった。戦後の韓国の経済成長の原動力は輸出であり、その最大の市場がアメリカだった。そのアメリカがTPPを結ぶことになったが、そこに韓国は参加していない。これでは韓国はアメリカ市場から排除され、経済発展が停滞してしまうのではないか。こうした危機感があったため、マスコミも米韓FTAを好意的に論じ、サムソンやヒュンダイなどの輸出産業もそれを支持した。

対外依存度が高い韓国は、どうしても外国の政策に左右されてしまうところがある。輸出先が閉じてしまう前に、そこに入って行かざるを得ないのだ。

山田 日本では、韓国が米韓FTA参加したのを見て、バスに乗り遅れるな、という議論が起こった。その一方で、韓国においても、日本が菅内閣の時にTPPに参加すると表明したのを見て、バスに乗り遅れるな、と議論された。

榊原英資教授が事務方として日米構造協議に臨んだ時の経験についてお話されていたが、交渉内容について日本のマスコミから批判されることが多々あった、アメリカは外交交渉を有利に運ぶために日本の世論操作をしていた、とおっしゃっていた。

今回のFTAやTPPについても、日本や韓国のマスコミに対してアメリカによる操作がなされていると考えていいだろう。日本と韓国がお互いの経済政策を見て焦り、拙速に参加へと踏み切るように誘導する、しかし利益があがるのはアメリカだけ。こういう仕組みがあるのだろう。

 もっとも、韓国の民主労働党がISD条項の危険性に気づき、国会で何度も取り上げたため、国内でもTPP反対の国民運動が起こり、野党も強硬に反対した。

その結果、与党ハンナラ党は単独で強行採決に臨まざるを得なかった。しかし、連日にわたる、「批准無効」や「大統領退陣」を訴える集会やデモが続いたため、発効は4月以降にずれ込むと言われている。(続く)




にほんブログ村 政治ブログへ