室井です。



これは、寝て見る“夢”の話。

世の中にはいろんな夢がある。
僕の見る夢は、僕自身がその世界の中の人物として登場しており、モノクロでなくカラーで、一見現実の世界と見分けがつかない。なので目覚めた時は「夢かよ!」や「夢でよかったァ」など、悲喜こもごもだ。


舞台の本番の日が近付くと、高い確率で見る夢がある。僕が最も嫌いな夢だ。それは《最悪な形で、舞台に立つ夢》だ。
そこはどこかの舞台の本番当日、開演直前から夢は始まる。見馴れない劇場と共演者たち。舞台裏で慌ただしく走り回るスタッフ、緊張感いっぱいの楽屋、まだ着替えもメイクも済ませていない自分。
僕はスタッフの後を追って小走り。何か探してるらしく、しばらくするとスタッフから声。
「あったあった!衣装はこれでしょ。すぐ着替えて、舞台袖に上がって!」
どうやら衣装が見つからなかったという設定らしい。
とりあえず言われるがまま、衣装に着替える。メイクしてる暇なんか無く、慌てて舞台袖に向かう。
慌ただしい中でふと我に返り思う。

【あれ!?、、、これ、なんの舞台??】

周りには見馴れない衣装。西洋の中世の頃らしい衣装のようだが、僕が知る作品ではない。

袖から舞台を覗いてみる。舞台はもう始まっていた。
真っ暗な狭い袖。スタンバイしてる人数からして、僕の出番はもうすぐらしい。

【エッ!?俺、台詞分かんないよ。】

台詞も段取りも知らない。
共演者の台本を取り上げ必死に台詞を確認するも、台詞どころか自分の役名も知らない。
もう一人パニックだ。

いよいよ出番。
前に居るドレスを来た女性に続いて舞台に出るらしい。
ドレスの女性がこっちを振り返り〔よろしく♪〕という目配せ。

【よろしく♪じゃねぇ~よ!!!】

もうパニック&イライラの中、ドレスの女性が進む。自分も後に続き、舞台へ出る。

【もう、どうとでもなれむかっ



ここでいつも、目が覚める。

深呼吸をひとつして、つくづく思う。「夢でよかったァ」と。


僕の周りの役者さん達も、わりとこういった夢を見るらしい。
舞台役者にとって最も恐ろしい夢の一つだ。