話が長い割りに大したオチもなく、更には中途半端という駄日記です。
時間をドブに捨てるより酷い使い方したい人だけ、どうぞ。




とある亜熱帯地域の密林の奥深く、とても小さな集落があった。

茅葺きの屋根と、土で出来た壁の家々。

ソコに住む人々は、少数だったが、貧しいながらも仲良く暮らしていた。


そこの住人達の中に、ヨァクゥモムラスゥッキという名の青年がいた。

彼には若くして、キツネの様に美しい妻と、
猫の妖に可愛らしい娘がいて、親子三人一緒にたいそう幸せに過ごしていた。


彼は隣町にある大農園で働いていた。

端から端が、見渡せない程の広大な敷地内で、作物に水を撒いて周り、農薬を散布して、成長の具合をチェックする作業

途方も無い仕事量に加え、そのほとんどを手作業で行う為、仕事はいつも朝早くから夜遅くまで掛かった。


加えて、家から農園まで移動の時間も合わせると、彼の睡眠時間はほとんど無かったが、

仕事の隙間隙間に小休憩を挟みつつも、熱心に仕事に取り組む彼の姿勢は、雇い主からの評価も上々だった。


しかし、それだけ働いても得られる賃金はごくわずか、

それに加え、本来ならば得られるハズの額の大半は、実は雇い主が不当に搾取していた。


そんな事は全く知らないヨァクゥモだったが、それでもその暮らし自体は、決して貧しくは無かった。

いや、というより彼はどちらかと言えば、村の中では1、2を争う稼ぎ手で、その為彼の嫁、娘は幸せに且つ、健やかに暮らしていた。

また、彼自身、その生活に心地よく感じ、日々満ち足りた生活を送っていた。



その日も、彼はいつもの通り、朝早くから農園に出掛ける。
定められた仕事をあらかた片付け、ふと気付くと、
既に日は落ちていて、辺りは虫達の鳴き声に包まれていた。


ヨァクゥモは、最後の作業として、農園内にある小屋へ行き、その日の日報を書く。

日報と言っても大まかに作物ごとの成長具合と、その日の収穫量を書き記すだけの作業。

それでもヨァクゥモにとって日報を書くと言うのは特別な作業だった。


何故なら、一緒に仕事をしている同僚達の中で、文字を書けるのは、ヨァクゥモ一人だけだった。



文字の書き方は子供の頃に村に滞在していた、学者達の所に毎日遊びに行っている内に教えて貰った。


学者達が村から去った後、しばらくしてから分かった事だったが、

ヨァクゥモの村で文字を書ける者は、彼を除き一人も居なかった。

彼が文字を書けると知った村人達はとても驚き、喜び、そして祝ってくれた。

その祝い方もとても盛大に行われ、年に一度の祭りの時のように盛り上がったその宴は、
何事かと、隣村から見学に来た者もいる程だったらしい。


まあ、今考えると、
散々もてはやされ色々と字を披露していた訳だが、
誰一人として、書いている内容を分かっていなかったと言うのは、可笑しな話だ。



とまあ、そんな訳で、彼にとって字を書くという行為は、長所であると共に、己の誇りだった。



と、そんな事を昔の出来事を思い出しながら日報を書き終えると、ようやく長かった1日も終わり。

ヨァクゥモは家路へとついた。


いつもの様にポンコツ自動車に乗って夜道をひた走る。


もう乗り換えるからと言って、農園主から譲って貰った車は、

あちこちの塗装が剥がれ落ち、所々錆びに覆われ、挙句、運転席以外はドアも開かないという年代物だ。


まあ、それを差し引いても、彼にとって車は至高品である。

本来ならば、いくら年代物であっても彼が乗れる様な代物では無いのだったが、

農園主も、新しい車が来た事が、余程嬉しかったからか、
はたまた普段給与を搾取しているという後ろめたさを幾らか感じては居たからか、

真相はあげると言った農園主しか分からないが、
かくして、ヨァクゥモは幸運にも車を手に入れる事が出来た。



外灯も無く、鋪装ない道をヘッドライトが照らして行く。


その日は満月で、とても空が綺麗に見える夜だった。

月明かりに照らされ、何も無い道をひたすら走り続ける。
気付くと自然と鼻歌を歌っていた。


この歌も、学者達に教わった歌だ。

若者が都会に憧れ、田舎を出ていく唄


ヨァクゥモも都会に憧れはあった、聞いた話だと、
都会には車が列をなして走っていて、天にも届きそうな高い家が乱立しているらしい。

…一度は行ってみたいものだ。


ただ、そこに住みたいか?と言われれば答えは、いいえだ。

自分には今の暮らしがあっているし、

豪華な暮らしより、妻と娘がいる事が今の自分にとって何より大切だった。



それにしても月の綺麗な夜だ。

こんな夜は何か良いことがありそうだ。

そう考えながら我が家に向かいアクセルを踏み込むヨァクゥモだった。