隣を歩いている晶子さんの顔は楽しげです。
足取りは軽く、時折、鼻歌も交じったりしています。
私と晶子さんは、二人並んで、お寺の近くの商店に向かっています。
なんでかというと、晶子さんがお供え物を持って来るのを忘れたからです。
彼女が言うには、
「ほら、私って物を持ち歩かない主義だから!
まあ主義って言うより習慣?っていうか、癖?だからさ。」
「だから、買い物、一緒に付き合ってくれない?私、近くのお店の場所も分からないし。」
それは、忘れたって言うよりも、持ってくる気が一切無いのでは?
そんな事を考えてる内に、
「さあ、行きましょ?」
と、彼女は返事も聞かない内に歩き始めたので、私も、なんだか分からぬまま、後をついて行ってました。
近くの商店までは、結構な距離があって、途中、晶子さんはおばあちゃんの事を色々尋ねて来ました。
おばあちゃんの思い出を語る度に、晶子さんは、
「ふ~ん、そうか、そうか。」
と目を細め、嬉しそうに頷き、
また、しばらくすると、おばあちゃんの事を尋ねてくる。
商店に着くまでずっとそれが繰り返されました。
そんなこんなであっと言う間に、商店の前まで着きました。
ちなみに、ここら辺は田舎なのでコンビニは車で行かないとありません。
ここでいう商店というのは、おばあさんが切り盛りしてる、駄菓子から洗剤、蛍光灯まで揃えてる、こじんまりとした雑貨屋さんです。
もちろん供え物のお菓子もだってちゃんと用意してあります。
晶子さんはその商店に、…は入らずに隣の酒屋に入って行きました。
酒屋は、店の中で隣の雑貨屋とつながっていて、店番をしているのはおじいさんでした。
店に入るなり、
「おじいさん、お酒頂戴!日本酒!一番美味しいやつ!」
と、困惑する店主を捕まえて、
「味の説明とか要らないから、貴方がこの店で一番美味しいと思うの頂戴。」
晶子さんはそう言い放ち、
私が唖然としている間に会計を済ませ、
気付いた頃には、店を出てお墓の方へと歩いていました。
「なにやってるの恵ちゃ~ん?はやく~。」
慌てて追いかけて、横に並ぶと
「晶子さんって、なんだか思った以上に男前なんですね。」
と素直な感想を口にしました。
「そう?そういうのって自分じゃ分かんないもんなのよね。」
そう言いつつ、買った一升瓶の包み紙を破り、栓をあけました。
「開けちゃうんですか!?」
ビックリしながらその様子を見ていると、
「だって、勿体無いでしょう?供え物っていったって、死んだ人が実際に飲んだり、食べたりする訳じゃないし、」
「それはそうですけど…」
「それに貴方のおばあさんだって、一人でお酒飲むよりも、二人で飲んだ方が嬉しいわよ。」
そう言って、一升瓶から直接お酒を飲み始めました。
「おぉぉ…、」
見た目クールビューティな方が、一升瓶をラッパ呑みしている様はあまりに衝撃的で、
まさしく、「おぉぉ…」と言う以外の表現が思い浮かびません。
「プっっハー、いや~それにしても、まさかあの子の子供が、こんな可愛いく育つとはね~。」
さっきまで、そっくりだと言っていたのに…もう酔いが回り始めたのでしょうか?
でも、この機に、今まで質問されてばかりだったので、私からも色々聞いてみようと思いました。
だって、私もおばあちゃんの昔話には興味が有ります。
おばあちゃんは、昔話をよくしてくれましたが、
自分の過去。
特に、おじいちゃんと出逢う前の話に関しては、一切話してくれませんでした。
いい機会なので色々聞いてみたいと思いました。
「あの…」
「ん~、何かしら?」
…まず始めに何を聞こうか?
当たり障りの無いことからの方がいいかな?
趣味とか?特技?
いやいや、そんな事より!
「あの、晶子さんって、おばあちゃんとどういった間柄だったんですか?」
「………。」
実はさっきから、似たような感じの質問はしていたんですが、なんだか上手い具合にはぐらかされていました。
晶子さんは、立ち止まって少し間を取ってから、
「…う~ん、イタズラ仲間って感じ…のが、一番しっくりくるの…かな?」
そう言って、こちらへ振り返りました。
歯切れも悪く、要領の得ない答え。
振り返った彼女の目と私の目が合い、そのまま3、4秒たったでしょうか?
晶子さんは、いきなり吹き出して、
「いや~、恵ちゃんサイッコーだよ!貴方!
本当にあの子に瓜二つ!」
そう言ってケタケタと笑い出しました。
「いやいや、つい恵ちゃんがあんまりにも可愛いかったんで、イタズラ心が久々に芽生えちゃって、」
そこで一度、間を置くと
「大丈夫。私も貴方のおばあちゃんも過去にやましい事なんて、一切して無いから。」
晶子さんは、笑いかけながら、
「ただ、まあ実際に貴方のおばあちゃんと喋った事なんて、実は数える位しか無いんだけどね。」
「でも、なんていうの?私、こういう引っ込み思案な性格じゃない?だから、中々、友達とか出来なくて。」
「そんな時に、偶然、貴方のおばあちゃん見つけてさ。見た瞬間、似た者同志なんだ。ってなんか直感したのよ。」
「その時は、気付いたら、いつの間にか、話かけてたっけ。
その後も、なんだかミョーな仲間意識が芽生えちゃってさ。」
「ま、話してるのはいつも一方的にあたしだったんだけどね。」
話終わると、晶子さんは空を見上げ、何か色々と、思い返している様でした。
なんだか、おばあちゃんと晶子さんの関係は、凄くよく分かったような、全く分からなかった様な…
それでも、気になる事が1つ。
「それで、晶子さんやおばあちゃんは、結局何をしていたんですか?」
再度、晶子さんはこちらへ振り返ると、
「だから、イタズラよ。う~ん、なんて言ったらいいのかな?あっ!火遊びとか!」
…何処となく犯罪臭が…、っていうか、本当に悪い事してたんじゃ…
そんな、私の表情を読み取ったのでしょう。晶子さんは、
「あ~!だから大丈夫だって!私も、おばあちゃんもやましい事は一切無いから!
神に誓ったっていいわよ?」
そう言って、彼女は胸を張りました。
ここまで言いきられると、納得するしかありません。
その言葉を信じて、次の質問をぶつけようと口を開くと、
「あっ!」
彼女の驚きの声に、私の声は書き消されました。
「大変!恵ちゃん!」
晶子さんは、今日一番の真剣な顔で、
「お酒全部飲んじゃった。」
そう言って、空いた一升瓶を逆さまにしました。
「ゴメン!恵ちゃん!お駄賃あげるから、これとおんなじの買って来てくれない?」
両手を合わせて、お願いされたので、しぶしぶ了解すると、
私は、来た道を走って引き返し、さっきの酒屋さんを目指しました。
~休題~
「いい子に育ってるじゃないか?それに、あの頃のアンタにそっくりだよ…」
晶子は、空を見上げそう呟く、いや、語りかけた、の方が相応しいだろうか。
「人間としての生き方か…、ふふっ、その結果があの子なら、アンタの選んだ道は、間違いなく正しかったんだね。」
眩しそうに目を細めると、
「そうだったんだろう?…ゼロ。」
昔の名前で、彼女をそう呼んだ。
その名は、等の昔に捨てられた名。
この時代で、今もその名を憶えている者は、果たして何人いるのだろうか?
晶子の呼びかけに対して、
空は何も応えない、
雲も何も変わらない、
答える者は何処にも居ない。
まあ、あの頃だって、呼びかけても、余程気が向いた時以外は、何も応えない奴ではあったのだが…
「まあ、しない。と、出来ない。じゃあ意味は違うか…」
誰に言うでも無く、呟く。
だが、
一瞬、とてつもない強風が吹き抜ける。
抜けるような晴天で、風もほとんど吹いていなかった今日という日に。
晶子は、一瞬呆気に取られた様に空を見上げ、
口の端を上げ、にんまりと笑うと、
「そうかい、そうかい。死んでからも自慢したくなるような子かい。」
そう言って、上機嫌で晶子は再び彼女の墓へと、歩き出すのだった。
つづく
足取りは軽く、時折、鼻歌も交じったりしています。
私と晶子さんは、二人並んで、お寺の近くの商店に向かっています。
なんでかというと、晶子さんがお供え物を持って来るのを忘れたからです。
彼女が言うには、
「ほら、私って物を持ち歩かない主義だから!
まあ主義って言うより習慣?っていうか、癖?だからさ。」
「だから、買い物、一緒に付き合ってくれない?私、近くのお店の場所も分からないし。」
それは、忘れたって言うよりも、持ってくる気が一切無いのでは?
そんな事を考えてる内に、
「さあ、行きましょ?」
と、彼女は返事も聞かない内に歩き始めたので、私も、なんだか分からぬまま、後をついて行ってました。
近くの商店までは、結構な距離があって、途中、晶子さんはおばあちゃんの事を色々尋ねて来ました。
おばあちゃんの思い出を語る度に、晶子さんは、
「ふ~ん、そうか、そうか。」
と目を細め、嬉しそうに頷き、
また、しばらくすると、おばあちゃんの事を尋ねてくる。
商店に着くまでずっとそれが繰り返されました。
そんなこんなであっと言う間に、商店の前まで着きました。
ちなみに、ここら辺は田舎なのでコンビニは車で行かないとありません。
ここでいう商店というのは、おばあさんが切り盛りしてる、駄菓子から洗剤、蛍光灯まで揃えてる、こじんまりとした雑貨屋さんです。
もちろん供え物のお菓子もだってちゃんと用意してあります。
晶子さんはその商店に、…は入らずに隣の酒屋に入って行きました。
酒屋は、店の中で隣の雑貨屋とつながっていて、店番をしているのはおじいさんでした。
店に入るなり、
「おじいさん、お酒頂戴!日本酒!一番美味しいやつ!」
と、困惑する店主を捕まえて、
「味の説明とか要らないから、貴方がこの店で一番美味しいと思うの頂戴。」
晶子さんはそう言い放ち、
私が唖然としている間に会計を済ませ、
気付いた頃には、店を出てお墓の方へと歩いていました。
「なにやってるの恵ちゃ~ん?はやく~。」
慌てて追いかけて、横に並ぶと
「晶子さんって、なんだか思った以上に男前なんですね。」
と素直な感想を口にしました。
「そう?そういうのって自分じゃ分かんないもんなのよね。」
そう言いつつ、買った一升瓶の包み紙を破り、栓をあけました。
「開けちゃうんですか!?」
ビックリしながらその様子を見ていると、
「だって、勿体無いでしょう?供え物っていったって、死んだ人が実際に飲んだり、食べたりする訳じゃないし、」
「それはそうですけど…」
「それに貴方のおばあさんだって、一人でお酒飲むよりも、二人で飲んだ方が嬉しいわよ。」
そう言って、一升瓶から直接お酒を飲み始めました。
「おぉぉ…、」
見た目クールビューティな方が、一升瓶をラッパ呑みしている様はあまりに衝撃的で、
まさしく、「おぉぉ…」と言う以外の表現が思い浮かびません。
「プっっハー、いや~それにしても、まさかあの子の子供が、こんな可愛いく育つとはね~。」
さっきまで、そっくりだと言っていたのに…もう酔いが回り始めたのでしょうか?
でも、この機に、今まで質問されてばかりだったので、私からも色々聞いてみようと思いました。
だって、私もおばあちゃんの昔話には興味が有ります。
おばあちゃんは、昔話をよくしてくれましたが、
自分の過去。
特に、おじいちゃんと出逢う前の話に関しては、一切話してくれませんでした。
いい機会なので色々聞いてみたいと思いました。
「あの…」
「ん~、何かしら?」
…まず始めに何を聞こうか?
当たり障りの無いことからの方がいいかな?
趣味とか?特技?
いやいや、そんな事より!
「あの、晶子さんって、おばあちゃんとどういった間柄だったんですか?」
「………。」
実はさっきから、似たような感じの質問はしていたんですが、なんだか上手い具合にはぐらかされていました。
晶子さんは、立ち止まって少し間を取ってから、
「…う~ん、イタズラ仲間って感じ…のが、一番しっくりくるの…かな?」
そう言って、こちらへ振り返りました。
歯切れも悪く、要領の得ない答え。
振り返った彼女の目と私の目が合い、そのまま3、4秒たったでしょうか?
晶子さんは、いきなり吹き出して、
「いや~、恵ちゃんサイッコーだよ!貴方!
本当にあの子に瓜二つ!」
そう言ってケタケタと笑い出しました。
「いやいや、つい恵ちゃんがあんまりにも可愛いかったんで、イタズラ心が久々に芽生えちゃって、」
そこで一度、間を置くと
「大丈夫。私も貴方のおばあちゃんも過去にやましい事なんて、一切して無いから。」
晶子さんは、笑いかけながら、
「ただ、まあ実際に貴方のおばあちゃんと喋った事なんて、実は数える位しか無いんだけどね。」
「でも、なんていうの?私、こういう引っ込み思案な性格じゃない?だから、中々、友達とか出来なくて。」
「そんな時に、偶然、貴方のおばあちゃん見つけてさ。見た瞬間、似た者同志なんだ。ってなんか直感したのよ。」
「その時は、気付いたら、いつの間にか、話かけてたっけ。
その後も、なんだかミョーな仲間意識が芽生えちゃってさ。」
「ま、話してるのはいつも一方的にあたしだったんだけどね。」
話終わると、晶子さんは空を見上げ、何か色々と、思い返している様でした。
なんだか、おばあちゃんと晶子さんの関係は、凄くよく分かったような、全く分からなかった様な…
それでも、気になる事が1つ。
「それで、晶子さんやおばあちゃんは、結局何をしていたんですか?」
再度、晶子さんはこちらへ振り返ると、
「だから、イタズラよ。う~ん、なんて言ったらいいのかな?あっ!火遊びとか!」
…何処となく犯罪臭が…、っていうか、本当に悪い事してたんじゃ…
そんな、私の表情を読み取ったのでしょう。晶子さんは、
「あ~!だから大丈夫だって!私も、おばあちゃんもやましい事は一切無いから!
神に誓ったっていいわよ?」
そう言って、彼女は胸を張りました。
ここまで言いきられると、納得するしかありません。
その言葉を信じて、次の質問をぶつけようと口を開くと、
「あっ!」
彼女の驚きの声に、私の声は書き消されました。
「大変!恵ちゃん!」
晶子さんは、今日一番の真剣な顔で、
「お酒全部飲んじゃった。」
そう言って、空いた一升瓶を逆さまにしました。
「ゴメン!恵ちゃん!お駄賃あげるから、これとおんなじの買って来てくれない?」
両手を合わせて、お願いされたので、しぶしぶ了解すると、
私は、来た道を走って引き返し、さっきの酒屋さんを目指しました。
~休題~
「いい子に育ってるじゃないか?それに、あの頃のアンタにそっくりだよ…」
晶子は、空を見上げそう呟く、いや、語りかけた、の方が相応しいだろうか。
「人間としての生き方か…、ふふっ、その結果があの子なら、アンタの選んだ道は、間違いなく正しかったんだね。」
眩しそうに目を細めると、
「そうだったんだろう?…ゼロ。」
昔の名前で、彼女をそう呼んだ。
その名は、等の昔に捨てられた名。
この時代で、今もその名を憶えている者は、果たして何人いるのだろうか?
晶子の呼びかけに対して、
空は何も応えない、
雲も何も変わらない、
答える者は何処にも居ない。
まあ、あの頃だって、呼びかけても、余程気が向いた時以外は、何も応えない奴ではあったのだが…
「まあ、しない。と、出来ない。じゃあ意味は違うか…」
誰に言うでも無く、呟く。
だが、
一瞬、とてつもない強風が吹き抜ける。
抜けるような晴天で、風もほとんど吹いていなかった今日という日に。
晶子は、一瞬呆気に取られた様に空を見上げ、
口の端を上げ、にんまりと笑うと、
「そうかい、そうかい。死んでからも自慢したくなるような子かい。」
そう言って、上機嫌で晶子は再び彼女の墓へと、歩き出すのだった。
つづく