僕がロンドンにいた頃にお小遣いをもらっていた出版社が取り次いでいた売れスジ書籍は、「ナウ・アイ・コール・ヒム・ブラザー」(写真、リンク先はハードカバー版)。
著者は、アフリカ大陸の一国ジンバブエがローデシアとよばれていた頃に国家元首に君臨していたイギリス系アフリカ人のご子息アレック・スミス氏。
若いころは父親の名声をかさにきて放蕩三昧に明け暮れていた氏が、自身の薬物中毒を克服してからは黒人社会と白人社会の融和に尽力し、ジンバブエ共和国としての独立(1980年)までの道のりを記録した、渾身の一大ノンフィクションでした。
「ブラザー」が一般ブックストアをはじめ、イギリス全土の学校や教会の図書館からひっきりなしに注文があった86年当時というと、南アフリカ共和国に対してのアパルトヘイト批判
が世界的に最高潮に達していた頃だったので、ジンバブエは「エボニー&アイボリー」を具現化させたモデル国家として国際政治学者や大学生の研究対象となっていた。
それが今はどうだろう。
独立時の首相(大統領)ムガベは元々は独裁者気質であったとはいえ、後進に道をゆずることなく今なお権力の座に固執し続け、国民が疲弊している姿を伝えるニュースがあとをたたない。
■コレラ・食糧危機・経済破綻…大統領への辞任圧力強まるジンバブエ
(「産経新聞」12月24日)
■ジンバブエ大統領、「米国と西欧は能なしのバカ」と発言
(「CNN」12月24日)
ほか多数。
こうした構図はなにも国家国民の関係だけのことではなく、現に僕のまわりでも「リーダー」の度重なる慢性的なミスダイレクションに泣かされている方もいます。
辞めたくても諸般の事情でそう簡単には辞められない、「クビにしてくれ」といってるのに辞めさせてもらえない、という悲惨な無間ループ状態なのかも知れない。
それはさておき、71年ごろに書かれた、鳥が人類を凌駕するマンガ(手塚治虫著「鳥人体系」)には奇しくもローデシアのエピソードも出てきますが、鳥が黒人を攻撃しはじめる際の「結局は黒人も白人と変わらないじゃないか」というシーンと同じようなことを、アレック氏も感じているのだろうか。
「ヒム」というのがムガベのことだったら、なおさら、いたたまれなかったに相違ない。
ちなみにアレック氏は二年前の暮れ、ノルウェーでのクリスマス休暇を終えて母国に戻る途上、ロンドンのヒースロー空港で卒倒し、そのまま急性心不全にて急逝。
まだ60歳前の若さでした。