ブリテンの世界 | geezenstacの森

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MASTERPICE

ベンジャミン・ブリテン

 

曲目 ベンジャミン・ブリテン
1.青少年のための管弦楽入門(The Young Person's Guide to the Orchestra)Op.34(1946)
指揮/マルコム・サージェント
演奏/BBC交響楽団
録音1958
"Folksong Arrangements" 「民謡編曲集」より
2.The Foggy, Foggy, Dew 夜霧の露
3.The Sally Gardens 柳の庭
テノール/ロバート・ティアー
ピアノ/フィリップ・レッジャー
録音1975
4.マチネ・ミュージカル(Matinees musicales*)Op.24(1941)[Orch][5曲]
指揮/アレクサンダー・ギブソン
演奏/イギリス室内管弦楽団
録音/1983
5.シンプル・シンフォニー(Simple Symphony)Op.4(1933~1934/1934初演)[Orch][4曲]
指揮/ネヴィル・マリナー
演奏/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
録音/1973
6.The Last Rose of SUmmer 夏の最後のバラ(庭の千草)
7.The Ashgrove とねりこの木立(ウェールズの曲)
ソプラノ/サラ・ブライトマン
ピアノ/ジョフリー・サイモン
録音/1988
8.アメリカ序曲Op.27
指揮/サイモン・ラトル
演奏/バーミンガム市交響楽団
録音/1986
豪EMI 1664422

 

 整理をしていたらこんなものが出てきました。CD普及期にEMIのSTUDIOシリーズで発売された一枚ですが、どうもこのマスターピースシリーズは本国イギリスでも発売されていないようです。企画がEMIオーストラリアで、購入履歴を見るとシドニーの水族館のある近くにあったヴァージン・メガストアで買っていました。とっくに消滅していますから時代が知れますなぁ。このシリーズではもう一枚、オッフェンバックも買っているのですがこちらは行方不明です。

 

 オーストラリア人はイギリス連邦を構成する国ですから「ブリテン」を敬愛しているのでしょう。ここにはブリテンのエッセンスが詰まっています。1曲目はブリテンの代表作です。サージェントといえばこの曲を初演した指揮者です。そういう意味でこの演奏が採用された思うのですが、1958年の録音は音の鮮度はいささか劣ります。一言でいえば温厚な演奏でなのですが、聴き進むと交通整理が出来ていなくて打楽器群がやや調子はずれのところがありずっこけてしまいます。

 

 この曲は、英国放送協会(BBC)が制作した音楽教育映画 "Instruments of the Orchestra"(オーケストラの楽器)のために、1945年12月中旬から同月31日深夜にかけて作曲されました。映画は翌1946年11月29日に公開された。この映画ではマルコム・サージェントが指揮と解説(ナレーション)を行い、ロンドン交響楽団が演奏していました。映画の公開までに1年のブランクがありましたから、初演は同年10月15日に同じく指揮サージェント、解説エリック・クロージャー(後述)の下、リヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団によって初演された。こちらはSP録音なんですが、映画は高額録音なのでかなりいい音で残っています。それが下の演奏です。

 

 

 2、3曲目は「民謡編曲集」からの2曲です。最初は「The Foggy, Foggy, Dew 夜霧の露」でアメリカの民謡のようです。
When I was a bachelor, I liv'd all alone
I worked at the weaver's trade
And the only, only thing that I did that was wrong
Was to woo a fair young maid.
I wooed her in the wintertime
Part of the summer, too
And the only, only thing that I did that was wrong
Was to keep her from the foggy, foggy dew.

 

  あの時 俺らは独り者
  はた屋にいたものさ
  かわいいあの娘を
  口説いたが罪つくり

 

 ※夏のささやきよ 冬の語らい
  霧にも露にも 濡らしちゃならぬと
  抱いたが罪つくり

 

 

 2曲目は「Down by the Sally gardens」が正式な曲名のようです。こちらはアイルランド民謡で親しみやすいメロディです。テノールのロバート・ティアはけっこうブリテンの作品に参加してレコーディングを残しています。

 

Down by the Sally gardens my love and I did meet,
She passed the Sally gardens with little snow-white feet,
She bade me take love easy as the leaves grow on the tree,
But I, being young and foolish with her did not agree.

 

柳の庭にゆく道で 愛しい人に会いました
白い小さな足をして 庭を横切り告げるには
愛を自然に受け入れて 枝に木の葉の繁るまま
けれども僕は若過ぎて うなずけなかったその言葉

 

 

 さて、管弦楽曲の2曲目は「マチネ・ミュージカル」という作品で、ブリテンがアメリカ滞在中に ソワレ・ミュージカルの姉妹編として編曲したもので、原曲はロッシーニの歌劇からの旋律を借用して作られています。構成は以下の曲です。その昔、フジテレビが日曜日に日フィルを使った音楽番組を放送していた時のテーマ音楽が、この第1曲目の行進曲だったことを覚えています。

 

1.行進曲
2.夜想曲
3.ワルツ
4.パントマイム
5.常動曲

 

 ここでは、ギブソンはイギリス室内管弦楽団の弦の艶を生かした明るく爽やかなサウンドを引き出していて実に魅力的。あちこちにちりばめられたウィットやユーモアのセンスもなかなかチャーミングに聴かせてくれます。木管や金管のソロも生き生きとしていて好感が持てます。最終曲での下野の動きと共にオーケストラがスイングする様も実に良い感じです。昼下がりにコンサートの幕開けに相応しい明るい楽しさに満ちた演奏でした。マチネの1曲目のマーチが大好きで冒頭のファンファーレからしてカッコイイです。原曲はオペラ「ウィリアム・テル」第1幕第5曲「パ・ド・シス」です。5曲目の常動曲ではフルートのソロがブリテンらしく、上品でとっても爽やかです。ここでは、音源が見つからなかったのでアーサー・フィードラーの音源を貼り付けています。

 

 

 5曲目はまあまあ演奏される機会の多い「シンプル・シンフォニー」です。ブリテンは,意外なことに「交響曲第○番」といった曲を作っていません。この「シンプル・シンフォニー」という曲も交響曲というよりは,新古典主義的な雰囲気を持つ,組曲のような感じの作品です。ブリテン20歳の時の作品ということですが,さらに驚くべきことは,自身9歳から12歳までの作曲スケッチをもとに曲を作っている点です。ブリテンの早熟ぶりを示す名作です。弦楽合奏だけで演奏される曲ですので,室内オーケストラによって取り上げられる機会の多い曲です。ここではまさにぴったりのマリナー/AMSFによって演奏されています。マリナーにとっても十八番の作品でしょうに、爽やかな演奏になっています。4楽章すべてに気のきいたタイトルが付いているとおり,全曲に機知が溢れています。

 


 6、7曲目は何とサラ・ブライトマンが歌っている歌曲です。The Last Rose of Summerは「 夏の最後のバラ」ですが日本名は「庭の千草」の方が通りがいいでしょうね。

 

T'is the last rose of summer
Left bloomming alone;
All her lovely companions
Are faded and gone;
No flow'r of her kindred,
No rosebud is nigh,
To reflect back her blushes,
Or give sigh for sigh.

  

  夏の名残のバラが咲いている
  ひとり寂しく。他のものはみな行ってしまった
  おまえをひとりにはしない
  仲間達が眠るベッドにおまえの葉をかき集めよう
  まもなく私もあとを追う
  友情や貴重な愛が消えたとき
  誰がこのような寂しい世界にいきておられよう

 

が大意なのですが、日本では

 

   庭の千草も虫の音も
   絶えて淋しくなりにけり
   ああ白菊 ああ白菊
   ひとり遅れて咲きにけり

 

となってしまうのですね。次の「とねりこの木立」はウェールズ民謡です。

 

Down yonder green valley where streamlets meander
When twilight is fading I pensively rove*.
Or at the bright noontide in solitude wander
Amid the dark shades of the lonely ash grove.
Twas there while the blackbird was cheerfully singing
I first met that dear one, the joy of my heart.
Around us [as] for gladness the bluebells were ringing [springing]
Ah! then little thought I how soon we should part.
[The ash grove, the ash grove that sheltered my home.]
 

小川流れる緑の谷間を 黄昏のころさまよう 

 明るい昼間もただひとり
 とねりこの木陰をさまよう
 そこだったよ、
 ツグミが歌っていたときに
 はじめてあの娘と出会ったのは・・

 

 あのころの私は思いもよらず
 まもなくふたりが別れること
 今も変わらず 陽は緑を照らし
 ツグミは歌い続ける
 でも自然の美しさなんて
 わたしにとって何だろう?

 

 木霊よ、教えておくれよ
 美しいあの娘はどこにいるの?
 彼女は眠る
 とねりこの木立のそばの
 芝生のその下に・・・

 

 サラ・ブライトマンの歌う清楚でピュアな歌声が何とも郷愁を誘います。こんなCDが1998年つまり「タイム・トゥ・セイ・グッドバイ」の翌年に発売されていたんですね。知りませんでした。

 

 

 

 さて、最後は「アメリカ序曲」です。こんな曲がブリテンの作品にあるなんて知りませんでした。作曲は1941年なんですが、何と1983年11月8日にこのCDの指揮者サイモン・ラトルがバーミンガム市交響楽団で初演しました。ということは、作曲者の死後初めて演奏されたということです。この曲もともとアルトゥール・ロジンスキーとクリーヴランド管弦楽団の招聘を受けて書かれたものだそうですが、どういう訳かブリテンが国に帰ってしまい、更にはロジンスキーもオーケストラを辞任したためお蔵入りになってしまったという経緯があります。若き日のアメリカ時代の作品。ニューヨークで書かれたアメリカ序曲なのに、全然アメリカっぽくありません、実に不思議な曲。途中テンポが速くなるものの、ゆっくりしたテンポがメインの、いかにもブリテンらしい独特の雰囲気を持った作品です。