こちら空港警察 | geezenstacの森

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こちら空港警察
 

著者:中山七里
出版:株式会社KADOKAWA
 

 

 成田空港でGS(グランドスタッフ=空港業務スタッフ)として働く咲良は人気の芸人の帰国を知り、芸能人を間近で見れることにワクワクする。しかし、ゲートに現れた人気芸人・瀬戸は空港警察に先月から着任したばかりの仁志村賢作に身柄を確保されてしまう。普段から、「役立たず」と陰で言われている空港警察の行動に驚く咲良。何と瀬戸には麻薬密輸の容疑が掛かっているらしい。しかし、瀬戸の身体には麻薬犬もTDS(検査機器)もX線も金属探知機も反応を示さなかった。とんでもない濡れ衣だと瀬戸は激昂するが、仁志村は意外なモノに着目し、瀬戸を追い詰め始める。---データ・ベース---

 

 小生の読んだのは四六判と呼ばれる単行本ですが、この6月には文庫版が発売される様てです。もともとは「野生時代」2022年12月号〜2023年9月号に掲載されていたものです。空港警察や空港で働く人たちが関わることになる様々な事件が起き、新しく就任した仁志村署長が中心となって解決していくストーリー。全部で5話ありますが、最後のエマージェンシーランディングとテロリズムはつながっており、その流れが自然で、あっという間に読み終えてしまうくらい、引き込まれます。普段通過点でしかない空港での、搭乗口でのトラブル、管制塔での事件、どれも新しく知識がつくだけでなく、普段伺いしれない世界に足を踏み入れることができます。

この本の章立てです。

 

1. セレブリティ
2. ATB(エアーターンバック)
3. イミグレーション
4. エマージェンシー・ランディング
5. テロリズム

 

 この小説は、実際に起こった事件がベースになっているものもあり非常にリアリテイがあります。折しも、ちょうど現在成田空港は拡張工事で予定する滑走路の新設・延伸の用地取得にめどが立たないとして、成田国際空港会社(NAA)が強制的な取得を可能にする土地収用法の適用に向け、手続きを進めることを検討しているというニュースが流れています。実際、成田空港では、訪日外国人や物流など増加する航空需要に対応するため、既存のB滑走路(2500メートル)の1000メートル延伸と、C滑走路(3500メートル)の新設工事が計画されています。そして旅客ターミナルや貨物地区の集約と合わせ、「第2の開港」と呼ばれる国家プロジェクトが計画されていますが、今のままでは供用開始は2029年3月末の予定より遅れる見通しです。

 

 さて、この小説に出てきた実際の事件です。ピックアップすると次の様な事件が登場しています。

・名古屋入管のウィシュマさん死亡事件
2021年3月6日、名古屋入管(名古屋出入国在留管理局)に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件

 

全日空61便ハイジャック事件---1999年7月
飛行中の全日空61便のコックピットに男が侵入し、機長を刺殺して操縦を図った、日本におけるハイジャックで人質に死者が出た初めての事件


・三里塚闘争---1966〜現在も係争中
新東京国際空港(現・成田国際空港)建設をめぐる反対運動 。
1960年代後半から70年代にかけては、デモ、座り込み、バリケード構築などが行われ、機動隊との大規模衝突も発生。1971年の「三里塚第二次強制代執行」では死者を出す激しい流血の衝突となり、日本の戦後社会運動史に大きな影響を与えています。



 

・成田空港管制塔占拠事件---1978年3月25-26日

1978年(昭和53年)3月26日に発生した、三里塚芝山連合空港反対同盟(反対同盟)を支援する新左翼党派が集団的実力闘争を行い、開港間近の新東京国際空港(現:成田国際空港)に乱入して、管制塔(旧管制塔)の機器の破壊を行った事件である。この事件により、新東京国際空港の開港が約2か月遅れ、同年5月20日となりました。

 

 ストーリーは成田空港の警察に、物腰柔らかで、一見人当たりの良い感じの署長・ 仁志村賢作が着任することで始まります。ここに、ヒロインの成田空港でGS(グランドスタッフ=空港業務スタッフ)として働く咲良がいずれのストーリーにも絡んでいきます。まあ、見方によっては仁志村がサクラを利用しているとでもいう展開です。二人はよく話すようになるんですが、この仁志村署長、中山七里氏の他の作品「越境刑事」「逃亡刑事」のヒロイン、"県警のアマゾネス"こと千葉県警捜査一課の高頭冴子のトレーナーだった元上司なのです。実は彼女もこの小説にはちょい役で登場しています。まあ、中山氏はいろいろ登場人物を使い回しています。

 

 仁志村は、その冴子をして"鬼村"と言わしめるほどの、人間嫌いで酷薄、唯我独尊の非情な警察官で、"罪を憎んで人を憎まず"ではなく、どうも犯罪者そのものを憎んでいるのでは?という、かなり優秀だけど、狡猾にして非情な署長さんというイメージで描かれていきます。

ですから、最初の方では咲良も最初は仁志村のソフトな印象に好感を持つんですけど、その実態を知るほどに、ちょっと懐疑的になっていきます。

 

 小説の中では一言で言って、かなり無茶もしますが、硬派で超正統派の優秀かつ切れ物、凄腕の署長さんって感じですね。この小説は成田空港を題材にして、空港のGSの視点で物語を展開しています。咲良が好感を持つ人気のお笑い芸人が空港警察に身柄を確保される事件「セレブリティ」、話の中では、いつもはクレーマーな態度のタチの悪い商社マンが妙に大人しいなと思ったら搭乗口に現れず咲良が渋々探すことになったり、ようやく飛行機に乗ったと思えばこの男は"爆弾を仕掛けた"といきなり言い出し、ATB(エアーターンバック)して飛行機は成田へUターン。

 

とは言え、この件はメインの事件ではなく、皮肉なことにこのATB(エアーターンバック)が功を奏することになる捻り技の一編「ATB(エアーターンバック)」。そして、何も話さない、偽造パスポートで入国の女性は実は中国から逃げてきた人で、中国公安部が彼女はテロリストだから身柄を引き渡せと横暴にいってくる話は、ほんとうに頭にきます。それがひいては異臭騒ぎがおこり、さらには職員が殺されるという事件に発展します。ここで仁志村署長が名推理をする中、アイデアを出した咲良もお手柄の「イミグレーション」は、上のウィシュマさん事件を引き合いにたしながらの苦い展開になります。

 

 飛行機がハイジャックされ、管制室主管が犯人を身内に説得してもらおうと管制室に連れてくるが、実は…と展開する、かっての成田空港反対運動絡みの話に関連する「エマージェンシー・ライディング」は読み応えあります。最終話はその続編といった展開で、テロリストの罠にハマった管制室主管とそれに怒る仁志村署長が描かれ、さらには事態は総理大臣をも引き込む国家的な事件になります。何しろテロリストに管制塔が占拠され成田空港が閉鎖されるのですから国際信用問題にもなっていきます。

 

 ここでお供えだけの本部長の代わりに副本部長の仁志村所長がテロリストたちの裏をかくかなりヤバい作戦を決行し、事態は裏の裏をかく見方をも騙す展開となります。いつもの中山氏の作品とは一味違う展開とやはり持ち味の大どんでん返しが痛快な「テロリズム」は意外なオチがつきます。これはシリーズかが望まれる一作です。