悪意 | geezenstacの森

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悪 意

 

著者:東野圭吾

出版:講談社 講談社文庫

 

 

 

 人はなぜ人を殺すのか。東野文学の最高峰。人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。超一級のホワイダニット。加賀恭一郎シリーズーーーデータベース---

 

 加賀恭一郎シリーズ第4弾です。面白いのでいいペースで読めてます。練りに練られたお話という印象、すっかり騙されてました。これは読み返したい。犯人も加賀刑事も執念がすごい。このシリーズは色々な書き方をされていて、飽きずに読めています。小生は作品順に読んではいないのですが、どんでん返しの面白さからいえばこれが最高作品でしょう。

 

この本の章立て

1.野々口の手記の章 ~事件~

2.加賀の推理の章 ~事件捜査~

3.野々口の手記の章 ~犯人逮捕~

4.加賀の推理の章 ~動機の捜査~

5.野々口の手記の章 ~動機の告白~

6.加賀の推理の章 ~事件の真実~

 

 本書はジャンルでいうとミステリーに分類されますが、その中でもホワイダニット(Why done it)=犯行に至った動機の解明を重視した作品です。タイトルの通り、『悪意』とは何なのか、本書で語られるのですが、その正体に驚くとともに、なるほどと腑に落ちました。

これは何度も話が覆るので、最後まで気が抜けません。自分もまんまと引っかかってしまった。 野々口は弱くて可哀想な立場の人間で、日高は傲慢で下劣な人間だと決めつけていました。しかし、 本当は日高は優しい人で、野々口は悪意に満ちている人だったという逆転劇が展開されます。 物語の序盤の方で犯人がわかり、事件の真相や動機が暴かれていくなか、最初に出てきた猫の殺害の件には一切触れてなかったので何かあるのではないかと思っていたのだが最後の最後に出てきて、なるほどなと感心しきりです。また、途中突然シャンペンのドンペリが登場しますが、途中の段階では唐突に出てくるので摩訶不思議なシチュエーションですが、これも伏線の一つです。東野氏の 小説の素晴らしいところは、全てに意味があることでしょう。何気ない描写にもそこにはちゃんと意味があるのです。これは彼の作品がヒットする最大の魅力でしょう。 

 

 読む度に、思うけど、うまい作家です。「悪意」ってタイトルだけ見れば全くイメージが湧きませんが、良くもまあ題名をつけたもんです。形は手記の形式で主観的な展開で事件が語られていきます。犯人の野々口と刑事の加賀の視点は真逆です。事件の記録、事件の発端からはては、小説の舞台となった幼い頃の聞き取りまで、事件の真相を追っていきます。読者としては、その度に、あちらにこちらに振り回されます。なるほど、視点を変えれば世の中の目に見えるもが違ってきます。そして、最後にはタイトルの「悪意」の深層心理が描かれます。しかし悪意って怖い。更に、その思い込みの強さが恐しいことに気付かされます。野々口が恐ろしいと思ったのは、暴力そのものではなく、自分を嫌う者たちが発する負のエネルギーだったのでしょう。

 

 この小説は1996年に発表されたものですが、2001年にテレビドラマ化されています。なぜか加賀恭一郎シリーズながら主人公の刑事の名前が変えられてしまい、そういう面では少し残念なドラマ化でした。ただ。放送されたのがNHKということもあり、変な脚色はなくいつもドラマの主人公に絡むヒロインなどは設定していなかったのは良かった点です。今の時代なら、阿部寛がドラマで加賀を演じていますから、再ドラマかがあったら是非とも加賀恭一郎は阿部寛で演じてもらいたいものですなぁ。