ヘンゲルブロック
ヴィヴァルディとバッハ
曲目/
ヴィヴァルディ
1.歌劇「オリンピアーデ」 序曲(Sinfonia) ハ長調 RV725 5:45
バッハ /管弦楽組曲 No.4 ニ長調 BWV1069 *
1. Overture 11:55
2. Bourree 1 & 2 2:55
3. Gavotte 2:00
4. Rejouissance 2:26
ヴィヴァルディ 弦楽のための協奏曲 イ長調 RV.158
1. Allegro molto 2:27
2. Andante molto 1:59
3. Allegro 3:11
バッハ /カンタータ No.42「されど同じ安息日の夕べに」 BWV42 - 1. Sinfonia * 6:42
ヴィヴァルディ 協奏曲集「調和の霊感」 Op.3 No.10 ロ短調 RV580 (4vn,vc)
1. Allegro 3:29
2. Largo - Larghetto - Adagio - Largo 2:06
3. Largo - Larghetto - Adagio - Largo3. Allegro 3:07
バッハ 3つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1064
1. Allegro 6:04
2. Adagio 6:11
3. Allegro 4:06
指揮/トーマス・ヘンゲルブロック
演奏/フライブルク・バロック・オーケストラ
録音/1992.IX.11-15 Maria Minor, Utrecht
1991/02/10-15 Ausenkirche, Berlin *
E: フランシス・エッカート、ヴェルナヘ・ビスチェク
DHM 88697281822 -8
ヴィヴァルディ(1678~1741)とJ. S. バッハ(1685~1750)は、ほぼ同時代に生きていました。この二人の作品をヴィヴァルディ→バッハ→ヴィヴァルディ→バッハ→ヴィヴァルディ→バッハと、交代で登場させようという企画のディスクです。今から300年近く前、バッハは初めて見たヴィヴァルディの譜面に息を飲みます。「イタリア体験」というカルチャーショックでしょう。オランダに留学していたヨハン・エルンスト公子が持ち帰った様々なスコアの中にそれはあったという。公子からヴィヴァルディの協奏曲を鍵盤楽器用にアレンジするよう依頼を受けたバッハは即座にその仕事を請け負い、ヴァイヴァルディ研究に没頭しました。歌劇「オリンピアード」序曲を聴いて考えます。緩急織り交ぜて、愉悦と悲哀が錯綜する。物語解らずとも、その音楽が歌劇のすべてを象徴するように響きます。先輩のヴィヴァルディと比べても古めかしく感じる。演奏効果を狙った曲を繰り出していたヴィヴァルディが、何だかポップミュージックのように感じられるように鳴ります。
ヘンゲルブロックの演奏は、バッハの管弦楽組曲4番ではトランペットとティンパニのない初版によっています。いつも聴く華やかな印象とは全く異なるもので単独の作品として聴くと全く別の印象になります。その第一楽章です。
ヴィヴァルディ「弦楽のための協奏曲」は単に「シンフォニア」と呼ばれることもあります。ヴィヴァルディの調和の霊感第10番は、バッハによって「4つのチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1065」に編曲されたことでも知られています。
バッハ /カンタータ No.42「されど同じ安息日の夕べに」BWV42からのシンフォニアです。
演奏をしているフライブルク・バロック管弦楽団(Freiburger Barockorchester)は、ドイツの古楽器オーケストラで、1987年の設立からこのオーケストラの音楽監督を務めたのが古楽のみならず芸術広範に深い造形をもつヘンゲルブロックです。数々の優れた録音がある中で、本盤は特に目立つものではないかもしれませんが、レパートリー的にはもちろん彼らのメインとなる楽曲であり、活力に富んだサウンドを繰り出しています。テンポはいわゆるピリオド奏法に従順な速さを維持したもので、冒頭のオリンピア序曲は、ヴィヴァルディらしいバロック的な重さと、シンフォニックな幅のある響きが印象的ですが、全般に足取りの速い軽やかさで、淡々とした表現でまとめています。バッハの管弦楽組曲は、木管楽器の印象が支配的で、特有の柔らかい肌合いが感じられます。
いずれの楽曲でも、同等のアプローチであり、作品の個性を強調するような方向性を与えず、むしろ全体的な均衡性の美観に貫かれていることは、当盤に限らず近代のピリオド奏法に共通の事項でしょう。しかし、まずはこのオーケストラの高い技術を堪能するのに、十分な内容になっています。
自分にないものを徹底的に吸収しようとする貪欲さがある意味バッハの音楽を作ります。また、バッハが4台のチェンバロ用に編曲した4つのヴァイオリンのための協奏曲「調和の幻想」作品3-10にみる憂愁と憧憬。原曲の持つイタリア的光と翳は、ヴィヴァルディの才能を見事に表出しています。均整のとれた彫像の如く美しいものになっています。
最後に収録されているバッハの「3つのヴァイオリンのための協奏曲」は、バッハがこの楽曲から編曲したとされる「3台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV1064」のスコアに基づいて復元されたもので、BWV番号も復元を示すRが付いています。楽曲としては、やはり最後に収録された2曲の聴き味が大きく、颯爽とまとめた直線的なスタイルの中で、細やかなバロック的風合いを醸し出した貫禄を感じさせる演奏となっています。