佐渡裕と辻井伸行のラヴェルとボレロ | geezenstacの森

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佐渡裕と辻井伸行

ラヴェルとボレロ

 

曲目/

ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調

1.アレグラメンテ    8:22

2.アダージョ・アッサイ    10:13

3.プレスト    4:34

4.亡き王女のためのパヴァーヌ    5:46

5.ボレロ    15:01

ダフニスとクロエ 第2組曲 

6.夜明け    5:38

7. 無言劇    5:54

8.全員の踊り    4:26

アンコール

9.ドビュッシー/月の光    5:09

 

ピアノ/辻井伸行

指揮/佐渡裕

演奏/ウィーン・トンキュンスラー管弦楽団

合唱指揮/クリストフ・ヴィゲルバイヤー

合唱/ノイエ・ヴィーナー・シュティメン 合唱 6.8

 

録音:2018/06/02-05  ウィーン、ムジークフェラインザール(ライヴ収録:1-3、9)
        2019/09/30-10/1   グラフェネック、オーディトリアム

 

エイヴェックス AVCL-84109

 

 

 このCDジャケットに使われている書体といい装丁といい少々違和感があるなぁと思っていたら、ジャケット裏面に「Made in Germany」と印刷されているではありませんか。そして、プレスはソノプレスということでベルテルスマン翼下の工場でプレスされています。インターナショナル仕様のデジパックになっていて、解説書は59ページにも及び、ドイツ語、英語そして日本語で書かれています。ただし内容は大したことはありません。デザインは統一されていて、二の丸と思しき紅丸が半円と共にデザインされています。発売はエイヴェックスになっていますが、制作経緯からするとトーンキュンスラーの自主録音をライセンス販売しているものでしょう。辻井伸行とのピアノ協奏曲のみライブ収録で他のラヴェル作品はセッション録音となっています。こちらの会場は夏の音楽祭が開催されるところで、トーンキュンスラー管弦楽団の本拠地の一つです。CDの解説には録音スタッフの写真も掲載されていますが、皆青年で調整卓もなくモニタールームにパソコンが1台置いてあるだけの簡素なシステムです。ただ、マイクだけはしっかり立てています。

 

グラフェネック、オーディトリアム

 

 さて、最初はメインのラヴェルのピアノ協奏曲です。ただし、聞き始めてがっかりします。収録音のレベルが低く通常のセッションでは考えられない小さな音で始まります。これは録音バランスに問題があるCDでしょう。

 

 この曲、ある意味では奇妙な構成を持っています。両端楽章はアメリカでの演奏旅行を想定しているために、ジャスやブルースの要素をたっぷりと盛り込んで、実に茶目っ気たっぷりのサービス精神満点の音楽になっています。そういうところが、バーンスタインの弟子を自認している佐渡氏ですしラヴェルが得意でしたからこういう曲だと血が騒ぐのでしょうか、とにかく、ジャズ心のある人の演奏ですからノリノリの雰囲気が伝わってきます。そして、いつもながら感心するのは辻井氏のピアノテクニックです。最近はレパートリーも広がり表現範囲も広がっていますが、何よりもすごいのはそのアンプ力です。音をひとつづつ聴いて積み上げていっているのでしょうが、その音も粒がそろっていて癖がありません。師匠は川上昌裕しでしょうが、音での譜面から純粋に音楽を吸収しているが故の粒立ちでしょう。写真からここではスタインウェイを使用しているようですが、自宅でもスタインウェイを使っていますから違和感もないでしょう。切れのいいピアノタッチでサクサクと演奏しています。佐渡市のサポートも万全です。

 

 それでいて、その中間の第2楽章は全く雰囲気の異なった、この上もなく叙情性のあふれた音楽を聴かせてくれます。とりわけ冒頭のピアノのソロが奏でるメロディはこの上もない安らぎに満ちています。ロマンチストのポリーニやミケランジェロの繊細さで思い入れたっぷりにピアノ・ソロを聴かせてくれます。

 

 第3楽章は、またまた跳ねるようなピアノで十分スィングしています。それにしてもラヴェルのオーケストレーションは多彩です。第1楽章もそうですが、鞭の音がいいアクセントになっています。よく聴くとこの楽章の中には「ゴジラ」のメロディが潜んでいます。ヨーロッパでのコンサートは終演とともに割れんばかりの拍手ではなく、本当に音楽を楽しんだという慈しみの拍手です。

 

イメージ 2

 

 

 

 

 

 さて、このCDではボーナストラックとしてコンサートでアンコールで披露されたドビュッシーの「月の光」が収録されています。幾分ラヴェルのテンポに引き摺られているのか単独での演奏より速いテンポで演奏されていますが、かえって当時のライブの盛り上がりを彷彿とさせる演奏になっているような気はします。

 

 

 さて佐渡裕のラヴェルの中では多分何回も登場している「ボレロ」です。セッションでは、すでにフランスのラムルー管弦楽団とも録音していましたし、映像でも残っているものもあります。それらの中では多分一番遅いテンポで演奏されています。ただ、15分というのは天田の演奏の中では比較的スタンダードなテンポではあります。当のラヴェルは17分程度というのが希望であったらしいのですが、そういうテンポでは一流のオーケストラでなくては多分弦が崩壊する遅さです。まあ、このぐらいのテンポがちょうどいいのでは無いでしょうか。セッション収録だけあってオーケストラはなかなかの力演をしています。トロンボーンなど結構拳を聴かせています。ですが、全体を通して言えることはやや予定調和的なまとまり方をしていて、何度も録音している割には成長の跡が感じられないのが残念です。佐渡氏は以前も何かで話していましたが音楽の両輪としてのオペラへのアプローチがまだ弱いような気がします。せっかく音楽の中心のヨーロッパで長く活躍しているのですから、もう少しオペラへのアプローチを深めてもらいたいものです。

 

 

 ところでヨーロッパに長く住む佐渡氏です。こんな楽しい動画がネットに上がっていました。しばし、ウィーンの街並みを散策してみてください。