組曲「惑星」チャールズ・グローヴス/ロイヤル・フィル | geezenstacの森

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組曲「惑星」

チャールズ・グローヴス/ロイヤル・フィル

 

曲目/

ホルスト「惑星」

1.火星(7:41)

2.金星(8:21)

3.水星(4:03)

4.木星(8:13)

5.土星(8:57)

6.天王星(5:54)

7.海王星(8:56)

 

指揮/サー・チャールズグローヴス

演奏/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

 フィルハーモニア合唱団女声コーラス

 

録音1988/07 ワトフォード・タウン・ホール

P&E: ブライアン.B. カルバーハウス

 

Castle Communications CIRRUS CICD1015

 

 

 1992年6月に亡くなったグローヴスの最後の録音だそうです。いろいろな発売元からリリースされていますが、このCDは最初期のものです。CDの解説はジェフェリー・ロングという人物が書いているのですがそのコピーライトが1987年になっていますから多分最初のリリースでしょう。この「Castle Communications」は1983年にテリー・シャンド、クリフ・デーン、ジョン・ビーチャーによって設立されたイギリスの独立系レコードレーベル兼ホームビデオ配給会社でしたが2007年に活動を停止しています。もっとも、ロックを中心として活動していましたからこのCDは珍しいレパートリーと言えるでしょう。

 

 ところで演奏しているロイヤルフィルは調べてみるとレコード時代は一枚もこの「惑星」の録音を残していません。172種の「惑星」の録音を網羅していると思われるこちらのサイトでもステレオ以前は一枚も紹介されていません。イギリスのオーケストラでは珍しいといってもいいでしょう。ところがCD時代以降になると7種の録音がリリースされています。

 

プレヴィン-テラーク 1986

グローヴス-Castle Communications 1987

ジェームズ・ジャッド-DENON   1991

ヴァーノン・ハンドリー-インターサウンド 1993

マイク・パット-ギルド 1993

オーウェン・アーウェル・ヒューズ-apex   2004

フランク・シップウェイ-DENON    2009   

 

 プレヴィンの録音も所有していますがテラークらしくない冴えない録音でしたのでコレも期待していなかったのですが、意外や意外冒頭の「火星」から爆演が繰り広げられます。以前取り上げた「人生の50枚」でもこのCDをリストに入れているほどです。ただ、この時はこのCDは記事としては取り上げていませんでした。ほとんど世の中ら知られていませんし、基本としているYouTubeの音源がなかったからです。ですが、最近はやはりこの音源がアップされています。そんなことで演奏の確認ができますので取り上げた次第です。

 

 この録音プロデュース兼エンジニアをブライアンカルバーハウスが勤めています。結構この人の録音は素晴らしいものが多く、このブログでも以前ワルター・ジュスキントのコダーイのアルバムを取り上げていますということで、この演奏も大変素晴らしい録音となっていました。

 

 ロイヤルフィルといえばポップスからクラシックまで幅広い活躍をしているオーケストラですが、その演奏には結構ムラがあり、やっつけ仕事的なものも多いのですがこのアルバムは多分ピカイチのレベルではないかと思われます。そして、グローヴスの残した録音の中でも10指に入るものだと思われます。

 

 加えて、録音が素晴らしいのです! 馬力のある録音で、ケトルドラムのにぎにぎしい響きと、重厚な低音からきらめくような光まで見事に捉えています。また普段はあまり聞き取りにくいオルガンの響きですが、この録音ではその重低音部分をしっかりとサポートしています。まぁ、マイナーなところからの発売でしたから、日本では全く話題にならなかった演奏ではありますが、ネットで確認するとあちこちでやはりこの録音演奏が賞賛されています。

 

 プロデューサーを務めているカルバーハウスは、1972年まではEMIの所属でした。それ以降はフリーになってこういう録音を数手がけています。フリーになった頃は、彼はエンリケ・バティスの録音を結構手広く行っていたようです。EM Iの録音の中でも、彼の手がけたものは結構ダイナミックな録音のものが残っているような気がします。まぁそういう経緯もあり、このレコーディングは最初のスネアドラムの打ち込みからして興奮物です。バイオリン軍のコルレーニョ奏法による調べに乗って、左右1杯に広がったステレオの臨場感のある演奏が、スピーカーの間の音場を作り上げています。この戦いの音楽を表す楽章は名演が多く、過去にもいくつか取り上げていますが、ここまでの爆演型はなかなか出会うことができません。打ち鳴らされるドラの音も強烈で、まぁ最初から惑星の世界へ借り立ててくれます。

 

 

 火星の冒頭の弦楽群のコル・レーニョのリズムがステージいっぱいに拡がって展開します。ここに打楽器軍のスネアドラムの刻み、ティンパニのトレモロ、そしてドラの響きといやが上でも不気味さが漂う中をタフな金管群が咆哮します。ややハイ上がりかなとも感じますが、重厚な低音から煌めくような高音まで見事に捉えて再現します。コーダ付近で現れるオルガンの響きも聞き取れない録音が多い中ここではしっかりと聴き取れます。

 

 金星は朗々たるホルンの独奏で始まります。続く木管による柔らかい響きと、さらにハープの優しい調べが、前曲の騒々しさをかき消すような甘いメロディーを繰り広げます。テラー区はワンポイント録音でしたが、ここではマルチマイク録音がしっかり寄与しています。プレヴィンの録音から1年後ですから、オーケストラはその音作りをしっかり学習していたのでしょう。また、1985年から音楽監督をしていましたからオーケストラのレベルも上がった時期の録音というのもプラスに作用しています。

 

  水星は「金星」に続いてハープやチェレスタがキラキラと輝きます。もはや木管のアクロバティックなアンサンブルに驚くこともありません。終結も生真面目に閉じます。もっとコミカルでもよかったかな。

 

 木星は最近は、火星よりも、この木星の方が演奏される機会が多いのか、単独で取り上げられることもしばしばです。チャールズ・グローヴスという指揮者は、イギリスでは中堅でEMIには結構録音が残っていますが、日本ではあまり紹介されることがなかったように思います。ただBBCのオーケストラと結構長く付き合っていましたので、イギリス音楽には精通していたでしょう。それゆえこのホルストも実演では、何度も演奏したことがあるのでしょう。ただ、ここでは組曲の中の一曲としてのアプローチです。結構早めの店舗でぐいぐい突き進んでいきます。通常中間部アンダンテ・マエストーソでは、ここでテンポをぐっと落とし「お涙頂戴」的な演出になる演奏が多々ある中で、これらとは全く次元が異なります。

 

 土星は神秘的な開始から、コントラバスが第1主題を奏で、老年の衰えを仄めかします。全楽章の中で一番演奏時間の長い楽章で、ホルスト自身は一番気に入っていたのがこの楽章です。智勇幹部以降はフルートとハープが活躍しますが、通常はフルートの戦慄線を浮かび上がらせ、ハープは添え物的に鳴らすことが多いのですが、ここではハープの和音の中をフルートの調べが謳っています。改めて聴くとハッとさせられるところです。なんか土星の輪(ハープ)の中をフルートが遊泳しているような響きです。

 

 天王星ではロイヤル・フィルの金管群が大暴れします!特にホルンと弦楽のそうする第2主題はゾクゾクします。そして続くチューバのオクターブ・ユニゾンが登場すると最高潮に達します。ただ、この演奏、最後の前奏の部分だけが別撮りのようて、わずかに編集ミスがあります。

 

 最後の 海王星は冒頭でフルートが第1主題を奏で、美しい響きがハープ、弦、チェレスタによってひとしきり続きます。途中から女性コーラスが加わりますが、歌詞のないヴォカリースで歌われます。この部分ホルストの指示では「合唱団は、隣の部屋に置く。部屋の扉は、曲の最後の小節まで開けておき、ゆっくりと静かに閉じる。合唱団、扉、副指揮者達(必要な場合)は、聴衆から完全に見えないようにする」と指示が書かれています。まあ神秘的ですなぁ。

 

 さて、幻想的な惑星ですが下の音源で多少なりとも管さがわかっていただけたらなぁと思います。残念ながらこの演奏は今は廃盤になっています。