スメタナ四重奏団のハイドン、シューベルト | geezenstacの森

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スメタナ四重奏団

ハイドン、シューベルト

 

曲目/

Haydn; String Quartet No. 39 C-dur op.33 - 3 Hob.III: 39 「鳥」

1. Allegro moderato    6:44

2. Scherzo : allegretto    2:49

3. Adagio    5:59

 4. Finale : rondo presto    3:15

Schubert; String Quartet No. 10 Es-dur D87 

1. Allegro moderato    6:16

2. Scherzo : prestissimo    1:47

3. Adagio    6:38

4. Allegro    6:00

Schubert; String Quartet No. 14 d-moll D810 "死と乙女" *

1. Allegro    11:37

2. Andante con moto    10:54

3. Scherzo : allegro molto    3:29

4. Presto    9:52

 

演奏/スメタナ四重奏団

 

録音/1982/03/15

  1979/03/19* ルガーノ

 

DOCUMENTS 224074-7


 

 2000年代、一番元気のあったレーベルがmenbran率いるドイツのレーベルでした。そのヒストリカル物を10枚組のボックスセットで大量にリリースし、我々を魅了してくれたものです。現在では当初他社のレーベルとして存在し、その後当社に買収されたレーベルとしては下記のモノが挙げられます。
 ・ARS MUSICI
 ・NCA
 ・NUOVA ERA
 ・ALLEGRIA
 ・CONCERTO ROYALE
 ・RPO 
 ・SCANDINAVIAN CLASSICS

 

 これらの中で、RPOなどは膨大なロイヤルフィルのデジタル音源を所有し、廉価なボックスセットを発売していました。という事で。これはそのDOCUMENTSレーベルの中でもアーティストではなく室内楽に的を絞ったボックスセットになっていました。日本では90年代に放送音源を使用した「ANF」という半分海賊レーベルがありましたが、それによく似ています。ここではルガーノ放送局の音源を利用したソースをCD化して発売していました。今回取り上げているのは、そのセットの7枚目に収録されているCDです。

 

 スメタナ四重奏団はチェコ音楽院内で結成されたQt.で、1945年公式にデビューしています。指揮者のV.ノイマンを第1Vnに、第2Vn:L.コステツキー、Va:J.リュベンスキー、Vc:A.コホウトで最初はスタートしました。ただ、ノイマンはターリヒからチェコpo.の首席指揮者を引き継ぎ、'47年にノヴァークに交代しています。その後、'56年Vaがシュカンパに交代した以外、そのメンバーで活動を続け、チェコで最も実力と知名度を誇るQt.として国際舞台で活躍しまはした。日本への来日頻度も高く、スプラフォンの看板アーティストでしたが1989年に解散しています。ここに収められた演奏は1980年頃と比較的新しいもので、晩年の演奏を聴く事が出来ます。

 

 いずれも正規レコ―ディンクのある曲目ばかりで、そういう意味では十八番の演奏と言えるでしょう。最初のハイドンの弦楽四重奏曲第39番ハ長調op.33-3は、1781年に作曲された弦楽四重奏曲である。まとめて出版されたop.33「ロシア四重奏曲」6曲(第37-42番)中の3曲目であることから、「ロシア四重奏曲第3番」とも呼ばれています。また、第1楽章の第2主題が鳥のさえずりを思わせることから、「」四重奏曲というニックネームで知られ、「ロシア四重奏曲」の中でも、最もよく知られている。

第1楽章 Allegro Moderato「鳥」というニックネームは、この楽章の第2主題が、鳥のさえずりを思わせるところから来ています。掛け合いによる2つのヴァイオリンの二重奏はすこぶる魅力的です。このスメタナの録音はコロムビアにはライブで収録されたものもいくつかあれますがねそれは正規の録音に準ずるもので、かなり編集が加えられていますが、ここで聴く演奏は放送音源という事もあり、更に生々して迫力と彼らの息遣いがストレートに伝わってきます。

 

 2曲目の当時16歳だったシューベルトが自身の家族と一緒に演奏するために作曲し、実際に演奏されたものと考えられています。そのため、海外ではこの作品を「家族」や「家庭」を意味する "Haushaltung" という愛称で表記される場合もあるほどです。スメタナはこの2曲をセットにした正規録音を残しているほどで、よほどこの組み合わせを気に入っていたのでしょう。

 

 面白いことにこの「第10番」という通し番号は、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版された旧シューベルト全集(で付けられたものですが、これはシューベルトの死後から間もない1830年に本作が出版された際に、『第11番 ホ長調』(D 353)と共に「作品125」として出版されたため、同時期の作品と誤解されたことが原因で、実際にこの作品が作曲されたのは1813年の11月であることが分かっていて、これは『第6番 ニ長調』(D 74)と『第8番 変ロ長調』(作品168, D 112)の間という事がいえます。

 

 この作品の第2楽章などわずか1分半ほどの演奏時間ですが、家族の笑い合う語らいがややユーモラスに演奏されています。メンバーにとっても楽しい語らいの音楽なのでしょう。第3楽章も何気なくあっさりと弾いているように思えて、よく聴くと互いの呼吸を合わせて弓使いも実に自在です。この阿吽の呼吸がスメタナの長い歴史の中で紡ぎだされたものなのでしょう。実に楽しい演奏です。

 

 

 さて、最後はメインのプログラムの弦楽四重奏曲第14番の「死と乙女」です。第2楽章が自身の歌曲『死と乙女』(作品7-3, D 531)に基づいていることから『死と乙女』(Der Tod und das Mädchen)の愛称で親しまれています。その歌曲は

以下のような内容です。

 

乙女:

あっちへ行って!

残酷な死神よ!

私はまだ若いのよ。

行っておしまいなさい。

私に触れないで!

 

死神:

さあ、手を取るのだ。

美しく可憐(かれん)な君よ。

むしろ、あなたは、私の友人。

バツを与えに来たのではないのだよ。

心を安らかに、保ちなさい。

私は卑(いや)しいものではない。

私の腕の中にて、安らかに眠るのだ。

 

マティアス・クラウディウス:詩

 

 この作品は作曲者の生前には楽譜は出版されていませんし、初演もされていません。ただ、非公開での演奏はされていたようです。シューベルトの心境を現しているかのようなすべて短調の楽章で構成されているという作品ですが、スメタナSQは気負い過ぎず引き締め、作品そのものを純度高く聴かせるようでこれまた味わいがあります。手元には彼らの最初の録音となる、モノラルの演奏もあります。

 

スメタナ四重奏団 ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲「アメリカ」 今日の一枚 05/05 | geezenstacの森 (ameblo.jp)

 

 スメタナは丁度この1978年に来日の折り、この曲をライブ収録しています。この演奏はほとんどそのライブと同じ印象を持つ演奏になっています。第1楽章の運命的と思われる動機は第1ヴァイオリンとヴィオラのユニゾンで緊迫を増しながらクライマックスを作り上げていきます。モノラルとステレオという音の広がりこそあれ、緊密なアンサンブルはいささかも弛緩しません。

 

 第二楽章はシューベルトの歌曲「死と乙女」の伴奏を主題とした6つ変奏、各変奏の非凡さが聴くものを引きつけていきます。
スケルツォは短いのですが切分音の主題が多声的に絡み、充実した楽章になっています、静寂と熱気が入り混じる見事な変奏楽章ですね。ライブの良さが迫ってきます。

 

 第三楽章、魔性の者の踊りのようなスケルツォ、短いが切れ味抜群の魅力、中間部ではしばしの安らぎが感じられます。
終楽章、ここも急速で死神が迫りくるような小刻みな主題、推進力とともに各声部のシンフォニックな交わりも見事、テンポを速めた終結部がさらに熱気をおびています。スメタナSQは大味を付けず緻密なアンサンブルでかっちりと決めています。