第97回市民会館名曲シリーズ 〈ベートーヴェンPLUSⅡ〉 | geezenstacの森

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第97回市民会館名曲シリーズ 

〈ベートーヴェンPLUSⅡ〉

 

曲目/

シューベルト:イタリア風序曲第2番ハ長調 D 591

ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調 作品21

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 作品55『英雄』

 

指揮/ヨハンナ・マラングレ

コンサートマスター/森岡聡

演奏/名古屋フィルハーモニー交響楽団

 

 

 6月の名フィルのプログラムです。定期の方は「肖像」シリーズとして、尾高惇忠とブラームスの作品が演奏されていました。ただ、この市民会館での名曲シリーズは、開演前にホワイエでのコンサートがあるので楽しみです。要するに室内楽の作品を前座にオーケストラ作品を楽しめるという構成です。まあ、どこでもそうなのでしょうが同じ音楽会なのに、室内楽とオーケストラ作品は相容れないというのが常識になってしまっています。でも、こういう融合は客層の違う双方のリスナーにとってはかなり有効なコンサートの在り方なんではないでしょうか。今回はベートーヴェン・プラスということでベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 作品59-1『ラズモフスキー第1番』より第1楽章が演奏されました。メンバーは川上裕司,平田愛(ヴァイオリン)、今村聡子(ヴィオラ)、アイリス・レゲヴ(チェロ)となっていました。小生はいつも2階のロビーから聴いていますが、音楽が上方へ拡散しているのを受け止めることができるのでとてもリッチな気分で聴くことができます。

 

 

 

 今年の名フィルのベートーベン+シリーズの第一回は、指揮者にアドリアン・ペルションを迎えての交響曲第4番と5番が演奏されていました。この第二回目のコンサートでは、初期の名曲であるとともに、ベートーベンを代表する作品としての交響曲第1番と第3番が演奏されました。今回の指揮者はヨハンナ・マラングレという今年36歳のドイツ人指揮者です。女性の指揮者としては、かなりの有望株です。この6月に来日し、前の週は群馬交響楽団とショスタコーヴィチの作品を、そして今週は名フィルとベートーベンの作品を指揮するというプログラムを披露しました。

 

ヨハンナ・マラングレ

 

 

  最初の曲目は、シューベルトの「イタリア風序曲第2番」というほとんど習作のような作品でした。イタリア風ということでゆっくりとした序奏に始まり、転調を伴って主部は簡素なソナタ形式で書かれた曲です。作品番号にD.591とあるようにかなり晩年の作品です。まぁ腕だめしにはちょうど良い作品と言っても良いでしょう。

 

 ベトーヴェンの交響曲第1番と第3番の組み合わせは、小生の中では、現時点では久石 譲の指揮する旧長野チェンバーオーケストラの演奏が最高でした。この演奏で久石 譲はベートーベンはロックだと言うようなことを標榜し、素晴らしくリズミカルな交響曲第1番を披露していました。今回のヨハンナ・マラングレの指揮は現代的な解釈といってもいいでしょうか、特徴的だったのは弦にヴィブラートをかけないというピリオドな奏法をオーケストラに要求し演奏させたことです。そのため、かなりこの長野チェンバーオーケストラと近しい響きになっていました。ただ、躍動感と言う部分ではちょっと不足したかなという気がして、さすがにロックはしていませんでした。指揮はキビキビとした動作で小柄な体を大きく見せるためのアクションは見ていても清々しいものです。

 

 

 休憩後のメインのプログラム交響曲第3番「英雄」も同様なアプローチをしていました。オーケストラの構成は弦が7、6、5、4、3という結構大きな編成で演奏していました。そこにノンビブラートの弦が響くわけですから、これは聴き入ってしまいます。まぁそういうこともあり、演奏のテンポについては最近の標準となりつつあるやや早めのアレグロ・コンブリオと言っても良いでしょう。ちょっと変わった3拍子の振り方でしたが、オーケストラを惹きつける力は充分です。音楽的な表現においては、イン・テンポでありながら聴かせ所をさらに強調するような事はありませんでしたが時々アクセントにためを作って、旋律腺を強調するような演奏となっていました。第一楽章の聴きどころであるフィナーレのトランペットの扱いは、多分最新のベーレンライター版の指示に従っているのでしょうが、ここではことさらトランペットを強調することなく、オーケストラの響きの中に溶け込ませてベートーベンの時代の響きをうまく再現していました。

 

 第2楽章はどうしても現代風なテンポで演奏すると、荘厳な悲しみはちょっと減退してしまう早めのテンポで演奏されてしまいます。それでも全体の構成がしっかりしているので、大きく音楽をまとめることには成功していたように感じられます。ただ、第3楽章のホルンについては、これは指揮者の指示かもしれませんが、それほどホルンを強調すると言うような演奏にはなっていませんでした。それが聴く方にとってはちょっと残念だったかなぁという印象があります。

 

 第4楽章は、指揮者が1番最初にリハーサルをした楽章ということで、ここに重点を置いた全体の構成を持っていたのではないでしょうか。そのために普通は第3楽章と第4楽章はアタッカーで続けて演奏するのが好ましいような流れがあるのですが、ここは一旦気分を落ちつかせて、第4楽章はじっくりとした音楽づくりの中で演奏をしていました。ベートーベンの一番お気に入りの主題を持ってきたこの第4楽章、その演奏形式の中に、指揮者は異なった色彩感を持ってその表情付けを表現していたように感じられます。終演後は大きな拍手とともに、ブラボーの声援が飛ぶようななかなか充実した英雄になっていました。ドイツ正統派の女性指揮者ということでは今後期待しても良いのでしょう。現在は2022年からフランスの国立カルディ管弦楽団の首席指揮者に就任しています。ここをベースに今後世界に羽ばたいていくのではないでしょうか。ただ日本では在京のオーケストラを指揮しないと注目されないという点がありますので、そこがちょっと気がかりです。イギリスではバーミンガム市交響楽団から客演の折、大絶賛されたということで、今後は台頭してくる指揮者として期待できるのではないでしょうか。