ミュンヒンガーのモーツァルト
曲目/モーツァルト:
・フルートとハープのための協奏曲ハ長調 K.299
・クラリネット協奏曲イ長調 K.622
ヴェルナー・トリップ(フルート)
フーベルト・イェリネク(ハープ)
アルフレート・プリンツ(クラリネット)
指揮:カール・ミュンヒンガー
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1962年9月 ウィーン、ソフィエンザール
E:ジェームズ・ブラウン
P:クリストファー・レイバーン
ロンドン SLC8023
個人的にはミュンヒンガーにこんな録音があったことはこのレコードを見つけるまで知りませんでした。キングは1970年代に盛んに廉価盤で旧録音を投入していましたが記憶ではこの録音は投入されていなかったように思います。録音が1962年という事は、多分初回リリースの時は気が付かなかったし、レコ芸の「名盤ベスト○○○」というのを再チェックしましたがこの録音は当時の評論家の内宇野功芳氏が一票を投じていただけで、他の評論家は見向きもしていませんでした。まあ、「フルートとハープのための協奏曲」はエラートのランパル、ラスキーヌ盤がダントツで他はドングリの背比べみたいなものでした。で、どうしたものかこの録音は日本盤は独自のデザインで発売されています。
アメリカ盤
イギリス盤
イギリス再発売盤
お気づきかと思いますが、欧米盤はどれもクラリネット協奏曲がメインになっています。日本盤だけフルートとハープのための協奏曲がメインという扱いです。同じイラストを使いながら奏者の配置が違います。面白いですねぇ。曲中心の配置ならエース・オブ・ダイヤモンドのハープ、フルート、クラリネットが一番相応しい配置です。
どちらかというと渋い演奏です。それでいて、古き良き時代の残照が未だ残っていた60年代のウィーン・フィルの響きがします。そして、当時のウィーンフィルの主席のソリストが最高のパフォーマンスを示している演奏です。この60年頃デッカには指揮者のコマが少なかったんでしょうなぁ。ミュンヒンガーはウィーンフィル相手にモーツァルトの作品を少なからず録音していますが、どうしても主兵だったシュトットガルト室内管弦楽団のイメージがつきまといドイツ的なかっちりとした枠の中でモーツァルトを演奏しています。このフルートとハープのための協奏曲は、技術的には相性抜群のフルートとハープの絡み合いが醸し出す高貴かつ優美な旋律美が魅力となっていますが、そのウィーン訛りの響きがバッハの響きの中で踊っているというイメージになっています。トリップとイェリネックのソロはウィーン訛りを感じさせるほどの美しさがありますが、ミュンヒンガーの指揮はウィーン・フィルの響きの中にバッハの影がちらつきます。それが一番感じられるのが第3楽章でしょう。本来は第1楽章と同じアレグロの指定ですが、ここでのミュンヒンガーは快活さを捨てて、かっちりとした音楽に重きをおいて音楽を組み立てています。個人的にはここでどうもバッハの音が聞こえてくるのです。音楽が躍動するのを無理に抑え込んでいるようにきこえてしまいます。
それに比べてブリンツのクラリネットはウィーンの響きをぷんぷんとさせて絶妙なソロの妙技を披露しています。暖色系の音色で典雅な響きを披露しています。ただ、ここてもミュンヒンガーのバックがややテンポを遅くとっているのでモーツァルトらしい軽やかさが半減してしまっているのが残念です。ブリンツはのちらベームと再録していますが、そちらの方が理に適ったテンポとサポートでこの録音を超えてしまっているので、この演奏は隅に押しやられてしまったんでしょうなぁ。