江戸の出版王 蔦屋重三郎事件帖 1  | geezenstacの森

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江戸の出版王

蔦屋重三郎事件帖 1 

 

著者:鈴木英治

出版:角川春樹事務所   ハルキ文庫

 

 

 東洲斎写楽を世に出し、浮世絵で一世を風靡した蔦屋重三郎。写楽や喜多川歌麿らの浮世絵、恋川春町や山東京伝らの黄表紙、洒落本、狂歌本などを精力的に刊行し、多くの話題作を世に送り出した江戸の出版王・蔦屋にはもう一つの顔があった。人気戯作者の朋誠堂喜三二は佐竹家江戸詰の刀番である。その佐竹家上屋敷の一室で、家臣の鴨志田昭之進が何者かに殺された。遺体の傍には一枚の絵が投げ出されていた。喜三二はその絵を蔦屋に見せ、知恵を借りようとするが…。実在の人物を主人公にした、人気作家による書き下ろし新シリーズ、いざ開幕!---データベース---

 

 

 今年の大河ドラマが蔦谷重三郎が主人公ということで、個人的に非常に注目しています。そんな中、こんな本に出合いました。角川春樹事務所から出版されている鈴木英治の著作ということで注目しました。ただ、この本表紙のカバーのデザインからちょっと違和感を覚えました。タイトルに事件長とあるのがちょっと引っ掛かりましたが、案の定肝心の蔦谷重三郎はほとんど登場しません。蔦屋の伝記ものみたいなものを期待するとすっかり騙された気分になるやもしれません。

 

 戯作者と挿絵画家、本当はともに侍なのに趣味と実益を兼ねて内職のように仕事としている人気戯作者の朋誠堂喜三二こと平沢平格と恋川春町名義の駿河小島藩留守居役倉橋寿平二人が主人公です。蔦屋はちょっと知恵を貸すだけで、どんな人物なのか、なにをしようとしているのか、よくは判りません。ただ、ここでは平格の持ち込む難事件を解決するヒントを与えるだけの存在です。

 

  平沢平格は愛洲陰流剣術の使い手でもあり、戯作家という顔を持ちながらも佐竹家の江戸詰めの刀番でもありました。ということで冒頭から不穏な空気を感じ取り、鯉口を切って浪人と対峙します。まあ、ここで対峙する浪人はこの後もストーリーにかかわってきます。この小説の舞台となっている時代背景は大筋事実で、平賀源内や杉田玄白とのエピソードも史実でしょう。ただ、この人物が殺したという浪人は小説でのこじつけでなぜこの場面で登場したのかは不可解です。

 この、平賀源内の周辺で起こる事件についてはほぼ蔦谷重三郎は絡んでいません。平賀源内の死亡説については諸説あり、その一つが重三郎が提案した雲隠れして死亡したことにするという説がここではとられています。まあ、田沼意次の時代だったので何でもありの発想で田沼がかくまったということでしょう。しかし、そんな程度で、この本のタイトルが「江戸の出版王 蔦屋重三郎事件帖」というのはやはり詐欺に等しいですな。