1968年のレコード芸術 6
1968年のレコード芸術シリーズ最後は8月号です。特集はちよっと期待はずれの「レコードの発達史」ですが、それ以上にレコード業界激変を物語る記事が満載でなかなかの読み応えです。
シャルル・ミュンシュはこの1968年の11月に亡くなっていますが、すでにEMIからパリ管との新録音が発売されているので、ビクターはボストン響との旧譜の「幻想」を名盤シリーズとして引っ張り出してきてこの月の巻頭を飾っています。右側のビクターのステレオの広告に「SEA」と表記がありますが、当時はこの「Sound Equorizing Sistem」という言葉に惹かれて、この後5段階の音質調整機能の付いたビクターのアンプを買うことになります。今でもそうですが、普通のアンプは低音と高音の調整しかできなかったので、これは画期的な機能だと感心していました。何しろ、世間が歌謡曲だ、ポップスだという中で、一人クラシックを聴いていた子供でしたからねぇ。
イツァーク・パールマンといえばEMIのイメージですが、デビュー当時はRCAが発売をしていたんですなぁ。
フィリップスはこの時期ハイティンクが売れなかったので、苦肉の策でオイゲン・ヨッフムをメインに売り出していました。
この年のエポックメーキングの出来事はアンセルメ/スイス・ロマンド管の来日でした。この来日公演は後継者のパウル・クレツキを紹介する意味合いもあり、二人の指揮による演奏会が開催されていました。
ただ、演奏評ではクレツキとスイス・ロマン度は方向性の違いが感じられたようで、評価はイマイチといったところです。
コンサートの移動日に京都でくつろぐアンセルメのグラビア特集が掲載されています。上の写真は詩仙堂を散策するアンセルメ、下は銀閣寺の竹林での写真です。
いよいよ9月新譜(8月20日)発売のCBSソニーの初回発売には注目のピアニスト、アンドレ・ワッツのブラームス/ピアノの協奏曲第2番が予定されています。バックはバーンスタイン/ニューヨークフィルです。この第1回発売はまだ掛川の工場が完成していないので外注での発売となっていました。この第1回発売は他に、
・セル/クリーヴランド---ブラームス交響曲全集4枚組
・ベートーヴェン/交響曲第5番---グールド
・ワーグナー/管弦楽曲集--バーンスタイン
・ロドリーゴ/ある貴紳のための幻想曲---ウィリアムス、グローヴス/イギリス室内管
・ハイドン/天地創造---バーンスタイン
がアナウンスされています。また、当初からタブル企画がスタートしていて、他社が一枚のレコードに交響曲を2曲詰め込みにする企画を出していたことへのアンチテーゼのように2枚組にしてそれぞれをゆったりかっタィングした企画ものを発売しています。こちらには、
ベートーヴェン交響曲第3、6番
ベートーヴェン交響曲第5番、9番
ベルリオーズ/幻想交響曲、「シェエラザード」
以上オーマンディ/フィラデルフイア
チャイコフスキー、ブラームス/ヴァイオリン協奏曲--スターン
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4、5番---フライシャー
が発売されています。
このゆったりカッティングの効果は絶妙で、小生はこの後発売されたオーマンディの幻想とサンサーンスの交響曲第3番のカップリングのセットはオルガンの超低域までカッティングされたいて、テラークから発売された同曲にはがっかりしたものです。
コロムビアは、このころから国内録音に重点を移しており、この広告の中にも岩城宏之/NHK交響楽団のベートーヴェンの「英雄」が発売されています。他はスプラフォンダのみですからオーケストラ者のメインはこの一枚のみです。
仰々しい特集タイトルですが、細目を見ると大した内容ではないことが読み取れます。これらの記事の中での注目は「スタートしたCBSソニーのヴィジョン」でしょうか。この記事の中では、キングが「ロンドン部」を新設して他のレーベルに優先してアピールする体制をとり、東芝レコードがそれまでエンジェルとして発売していたものを「EMIのエンジェル、キャピトル」としての打ち出しに切り替えていますし、CBSに対抗するRCAはビクターとの新しい契約を締結しており、表紙のジャケットもビクターの表示から実際の「RCA」に切り替えるため、こちらも新しく「RCAレコード部」を新設しています。
製造拠点となるCBSソニーの掛川工場は2万4千平方メートルの敷地に10年計画で建設が進められています。当時全国のレコード需要は70パーセントが関東から神戸の間で消費されており、その40パーセントが関東圏、30パーセントが関西圏という構成になっていました。その中間点に作られた工場はまさに理想の地ということでしょう。こうジョゥで稼働するのは最新のカッティングマシーンが4台、プレスマシン12台の最新鋭のシステムでレコードは26秒でLP1枚製造のペースで、日産に直すと54,560枚となります。ジャケット生産も隣接地にメーカーを誘致しています。
そうそう、どさくさに紛れて日本コロムビアから「卒業/ベスト・オブ・サイモン YS−949」が臨発として発売されています。こんなアルバムでした。この存在は知りませんでした。
これ、完全なサントラではなくてベスト盤なんですな。今でもオークションでは13,000円ぐらいしています。
1968年のウィーン音楽祭で共演したバックハウスとベーム
このころアレクシス・ワイセンベルクがデビューしています。
人気が出ないまボストン響を去ったエーリッヒ・ラインスドルフ、ボストン響はこの後スタインバーグ、小沢とバトンタッチしていきます。