探偵・日暮旅人の忘れ物
著者/山口幸三郎
出版/アスキー・メディアワークス
音、匂い、味、感触、温度、重さ、痛み。
ここまで1冊完結だったけど今回は「つづく」というしようになっています。 そして、次巻は最終巻ということです。この間の章立てです。
隣の静寂
森の調べ
爆弾魔の憂鬱
雪の道
夢のぬくもり
最初の「隣の静寂」と「森の調べ」は連続した設定で描かれています。どちらも、旅人の活躍によって幸せを取り戻すというハッピーな展開になっています。ただ、これはメインストーリーとは関係のない展開で、この物語のサブテーマというべき愛と絆というものを作者は語りたかったのでしょう。どちらも音楽をメインにしたストーリーですが、旅人はもちろん歌が聞こえません。音は空気の振動で感じるものですが、舞台となるジャズの流れる喫茶店ではスピーカーから流れる響は聞こえないことになっています。小説の設定と言う事ですからそういうことになるのでしょうが、生音だけが聞こえると言うのも現実には不思議な話です。
次の、「爆弾間の憂鬱)はちょっと滑稽な話になっています。しかし、この事件は後に大きな伏線になっているような気がします。
「雪の道)は、雪と旅人の関係が明らかになる重要なストーリーです。話の展開からすると、雪路の父親が旅人の人生に大きく関わっているような構成になっています。そこに、白石という刑事が絡んできて、雪路の父親と旅人の父親が同じ事件に絡んでいたことを示唆しています。このストーリーの雪路に兄がいたことがわかります。しかし、その兄が父に反発しながら自殺してしまいます。父親の重圧に、潰されたのでしょう。そのためもあってか、雪路は旅人に兄の面影を見出します。
このストーリーは、過去から現在までのつながりを説明しています。この巻では陽子があまり登場していませんでしたが、ここからようやく登場します。そして、陽子が実は旅人の幼なじみでないかということをしっかり意識するようになります。また灯衣が、旅人の娘になるいきさつも語られていますが、これはちょっと大雑把すぎて納得がいきません。こんな流れがあっていいものでしょうか。
最後の話で、物語が一気に動きます。旅人のダークな面が表面化し、洋子はそれにどう対応していいのか少し悩む面が見えます。ここでは、旅人は高熱を出します。それは目の使い過ぎによるものでしょう。そして、普段は見せない雪路の姿に陽子は自分から旅人の中に飛び込んで行きます。
それにしても、灯衣の母親まで暴力団がらみで事件に関わってくるとは・・・ライトノベルにしては重たい展開になってきました。