ストコフスキーのドン・ファン
リヒャルト・シュトラウス名曲集
曲目/R.シュトラウス
1.ドン・ファン 16:02
2.ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら 14:37
3.歌劇「サロメ」から7つのヴェールの踊り 9:09
指揮/レオポルド・ストコフスキー
演奏/ニューヨーク・スタジアム交響楽団
録音/1958/10 マンハッタンセンター、ニューヨーク
P:ラルフ・ポリアキン
コロムビア MS1101EV(エヴェレスト原盤)
日本コロムビアのダイヤモンド1000シリーズはこの1100番前後からかなりレパートリーが広がっていきました。まあ、名曲集も100枚ほど出せば自然とそうなってくるでしょう。当時抱えていたオイロディスクやポーランドの「ムザ」、バルカントーン、コンサートホールのもととなった「ミュゼエクスポート」など様々な音源からソースをかき集めて発売していました。ただ、このダイヤモンド1000は文字通りの名曲集とあってコアな音源は、「パルナス1000」とか「ヒストリカル1000」とかのシリーズに組み込まれていっています。エヴェレスト音源のストコフスキー物としてはこれは3枚目のリリースでした。演奏している「ニューヨーク・スタジアム交響楽団」は契約の関係で変名を使っていますが、実態はニューヨーク・フィルでした。
この頃はやたらリヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」がブームでいろいろな指揮者が録音していましたが、ストコフスキーは意外にもこの「ツァラトゥストラ」は録音していません。オルガンが活躍する派手な曲だというのに不思議です。その代わりと言ってはなんですが、3曲めの『歌劇「サロメ」から7つのヴェールの踊り』はなんと4回もセッション録音しています。そのうち3回は手兵であったフィラデルフィア管弦楽団とのものでいずれもモノラルでした。このニューヨーク・フィルとの録音は唯一のステレオ録音となります。
小生もこの曲を最初に耳にしたのは、まさにこのストコフスキーの演奏で、この曲の持つ怪しげな雰囲気に引き込まれました。そんなことで、オーストラリアに旅行した1988年に、シドニーのオペラハウスでこの「サロメ」が上演されていた時にはチケットの当日売りがあったので鑑賞したのを覚えています。あまりメジャーな曲ではありませんがいい曲です。
下はフィラデルフィア管弦楽団との1929/05/01の録音です。こちらのほうがテンポが幾分ゆったりとしています。ストコフスキーは年をとってテンポが遅くなるという老害は持ち合わせていませんでした。永遠の青年指揮者ですなぁ。
アルバムのタイトル曲の「ドン・ファン」です。こちらは意外にもこの録音が唯一です。多分その事もあって、ストコフスキーが新しいレパートリーを録音したという目玉のつもりで、この曲をトップに持ってきたのでしょう。ストコフスキーはもともとがオルガニストだったこともあり、バッハの作品については膨大な録音を編曲も含めて残していますが、ドイツ系の作曲家にはあまり注力していなかったようで、ブルックナーはゼロ、シューマンもセッション録音はわずか2番ぐらいで、ライブ録音が散見されるだけです。まあ、穿った見方をすれば、ナチスに協力的だった作曲家は取り上げたくなかったのかも知れません。レハールなんか全く録音がありません。
さてこの録音ですが、エヴェレスト録音ながらそれほど音はよくありません。エヴェレストは1950年代後半に台頭したレーベルで、ハリウッド映画と同じ35ミリ磁気テープを使用して、ステレオ最初期ながら驚異的な音の良さで世界中のオーディオファンから支持を集めました。そういうレーベルの意向で録音されたものなんでしょう。新しいもの好きのストコフスキーならではのレコーディングです。この一連のニューヨークフィルの録音はロケーションもCBSと同じ場所で録音しているようですが、音の傾向はかなり違います。多分当時は録音特性としてのRIAA曲線が違っていたのかも知れません。この日本コロムビアのレコードはあまり音が冴えませんでした。当時はそんなことでがっかりしたものです。ただ、CD時代になって復刻されたものを聴いてみると見違える音になっています。
「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」も唯一の録音です。こちらもレコードで聴く音と、比較でCDで聴いた音は歴然としたさがありました。
今の時代はこの音源もネットでハイレゾでダウンロードできるようですが、そういう音源はマスタリングがかなり調整されているのでしょう。むちゃくちゃいい音がします。ストコフスキーの演奏は音楽評論家からすると、かなり音楽をこねくり回しているという批評のもとに殆ど評価されませんが、小生などはこの万人受けするディフォルメに惹かれて曲が好きになり、更にストコフスキーファンになったものですからすべてのレコードに愛着があります。