ハインツ・ホリガーの名演 | geezenstacの森

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ハインツ・ホリガーの名演
名古屋フィルハーモニー交響楽団
第472回定期演奏会
 
 
 11日の金曜日は名フィルの第472回定期演奏会に出かけてきました。この日のチケットを入手しておいて良かったです。次の12日は台風19号の接近で演奏会そのものが中止になってしまいましたからねぇ。
 
 ただ仕事帰りで開演時間に少々間に合わず、第1曲目の武満徹の「夢窓」にはチョイと間に合わずロビーでの視聴となってしまい残念でした。
 
 今回の演奏会は当初予定していたものから変更になっていました。当初のプログラムは以下のようになっていました。
 
 
 2曲目が以下の曲に変更になりました。
 

細川俊夫:結び-ハインツ・ホリガーの80歳の誕生日を祝して-(オーボエとイングリッシュホルンのための)*

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

 

 さて、最初の武満徹の「夢窓」は1985年の作品ですが、彼独自の静をテーマにした作品です。編成は大オーケストラですが、響としては室内楽的な展開をしています。小生なんかこの作品に日本庭園的なイメージを重ねてしまいます。編成の大きさからすれば足立美術館の庭園で借景まで含めての大庭園です。その景色が織りなす四季のイメージがぴったりのような気がします。こんな作品です。

 

 

 

 曲目が変わってしまったので舞台転換に多少時間がかかりました。2曲目は、作曲家としてのホリガーの作品は聴くことができませんでしたが、「細川俊夫結び-ハインツ・ホリガーの80歳の誕生日を祝して-(オーボエとイングリッシュホルンのための)」が演奏されました。この作品、10月2日に東京オペラシティで行われた「ハインツ・ホリガー 《80歳記念》オーケストラコンサート」において、ハインツ・ホリガー(オーボエ)とマリー=リーゼ・シュプバッハ(イングリッシュ・ホルン)により、世界初演されたものです。その最新作が聴けるとあっては、こちらのほうが良かったかもです。

 

 オーボエとイングリッシュ・ホルンのための《結び》は、そのサブタイトルが示す通り、今年5月に80歳を迎えたハインツ・ホリガーを祝うために書かれた作品です。ホリガーは演奏家としても、作曲家としても、長年にわたり細川に大きな影響を与えてきた芸術家の1人で、細川はこのお祝いの作品について、細川のホリガーへの尊敬の念と長年の友情の証としての音楽である、と述べています。

 

 タイトルの《結び》は、東洋の陰陽思想から着想を得ていて、男女、高低、強弱、光と影と言った相対する2つの要素が、互いに相殺することなく、互いに補完し合い、共存し、結びつきながら宇宙を形成するように、それぞれ独自の中心音を持つオーボエとイングリッシュ・ホルンは、装飾音を自在に操りながら、唐草模様のように絡み合い、結びついていく作品になっていました。

 

 この日は当の細川俊夫氏も会場におられて、盛大な拍手に包まれて、舞台に上がられて喝采を受けていました。こういう光景に出会うことができたのも幸いでした。

 
 なおかつ、ホリガーの指揮でもう一曲、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」も演奏されたのも収穫でした。今回の来日ではラヴェルシューマンなどを取り上げていましたが、ドビュッシーは名古屋だけの演奏でした。
 
 変に印象派の霞のかかったようなサウンドとは一味違う、カラッと晴れたパリの空の下の牧神が披露されました。
 
 後半はこの定期演奏会のテーマでもある「最後の傑作に」ふさわしい選曲と演奏でした。
 

 

 この演奏第1,第2楽章と後半の3、4楽章と全くイメージの違う演奏になっていました。特に第1楽章冒頭のホルンの主題は、今までに聴いたどの演奏よりもテンポが早くびっくりしました。ピリオド楽器による演奏でもこんな速いものは聴いたことがありません。唯一近い演奏はノーリントンがシュトットガルトと録音したものぐらいですが、印象的にはそれよりも快速でした。

 

 

 楽譜の指定ではAndante - Allegro ma non troppoとなっていますから、これは確信犯的なアプローチでしょう。全体の演奏もじっくり腰を据えたというよりも快速のアレグロで突っ走るというもので、まさにつんのめりながら突き進んでいくというイメージです。一つの解釈としてアバどのように初校譜を使って意表をつく演奏になるのかと思いましたが決してそんなことはありませんでした。ただ、これは初めての体験でした。

 

 この驚き続く第2楽章も同様のアプローチでした。ただ、ノンヴィヴラートの演奏ですからサウンド的には違和感はありません。強いて言うならロックビートのような響で、斬新でした。いつもは第2楽章あたりで気持ちよくなってついうとうとしてしまうものですが、今回はそんな暇はありませんでした。

 

 ところで後半の2楽章は、そのイメージとは打って変わって今度はオーソドックスなテンポとリズムで予定調和的な演奏になっていきます。この落差にはびっくりです。ホリガーのバトンは両手を大きく使ったせわしないもので、急に早くなったり、遅くなったりと見ていて飽きないものでしたが、作り出される音楽は破綻はなく、朗々とシューベルトの響きがホールを包んでいました。

 

 ホリガーといえばオーボエの名手で、今回はそのオーボエの響きも堪能できたということでは、またとない素晴らしい演奏会であったと思います。返す返すも、第1曲が生で聴けなかったのが残念でありますなぁ。