鎌倉河岸捕物控 32 流れの勘蔵
著者 佐伯泰英
発行 角川春樹事務所 ハルキ文庫

江戸は秋、瀕死の怪我を負った亮吉が本復に向かい、政次たちはほっと一安心。一方宗五郎ら一行は、当代豊島屋十右衛門の京での本祝言を無事終え帰路に着いていた。そんなある日、板橋宿の御用聞き仁左親分が金座裏を訪ねてきた。板橋宿で分限者や妓楼の子どもばかり狙った拐しが三件起きたが、その一味が江戸へ潜り込んだらしい。政次たちは早速動きだすが、そこに影の探索方「八州方」も参入して…市井の平和を守るため、金座裏の決死の闘いが火ぶたを切る!平成の大ベストセラーシリーズ、ここに感涙の終幕。---
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また一つシリーズが終了してしまいました。もともとこの小説は青春群像的なストーリーで「むじな長屋」の三兄弟が活躍するストーリーで、NHKでドラマ化された時もそこに絞った構成で政次が金座裏に迎え入れられて一人前になるまでが描かれていました。この小説のシリーズでも、11巻ですでに「代がわり」として書かれていますし、14巻では「隠居宗五郎」ということで、実質的な終焉を迎えています。この14巻が2009年の5月にシユッパされていますが、もうその頃にはドラマ化の話は出ていてのでしょう。そういうこともあり、小説としてはドラマが放送される前に終わってしまっては盛り上がりに欠けるというとこで、その先も続く必要があったのでしょう。それが証拠に「鎌倉河岸捕物控」街歩き読本なるものが放映中に出版されています。
まあ、ここしばらくは舞台の一つの中心でもあった酒問屋「豊島屋」の後継の結婚式のために、金座裏の宗五郎夫婦や呉服問屋の松坂屋の隠居夫婦などまでが京都にまで繰り出し、まるでオールスターキャスト的な展開になっていました。また、この巻では女道場主の永塚 小夜がひっそりと青物問屋の後継と挙式を挙げ、さらには亮吉の嫁にお菊までが決まるという展開になっていることを考えるとこれはもう、幕引きの舞台が整っていると考えてもおかしくはありません。まあ、そんなこんなで、シリーズを通して活躍していた人物がこの巻ではほとんどが登場します。強いて言うなら名脇役として存在してきたむじな長屋の駕籠かきの繁蔵と梅吉が登場しなかったことでしょうか。
最終巻の章立ては以下のようになっています。
1章、亮吉復帰
2章、のんびり道中
3章、帰心募る
4章、東海道の親しらず
5章、旅路の果て
タイトル的には平穏な様子がそうぞされます。しかし、事件としては拐かし事件が板橋宿で連続して発生しています。そこの親分に仁左が金座裏を訪ね、拐かしの一味が江戸に流れ込むという情報を持ってきます。ここで八洲方なる人物が登場します。1805年(文化2)関東地方の治安強化維持を目的として創設刺された組織は「八州廻りと称されますが、この物語はその2年前という設定になっています。早い話がストーリー上はここで起きる事件がきっかけで「関東取締出」俗に言う「八州廻り」が創設されるというお膳立て話作っています。で、タイトル的には前巻で胸を刺され瀕死の重傷を負った亮吉が退院します。でも、リハビリが必要ということで金座裏の二階で療養継続です。
板橋宿では分限者の子どもが攫われて身代金をゆすられるます。甘く考えた大店は子供の友をしていた子女を殺されてしまいます。この一連の事件で女賊にお熊という名前が浮かびます。タイトルの「流れの勘蔵」はその父親のことです。
一方、宗五郎たちはゆっくり江戸へと向かってすすみます。途中宗五郎の妻、お光が足を捻挫してしまい、一向の足取りは遅くなります。道中も事件に巻き込まれ、無頼の摺りなどを捕まえるなどの活躍もします。
江戸はさすが町奉行が活躍する街で、すぐに「流れの勘蔵」の一味が動き出したことを察知します。幸いにも待ち方に届けがあり、一人、狙われてるらしい娘がいたので政次は弥一を奉公人として送りみ、張り込みを開始します。この娘のかほは勘が働き、けいこ仲間のおいちがねちっこい目で見てくることを感じ取ります。ここでの展開は、板橋宿の仁左や油分、八州方の安藤五郎治、そして金座裏の合同の活躍で事件が締めくくられます。
そして、この旅で、宗五郎は引退を決意し親分の座を政次に正式に譲ります。引き際としては見事ですが、本来は熱海の旅の時に引退しても良かったのでしょうかねぇ。