『まぁちんぐ! 吹部!#2』 | geezenstacの森

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『まぁちんぐ! 吹部!#2』

著者:赤澤竜也
出版社: KADOKAWA / 角川書店

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 都立浅川高校吹奏楽部の顧問三田村、通称ミタセン。教師らしくない言動で部をかきまわすが、類まれな音楽センスを発揮し、赴任してすぐに部を東京都大会金賞に導いた。新学期を迎え、さらなる飛躍を目指す浅高吹部だったが、突如マーチングに挑戦することに。青天の霹靂だった部員たちは戸惑い、ミタセンはやりたくないと駄々をこねる。マーチングを積極的にやろうとしているのはどうやら新副顧問、嘉門先生らしい。次第に座奏組VSマーチング組の構図が生まれ……。----データベース---

 この小説は以前紹介している「吹部」の続編です。2017年0から2018年月まで、月刊「カドカワ」で連載されていたものが単行本化されたものです。そんなことで、前作を読んでいないと理解できないかもしれませんが、話の展開パターンは前作とよく似ています。ただ、今回は座奏はおまけみたいな形で、マーチングがメインになっているということでタイトルが『まぁちんぐ!」となっています。

 顧問の三田村、通称ミタセンが変人なら、新年度に新しく服顧問として赴任してきた嘉門先生(カモティ)もキョーレツな個性の持ち主で、上手く校長に取り入って吹奏楽部にマーチングのコンクールの出場をけしかけ吹部が座奏派とマーチング派に分かれてしまいます。

 コンクールでの金賞は新一年生の勧誘には抜群の効果で一気に部員が倍増します。まあ、これならマーチングに不足はない体制と言ってもいいでしょう。ただ、強引にマーチング挑戦を進める嘉門先生と反感を抱くミタセンに振り回され、部員まで好き勝手しだして、調整役の部長・沙耶が奔走していたから今まで何とかなっていたのに、彼女が限界迎えて機能しなくなる中盤は読んでいて大丈夫だろうかという不安になります。

 しかし、副顧問の嘉門先生の過去がシンクロナイズドスイミングのオリンピック代表メンバーだったという過去が明らかになると、そのチームワークの基礎がマーチングにも生きることの関連性に納得もしたりします。その指導はこんな感じです。本文の引用です。

 {{{午後からは浅川の河川敷に集合。真夏の日差しが照りつけ、ジャージに着替えた部員たちは練習がはじまる前から汗だくである。
 セミの声をかき消すほど大きな声でカモティが話しはじめる。
「えーっと、まずは吹奏楽コンクールの予選突破おめでとう。これからの二週間はマーチング漬けになるから覚悟しといてね」
 ひさしぶりの指導がうれしくてたまらないといった様子でそう言うと、
「はい、じゃあ、楽器を持って所定の位置についてください」
 メンバーは決められた場所へと散っていく。
 ドラムメジャーの小早川聡美がバトンを持って先頭に立った。
「演奏せずに動きだけを通しでやってみます。テーン・ハット。レディ・セット。いくよ、一、二、三、はい」
 動きのないファンファーレの部分は省略し、まずは、「星条旗よ永遠なれ」からスタート。冒頭、歩きながら横三列のフォーメーションになったあと、三つのブロックに分かれることになっている。
 もうこの段階で隊列はバラバラなのだが、カモティがとめることはない。
「一、二、三、四、左右をちゃんと見る。一、二、三、四」
「フォロー・ザ・リーダーのときはまわるスピードをそろえて」
 コンテは頭のなかに入っているはずなのだが、正反対に動き出す部員がいれば、とまるべきところでひとりだけ前に飛び出してしまうものもいる。
 そんななか驚いたのは小早川のバトンさばきだ。
 バトンで刻むリズムが正確なのはもちろんのこと、肩へ背中へとバトンを自在に動かし、ときにはオリンピックの床運動の選手のように、片手をついてからだを一回転させる。
 その柔らかい動きには正直驚いた。
 胸を張った姿勢は美しく、ターンも機械のように正確。それでいて優美さを失わない。
 いつの間に練習したのだろう。そもそも部内にマーチング経験のある人物などいないはず。あのような演舞を誰に教えてもらったのか。
 小早川の華麗な動きの一方、吹部のマーチングはあいかわらずぎこちない。
 バラバラのまま、横並びとなった一列八人での周回へと突入した。
 吹奏楽連盟主催のマーチングコンテストには課題があり、「三列以上の隊列が四角形ラインに沿って行進しながら一周する」という規定をこなさないと失格になってしまう。外周と呼ばれる、大きく外側をまわりながら行進する動きである。
 ひとつ目の角を曲がり終えたあと、二度目のターンに入る前に、全体の半分がリア・マーチ、すなわちうしろにすすんで隊形を変える部分に差しかかると、
「はい、ストップ」
 カモティは突然、マーチを中断させた。
「左右を見てください。横の間隔は均等になってるかな? ラインがずれてるでしょ。これじゃあきれいにターンしようとしても、最初っからずれてるんだからできるわけないよね。はい、八拍前の場所に戻って。一、二、三、四」
 少し前からマーチをやり直したのだが、二度目のターンの最中に、
「ストップ、ストップ。角を曲がるときはレフトスピンだよ。足を真っ直ぐ下ろしてつま先はそのまま進行方向に向けて置くの。そして、かかとが地面に着く前にからだごと九十度回転させる。何度もやったでしょ。みんなの足がそろってないと美しくないよ」
 またしてもとめてしまう。
 基礎練習でスピンだけをやっているときは、部員たちもできていたのだが、左右との距離や歩幅など考えなくてはならないことが増えてくると、足先にまで注意が及ばなくなってしまう。いまのところオレはできているんだけど、こんな動きに加えて楽器を演奏しなくてはならなくなると、正直うまくこなす自信はない。やってみると複雑で難しいもんだと実感する。
「姿勢が大事なのを忘れないで。楽器の構えも真っ直ぐになってないひとがいるよ。いろんなこと全部に気を配らなきゃだめ。大変だとは思うけど、そろうと美しくなるからがんばって」
「はい」
 カモティは指導のなかで、「美しいこと」「きれいなこと」にこだわる。
 そして求められるものが美である限り、部員たちはカモティの言うことを素直に受け入れる。美しい音を作るために部活をやっているのであり、それに付随するすべてのものもまた美しくなくてはならない。部員たちはひとり残らずそう思っている。
「じゃあ、パートごとに分かれて練習してみましょう」
「はい」}}}

 ちょいと長い引用ですが、これが様になっていくんですなぁ。例によってミタセンは、自分の殻に閉じこもりカモティには一切協力しません。しかし、ミタセンは本当はマーチングをやっていたという過去が知れるにつれ状況は一変です。座奏は時間が足りず全国大会を逃しますが、マーチングの方は二人の協力のもと奇跡的な演奏、演技が出来是国大会の切符を手にします。

 まあ、ここにサブストーリーとして部長・沙耶の父親が帰国するという展開も挿入されていてます。そして、最後には沙耶と幼馴染みの西大寺とのハッピーエンドありと全てがハッピーエンドに終わるというジュブナイル小説の鉄板になっています。

 カドカワの公式サイトにこのマーチングの体型がアップされていました。