島抜けの女 鎌倉河岸捕物控(三十一の巻) | geezenstacの森

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島抜けの女 鎌倉河岸捕物控(三十一の巻)

著者/佐伯泰英
出版/角川春樹事務所 ハルキ文庫

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 宗五郎たちが江戸を不在にしていたある日、政次は、北町奉行小田切直年の内与力嘉門與八郎に呼び出された。夜桜お寅なる女賊が島抜けをし、「小田切奉行に恥をかかせて恨みを晴らす」と言って江戸に潜んでいるという。その同じ頃、金座裏では、愛猫の菊小僧が忽然と消えた。一方宗五郎たちは、京での当代豊島屋十右衛門の本祝言前に、のんびりとお伊勢参りを愉しんでいた──北町奉行と金座裏の絶体絶命の危機に、政次たちが昂然と立ち向かう! 大ベストセラー・ノンストップエンターテインメント時代小説、ますます絶好調。---データベース---

 鎌倉河岸捕物シリーズの第31巻ですが、久しぶりに取り上げます。ちなみに前回は4月に第29巻を取り上げていますが、30巻はパスしています。時代考証的にはまったくでたらめな時代小説で、まるでパラレルワールドの江戸時代を描いているようです。この間の唯一の史実は北町奉行の小田切直年を登場させていることぐらいでしょう。で、今回のタイトルもそれに関連したことを膨らましてストーリーの中に取り込んでいます。実際に小田切直年は、大阪町奉行時代に、ある女盗賊を捕らえています。この女盗賊は最終的には評定所の採決によって死罪に処されたのですがが、小田切は彼女に対して遠島の処分を申し渡しています。この事実を膨らませて、この巻が書かれているといっていいでしょう。ただし、夜桜のお寅ではありませんけどね。

 時系列的には豊島屋の十右衛門と春香の本祝言に出るため京都まで船で向かうという設定になっていますが、江戸時代にこういう船旅が一般町民ができたことはありません。せいぜい瀬戸内の九州から難波までの航路と、江戸は日本橋から行徳までの行徳船がその代表でしょう。ですから太平洋を航行する客船なんてありませんでした。それがこの本では江戸から大阪まで戻り廻船を利用して江戸から大阪までのんびりとした船旅で向かうのですから、開いた口がふさがりません。

 事件の傍らで、船旅の連中は優雅にお伊勢参りや大阪見物をします。まあ、この小説に登場する松坂屋は本店が松阪にあるのですからもう少し松坂屋の絡みを描いてもよさそうなものです。どうせ寄り道するならこれを描かない手はありませんわな。それなのにそういう部分はパスして、伊勢は勢田川からこれも川舟で外宮からさんぱいしています。そして、お決まりの内宮の参拝となるわけですが、その後がいけません。昼餉を「おかげ横丁」で摂っているのですがおかしいとおもいませんかね?佐伯パラレルワールドの江戸時代には平成の時代に誕生した「おかげ横丁」があったという設定になっているのです。

 さてさて、ストーリーのほうは若親分の政次に表には出せない難事件が降りかかります。まあ、現代の世に置き換えれば政治スキャンダルともいうべき事件です。そして今回はオスの三毛猫菊小僧で始まり菊小僧で終わるといった筋立てになっています。そこに今までまったく成長の後が見られなかったむじな長屋の三兄弟の末弟、亮吉に生死を彷徨う大事件に巻き込まれます。ただ、スキャンダル事件と同じパターンの事件を持ってくるとはちょっと脳のない展開です。