日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】
著者/竹村公太郎
発行/PHP研究所 PHP文庫

河川行政に長年携わり、日本全国の「地形」と「気象」を熟知する著者が、人文社会分野の専門家にはない独自の視点(=インフラからの視点)で、日本の歴史・文明・文化の様々な謎を解き明かす。「地形」を見直すと、まったく新しい日本史・日本文化が見えてくる! ベストセラーとなった前作『日本史の謎は「地形」で解ける』同様、定説がひっくり返る知的興奮と、ミステリーの謎解きのような快感を同時に味わえる1冊。---データベース---
この本は先に取り上げているhttps://blogs.yahoo.co.jp/geezenstac/56267447.html「9784569761459.jpg」の続編です。言ってみれは前作がヒットしたので二匹目の土壌を狙った感があります。全体の構成も、安藤広重の東海道五十三次の浮世絵からインスピレーションを得て、その印象をもとに各章の論を展開していくという方法論をとっています。一見すると取っ付きやすい論法ですがここに落とし穴があります。著者は、
{{{「文明は、下部構造と上部構造で構成されている。文明の下部構造は、上部構造(文化)を支えている。その下部構造は、地形と気象に立脚している。下部構造がしっかりしていれば、上部構造は花開いていく。下部構造が衰退すれば、上部構造も衰退していく。社会の下部構造とは、単なる土木構造物ではない。下部構造は『安全』、『食糧』、『エネルギー』、『交流』という4個の機能で構成されている」}}}
という論法で、説を展開して行きますが、肝心の広重の絵は表面だけで事象を捉えて、広重の画法とかそのディフォルメされた表現方法にまで踏み込んではいないのでいささか説得力に欠けます。
この本の章立てです。
はじめに
第1章 なぜ日本は欧米列国の植民地にならなかったか(1)(地形と気象からの視点)
第2章 なぜ日本は欧米列国の植民地にならなかったか(2)(『海の中』を走った日本初の鉄道)
第3章 日本人の平均寿命をV字回復させたのは誰か(命の水道水と大正10年の謎)
第4章 なぜ家康は『利根川』を東に曲げたか(もう一つの仮説)
第5章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか(1)(『地方』が支えた発展)
第6章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか(2)(エネルギーを喰う大都市)
第7章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか(3)(広重の『東海道五十三次』の謎)
第8章 貧しい横浜村がなぜ、近代日本の表玄関になれたか(家康が用意した近代)
第9章 『弥生時代』のない北海道でいかにして稲作が可能になったか(自由の大地が未来の日本を救う)
第10章 上野の西郷隆盛像はなぜ『あの場所』に建てられたか(樺山資紀の思い)
第11章 信長が天下統一目前までいけた本当の理由とは何か(弱者ゆえの創造性)
第14章 なぜ日本の国旗は『太陽』の図柄になったか(気象が決める気性)
第15章 なぜ日本人は『もったいない』と思うか(捨てる人々・捨てない人々)
第16章 日本文明は生き残れるか(グラハム・ベルの予言)
第17章 ピラミッドはなぜ建設されたか(1)(ナイル川の堤防)
第18章 ピラミッドはなぜ建設されたか(2)(ギザの3基の巨大ピラミッドの謎)
1、2章の回答には、日本には象牙やダイヤモンドはなく、金も採掘しつくされ、ゴムの木もなく、小麦・大豆・綿花のプランテーションに適する広大な土地もなく(山ばかり)、リゾート地もありません。文盲率は低く高い教育を受けた好奇心旺盛な人はいたが、他の植民地のような奴隷にする人もアヘンを売りつける人もいませんでした。結局、欧米人が植民地にする資源豊富な魅力のある土地ではなかっことに加え、やたらと地震が多く、大雨による大洪水、コレラの蔓延なども幕末には頻発していました。欧米人の欲望をそそらない日本列島、欧米人の恐怖をかき立てる災害列島、山や森林は多いが、馬車が走れる道路は整備されていなく、騎馬軍団の力が発揮できない地形の日本列島。この日本列島の気象や地形の自然が、欧米列国から日本を守ったのだと論を進めます。まあ、そんなことで中継基地的な横浜は栄えますけどね。
他方、著者の方法論が上手く発揮された考察が「北海道でいかにして稲作が可能になったか」でしょう。稲作地造成のため石狩川(平野)の泥炭層の克服(蛇行河川の直線化と川底の掘り下げ)について、著者の専門でもある土木工学の観点からも詳細かつ実証的に考察されており、興味深い論考になっています。まあ、これに稲の品種改良や、地球温暖化の側面も含めて論及されればもっと説得力があったろうにとは思います。
前巻が面白かったので、これも手に取ったのですがいささか重複の部分も多く、中盤以降は流し読みでした。しかし、番外編の「ピラミッド」では、「ギザ台地の3基の巨大ピラミッド」以外のものについては「からみ」説を図解しつつ展開するもので、地勢的事情(ナイルの氾濫とピラミッドのナイル西岸への集中など)や発掘情況からすると説得力のある論を展開しています。ピラミッド群はナイル川の西側の左岸に川上から川下へまとめて設置されています、これは川の氾濫を押さえて流れを制御する「からみ」という物の役目をしてるのだと。確かにナイル川の左岸は砂漠が広がり、川が蛇行すれば、豊富な水は砂漠に吸い取られてしまいます。古代エジプトの海岸線はカイロ付近ということで、現在の地形とは違うという認識で考えなくてはいけませんが、ギザのピラミッドだけは、他のピラミッドと様相が違うのは高台に建設されているということのようで、四角錐の表面は大理石が貼付けてあったようです。要するにキラキラですな。遠くからでもカイロの一が分かろうというもので、一種の灯台の役目をしていたというのです。俄には信じられませんが、ピラミッドはお墓ではない(墓は王家の谷にちゃんとあります)ことからもこの説は説得力があります。
興味のある人は、是非ともこの部分だけでも読んでみて下さい。下手な宇宙人説を唱えるようなオカルト本とはひと味違います。歴史学者以外の視点からの歴史本はトンデモ本もありますが、常識にとらわれないこの発想は共感出来る部分が多いのではないでしょうか。