ルイ・ド・フロマンの「ムーラン・ルージュ」
曲目/
1.ミヨー/Le Boeuf Sur Le Toit(屋根の上の牝牛) 15:24
プーランク/バレエ組曲「Les Biches(牝鹿)」 19:56
2.第1曲 ロンドー (Rondeau,Largo-Allegro) 3:42
3.第2曲 アダージェット (Adagietto) 3:39
4.第3曲 ラグ・マズルカ (Rag Mazurka,Moderato-Allegro molto)a 5:50
5.第4曲 アンダンティーノ (Andantino) 3:13
6.第5曲 フィナーレ (Finale,Prest) –Francis Poulenc 3:32
7.サティ/パレード 14:51
指揮/ルイ・ド・フロマン
演奏/ルクセンブルク放送管弦楽団
録音:1968
VOX PRIMA MWCD7152

このCDは1980年代末に発売されたものですが、CDのプラスチックケースがかさばると言う事で、当時としては珍しい紙ジャケットに収納されています。それも、LPとの端境期と言う事で、下の写真のようにレコード陳列棚に立てて収納出来るようにもデザインされていました。

まあ、日本では普及する事はありませんでしたが、アメリカ本国のタワーレコードではこの立て型のパッケージで販売されていました。CDの保護は不織布の袋に入っていました。しかし、別バージョンもあったようで、同じCD番号ながらプライチックケースに入ったものも発売されていました。

さて、指揮者のルイ・ド・フロマンといっても知らない人が多いでしょうね。1921年トゥールーズ生まれのフランス人指揮者でパリ音楽院では、ルイ・フレスティエ、ユージン・ビゴー、そしてアンドレ・クリュイタンスに学んでいます。1948年にはプルミエ・プリを受賞し、首席で指揮科を卒業しています。ですからクリュイタンスの弟子でもあります。最初はカンヌやドーヴィルのカジノで活躍していましたが、1958年からルクセンブルク放送管弦楽団のシェフになり、1981年に引退するまで米VOXに大量の録音を残しています。ただ、日本ではほとんど紹介されたことが無く、僅かに日本コロムビアの廉価盤シリーズで発売されたぐらいです。1994年に亡くなっています。

フロマンは一時にパリのオペラコミック座でも仕事をしていましたからこういう作品はお手の物だったのでしょう。この「ムーランルージュ」というアルバムは中々楽しい内容になっています。一曲目の「Le Boeuf Sur Le Toit(屋根の上の牝牛)」は本来はチャップリンの無声映画のために作曲され、「ヴァイオリンとピアノのためのシネマ幻想曲("Cinéma-fantaisie" pour violon et piano)」というタイトルでした。それをバレエ音楽に転用する形でオーケストレーションされています。ミヨーはその時々の音楽に影響されて作風を変えていますが、これはブラジルに2年ほど滞在していた時にその音楽に影響を受けて作曲されていて、タイトルもブラジルの古い単語に由来しています。作品スタイルとしてはラヴェルのボレロのように同じ旋律が繰り返し転調しながら登場するもので、ミヨーの作品の中では親しみ易い部類のものでしょう。この後、ミヨーはジャズを取り入れて「世界の創造」を作曲しています。ここでは、その原曲を聴いてみましょう。
フロマンのテンポはバレエとしては踊り易いテンポなんでしょう、メリハリを付けたくっきりとした造形で全体としてはアップテンポで原曲のセンスを感じさせる演奏になっています。
2曲目のプーランクの「牝鹿」は組曲版で演奏されています。本来は合唱を伴った作品ですが、この組曲版はその合唱が含まれません。そんなこともあり、演奏会で取り上げられるのはこの組曲版がメインです。こちらは3管編成のかなり大掛かりな作品です。タイトルの「Les Biches」はフランス語では「若い娘たち」「かわいい子」といった意味のようですが、マイルス・デイヴィスの「Bitches Brew」というアルバムでは「あばずれ女」という意味になるようで、ここでもそういうニュアンスがあるのかもしれません。まあ、バレエの舞台は、3人の若い男が16人の女の子達と無邪気に戯れているというものですからまんざらでもありません。
フロマンの演奏は楽しい雰囲気を前面に出した、まさにオペラコミックのような演奏です。オーケストラは放送局専属のためもあるのか、あらゆるレパートリーをそつなく演奏する技量を備えていて、フロマンの棒によく付いていっています。プーランクが取っ付きにくい人でも、この曲から入ればすんなり入り込めるのではないでしょうか。
最後はサティの「パラード」が収録されています。多分収録作品の中では一番前衛に感じるのではないでしょうか。何しろこの音楽にはサイレンやタイプライター、ラジオの雑音、ピストル、回転式のくじ引き装置、空き瓶やパイプを叩く音など、騒音や現実音が音楽に用いられており、この点ではエドガー・ヴァレーズを10年先取りしているようなサウンドです。まあ、元々のバレエが台本:ジャン・コクトー、音楽:エリック・サティ、美術、衣装:パブロ・ピカソという当時最先端の芸術家によって生み出されていますから、さもありなんです。個人的には以前マニュエル・ロザンタールの演奏で耳にしているのですが、このフロマンの演奏でピストルの音のリアルさにいささかびっくりしました。1968年にしてはなかなか良い録音です。こういう演奏を聴くと、ルイ・ド・フロマンの演奏はもっと復刻されてもいい様な気がします。そのサティがYouTubeにアップされていました。