新兵衛捕物御用 夕霧の剣 |
発行 徳間書店 徳間文庫

沼里地方で大きな地震が起きた三日後に、東海道で二人の旅人が死体となって発見された。死因は胸の刺し傷で、かなり手慣れた者の仕業であるという。二人が江戸から近江への道中で殺されたことは、手形から明らかになったが、下手人の目当てが分からない。財布や巾着の類を失っているので、金欲しさの疑いが濃いものの、それも上辺だけかもしれぬ。どうにも糸口が掴めなかった新兵衛だったが、探索をはじめた途端に……。---データベース---
沼里藩同心の森島新兵衛の活躍するシリーズの第2弾です。前巻で藩主の信興が殺されるというとんでもない展開であったのですが、沼里藩は改易という事にはなりませんでした。若いが世継ぎがいたからです。この「夕霧の剣」は時系列的には続編という設定です、藩主は実興となっています。ところがこのシリーズ矛盾があるんですなぁ。同心新兵衛と同居してる下女お松は、前書では69歳で新兵衛に時々色目を使い、新兵衛をぞっとさせるのですが、こちらでは「19歳から40年」つまり59歳らしいのです。そのくせ、主人公の新兵衛は30歳から32歳になっているのです。でもって、何と新兵衛に心を寄せる智穂という吟味方同心の牛島兵衛の娘がこの巻から登場します。
データベースで地震が登場していますが、今回の事件はこの地震が大きく関係しています。この小説は架空の設定ですから時代背景がはっきりしませんが、富士山の鳴動が取り上げられていますので、記録から追うと宝永5年(1708)前後ではないかと思われます。
データベースで地震が登場していますが、今回の事件はこの地震が大きく関係しています。この小説は架空の設定ですから時代背景がはっきりしませんが、富士山の鳴動が取り上げられていますので、記録から追うと宝永5年(1708)前後ではないかと思われます。
前半はさっぱり犯人らしい目星がつきませんが、過去にもこのような事件が発生している事が分り、何とその事件に新兵衛の父親が絡んでいた事が浮かび上がってきます。俄然やる気を出す新兵衛ですが、伊豆の山中に潜む山伏の一味がおぼろげながら浮かんできます。この本筋のストーリーに、別の辻斬り事件で逃亡してしまうかつての友垣の九八郎も絡んできます。この男がまた、山伏の一味と結託して新兵衛と対峙するというおまけまで付いてきます。
まあ簡単な話が、山の怒り、地震を恐れ、その鎮静のための生け贄として旅人が殺され、さらに藩主まで攫われるという展開になります。でもって新兵衛も捕まります。女が出て来るとこういう展開もあるんですなぁ。智穂が早速捕まり、為に新兵衛も敵に捕まってしまうのです。二人して山奥の廃寺に縛られます。あっさりと殺されない所がミソですな。で、この廃寺に火が放たれますが、廃寺であるがこそ床板があっさりと抜け二人はそこに身を潜り込ませ何とか焼き殺されずに脱出します。
前巻の続きとすれば藩主は若いはずですがそうでもないようです。ここでも矛盾が感じられますが、それより、鷹狩りの狩場で警護の近習たちはまったく無力なんですな。あっさり、藩主は敵の手に落ち、このぬまちにつれてこられ、まさに生け贄の犠牲として殺される所でした。ここからが、スーパーマン森島新兵衛の活躍です。単身で沼地の中の島に乗り込み、バッタバッタと敵を倒していきます。しかし、藩主は気絶していて新兵衛の活躍はしもありません。藩士と違って新兵衛は御目見得以下の奉行所の同心に過ぎませんから、藩主を救い出しても何の報償も無いということです。ここが、口入屋用心棒の湯瀬直之進とは違う所なんですな。
直属の上司からは金一封が出るのですが、これは中間の源次にくれてやります。豪気ですな。最後は友垣の妻を殺した疑いのある伊造という男を捜しに志雄田村に出掛けます。そこには既に、九八郎が来ていて伊造を殺し、自分も自害して果てます。
最後はちょっともの悲しい結末ですっきりとはいきませんが、それをエビローグが救っています。まあ、それは読んでのお楽しみでしょうかね。