ワシントン広場の夜はふけて

小学生の高学年になり、我が家にポータブルレコードプレーヤーがやってきました。そこで最初に聴いた音楽はアニメのレコードではなくフォノシートでしたが、漫画にうつつを抜かしていた時にこれを聴けと買ってきたくれたのがマーチ集のレコードでした。それを聴いていたとき、おまけで聴いたのが和製ポップスというものでした。洋楽なんですが日本語の歌詞で歌われていました。ですから、洋楽というイメージは無かったものです。この「ワシントン広場の夜はふけて」もダニー飯田とパラダイスキングやダークダックスが歌っていたものです。日本語の歌詞は以下のようなものです。そのパラキンの歌です。以前のリンクが切れましたので新しいものと変えました。
1 静かな街の 片すみに
冷たい風が 吹き抜ける
(*)ワシントン広場の 夜は更けて
夜霧に浮かぶ 月明かり
2 冷たい風が 吹き抜けて
黒い落ち葉が ただひとつ
(* 繰り返す)
黒い落ち葉が ただひとつ
(* 繰り返す)
3 黒い落ち葉が ただひとつ
風の吹くまま 舞っている
(* 繰り返す)
風の吹くまま 舞っている
(* 繰り返す)
4 風の吹く間に 待っている
男心を 誰が知る
(* 繰り返す)
男心を 誰が知る
(* 繰り返す)
5 男心を 誰が知る
冷たい風が 知っている
(* 繰り返す)
冷たい風が 知っている
(* 繰り返す)
でも、この曲は原曲も知っていました。もともとはインストゥルメンタル曲でのザ・ヴィレッジ・ストンパーズ(The Village Stompers)が演奏していました。アメリカでは1963年9月、当時まだ無名だったニューヨーク州グリニッジ・ヴィレッジに由来するジャズバンドで、フランク・ハッベル、ディック・ブランディ、ドン・コーツ、ミッチェル・メイ、ラルフ・ケイサル、レニー・ポーガン、アル・マクマナス、ジョー・マーラニルが所属していたデキシーランドジャズ・グループのザ・ヴィレッジ・ストンパーズがエピック・レーベルから発表したシングルです。9月にビルボード誌の第2位に、アダルト・コンテンポラリー・チャートの第1位にそれぞれランクインし、10月には豪州のヒット・チャートの第1位に輝いています。ちなみにB面は邦題が「ウィーンの夜はふけて」で原曲はモーツァルトのトルコ行進曲でした。オリジナルはこんな曲です。
曲がヒットしたことで後で歌詞が付けられていました。これが日本でもヒットした訳ですが、タイトルになっている「ワシントン広場」は19世紀に通用していたグリニッジ・ヴィレッジの旧称なんですね。日本語詞を書いた漣(さざなみ)健児は本名を草野昌一といいました。 早稲田大学第一商学部在学中から父親の経営する新興音楽出版社(現:シンコーミュージック・エンタテイメント)で音楽雑誌(ミュージックライフ)の編集に携わり、のちに父親の跡を継いで同社の社長・会長を務めましたが2005年に亡くなっています。当時の訳詞は超ぶっ飛んでいて、この訳詞もアメリカの原詩とはまったく違う内容になっています。原詩の1番は
From Cape Cod Light to the Mississip,
to San Francisco Bay,
They're talking about this famous place,
down Greenwich Village way.
They hootenanny all the time
with folks from everywhere,
Come Sunday morning, rain or shine,
right in Washington Square.
ヒットした「ジ・エイムズ・ブラザーズ」の歌です。They're talking about this famous place,
down Greenwich Village way.
They hootenanny all the time
with folks from everywhere,
Come Sunday morning, rain or shine,
right in Washington Square.
となっていて、言ってみれば吉幾蔵の「おら東京さ行くだぁ」みたいなコミカルなものになっています。ちなみにhootenanny(フーテナニー)は聴衆も参加できる形式ばらないフォーク・コンサートのことです。当時はカレッジ・フォークがはやっていましたからねぇ。懐かしいことばです。アメリカの東から西までは幾つも週があるけれど、ニューヨークが良いなぁ。ニューヨークもグリニッジ・ヴィレッジのワシントン広場でフォークでも歌おうやなんて内容と、訳詞の冷たい風が吹く夜更けにワシントン広場の片隅で来ない恋人を待ち続ける切ない男心を歌ったものとでは雲泥の差です。で、よく見ると訳詩はちゃんと前の歌詞の2行目を次の節の1行目に使うというふうに少しずつずらして重ね合わせ、全体として1つの情景を表すというしゃれた構造になっています。洒落てます。多分原曲通りの訳詞では日本ではヒットしなかったんジャあないでしょうか。
ヒットしたことで数々のアーティストが取り上げています。ジャズのアレンジではケニー・バルがこんな演奏を残しています。
ジェームスラストは歌入りのバージョンで演奏しています。
ファウスト・パペッティといえばアルトサックス奏者なのですが、ここでは最初はバス・クラリネットを吹いています。
この曲をリアルタイムで知っている人は多分60歳以上でしょうなぁ。さて、最後はあまり取り上げられることの無いB面の「ウィーンの夜はふけて」です。この曲、出来が悪かったのかLPには含まれていません。聴けば納得です。こちらはしっかりディキシーしています。