バリのガムラン音楽 その2 | geezenstacの森

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バリのガムラン音楽 その2

曲目/
 
(日)民族音楽シリーズ『バリ島のガムラン音楽』

 

A面
1.チョクロ・ブオノ 7:59
2.ゴンバン・スリン 12:19
3.パルノンキア 6:43
(ブサキ村のガムラン・ゴングの演奏)
B面
1.アンクルン 7:20
2.バリス 5:03
3.スガリノ 4:53
4.バロン・ダンス 5:43
5.タブ・ガリ 4:56
(ブリアタン村のガムラン・スマル・プグリガンの演奏)

 

採録:ジェラール・シヴェ

 

録音:1960年代後半 バリ島、ブサキ、プリアタン

 

キング GT-5001(原盤バークレイ)

 

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 ノンサッチのエクスプローラーシリーズは未知との遭遇でしたが、実はこの頃個人的には密かに民族音楽ブームでした。それはNHKのFMで、毎週土曜日に放送されていた「世界の民俗音楽」という番組でした。実は月ー金では朝のバロックという盤雲があってその付録みたいなものでしたが、これが意外と面白かったのです。解説は故小泉文夫で、氏の解り易い解説で、世界中の音楽を楽しむことが出来ました。この番組、1965年から放送されていました。当時はレコードも掛かっていたのでしょうが、小泉氏が自ら現地へ赴いてデンスケで収録した音源がかなり放送で使われていたと思います。

 

 そういう、環境の中、1973年になると突如キングレコードから廉価盤で「民族音楽シリーズ」が発売されました。1枚1000円で、そのトップがここに挙げた「バリ島のガムラン音楽」でした。そして、このレコードの音源は「BARCLAY」となっていました。このレーベルはレイモン・ルフェーブル楽団のレコードでは馴染みだったのですが、民族音楽までも手がけていると知ったのはこの時が初めてでした。1953年、バンドリーダー 、 ピアニスト 、 製作者 と ナイトクラブ のオーナーとして活躍していたエディ・バークレーが設立したフランスのレコードレーベルで、元々はジャズが中心でした。そんな認識しかなかったので、そこから民族音楽が大量に発売されたのには驚きました。

 

 このシリーズの素晴らしいのは、監修が小泉文夫氏と中村とうよう氏が行なっていることで、1000円盤でも手を抜いていません。このレコードでも小泉氏が採録者のジェラール・シヴェ氏の間違いを指摘しながら解説を書いています。そんなことで、ガムランについての知識を深めることが出来ます。先に紹介したノンサッチのアルバムもこのブリアタン村のガムラン・スマル・プグリガンの演奏でしたが、ここでもその演奏に巡り会います。ガムラン音楽と一口に言ってもインドネシアにある800余の村ごとに音楽が違います。

 

  ガムラン音楽は、今でもインドネシアやマレーシアを中心に広く各地で演奏されていますが、バリ島とジョグジャカルタなど中部ジャワ島のガムランが特に有名でしょう。しかし、この両者は、かなり対照的で、複雑なリズムと精緻な音色で迫力あるバリのガムランに対し、ジャワ宮廷によって育まれたジャワ中部のガムランは、落ち着いたテンポで響きも優雅です。これら2枚のレコードでガムランを知った小生はどちらかというとばりのガムラン音楽がディフェクト・スタンダードでジャワ宮廷のガムランはイマイチ好きになれません。

 

 さて、A面はブサキ村のガムラン・ゴングです。主要な旋律楽器では、「ガンサ」と呼ばれる木琴のように真鍮片を並べた鍵盤打楽器、これを金槌状のハンマーで叩くのですが、じつに澄んだ美しい響きです。「グンデル」も同様鍵盤打楽器ですが、サイズが少し大きく共鳴筒付きになります。何れも2台1組で使用することが多く、それぞれ音高も微妙にずらして調律されているので、独特の唸りを生じ緻密な音楽が再現されます。そして、「ゴング」これはまさにボクシングの試合に使われるドラのような楽器です。さらに、「トロンポン」(1人用)とか 「レヨン」(4人用)と呼ばれる楽器は、このゴングを8~11個、台の上に並べて叩くもので、主に和音奏に使用されますが、少しくもりのある独特の音を響かせます。さらに、「スリン」という竹製の縦笛や、「ルバブ」と呼ばれるアラビアから伝わった弦楽器、「クンダン」と呼ばれる太鼓などがここでは使用されています。このレコードジャケットの写真も小泉氏の撮影によるものですが、編成からブサキ村のようです。こんな演奏になっています。曲は1曲目の「チョクロ・ブオノ」です。

 

 

 さて、このシリーズの監修者でもある故小泉文夫氏は1927年、東京生まれで東京大学文学部美学科へ入学、卒業後は、東京大学大学院人文科学研究科美学専攻課程に籍を置きながら平凡社に勤務。邦楽や東南アジアや中近東、アフリカ音楽に興味をもち、日本の伝統音楽の研究やNHK交響楽団機関誌の編集委員なども務めました。先に紹介した世界の民族音楽」を受持つ傍ら、インドを初め世界各国の民族音楽の採取、録音、保存。また幾多の民族音楽関連のコンサートやレコード企画のプロデュースと共に多数の著書を著わし、民族音楽の普及に心血を注がれたのですが、1983年惜しくも肝臓ガンで死去。享年56歳でした。

 

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 このレコードの白眉はやはりB面のブリアタン村のガムラン・スマル・プグリガンの演奏でしょう。耳に馴染んでいたせいもありますが、このバークレーの録音はなかなか優秀で、本当の意味でガムラン音楽の素晴らしさを開花させてくれました。こちらも1曲目の「アンクルン」です。

 

 

  民族音楽のシリーズは一部で話題にはなりましたが、その頃はまだニッチな世界で、このシリーズでは他に、インドやトルコ、ジプシーにアンデス、ブラジル、ギリシャなどを集めましたが、小生もその全貌にどっぷり身を浸らせる処までは至りませんでした。