巨泉 人生の選択 | geezenstacの森

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巨泉 人生の選択

著者 大橋巨泉
発行 講談社

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 好きに生きてこそ人生だ!仕事や会社にしばられるな。巨泉流生き方のすすめ。大人気の司会業を56歳でセミ・リタイアメント。春・秋は日本、夏はカナダ、冬はオセアニアに住む快適生活。シングルのゴルフ、釣り、ジャズ、旅行、読書を堪能。多面的に自己実現を成しとげた男のやり方。 ---データベース---

 大橋巨泉さんの死亡ニュースに接して、来るべき時が来たなあという印象をもちました。で、急遽積ん読状態の本の山からこの本があったのを思い出し引っ張り出しました。この本は大橋巨泉氏の自伝的内容ですが、自分で自分の人生をデザインしてなるべく若いうちにセミ・リアイアしたい人向けに書かれた本です。ただ、巨泉さんレベルはかなり資金的・技能的に恵まれたものであり、また、時代的な運も重なったものです。しかし、一般の人にとっては少々ダウンサイズして考えれば良いのかもしれません。夏のカナダをを北海道に、冬のオセアニアを沖縄にミニマイズすれば定年真直の人でも、結構擬似的にこういう人生をエンジョイ出来るのではないでしょうか。要は、ハッピーリタイヤに向かっていかに計画、準備を行うかということを説いた実践的な本でもあるのです。まあ、小生は少々間に合いませんでしたが、今50代にさしかかろうとする人であれば読む価値はあります。

 章立ては以下のようになっています。

序章 セミ・リタイア後の優雅な生活
第1章 セミ・リタイアは積極的生き方
第2章 巨泉の核ができるまで
第3章 男は仕事-自己実現のやり方
第4章 投資-お土産店を開業
第5章 趣味は人を助ける
第6章 家族という絆
第7章 友を選ばば…
第8章 人生で大切なこと

 高校時代のことはさらっと書いてありますが、この時期が人間形成の一番大切な時期でしょう。巨泉氏は典型的に国語系人間で、理数系はまったく不得意であったようです。ただ、敗戦の時に人生観ががらっと変わり、アメリカに対して敵対するのではなく、そこから学ぼうと務め、英語の習得を自己の人間形成のポイントに据えたことが着眼点として良かったのでしょう。これがジャズにのめり込む動機ともいえますし、歌詞の意味を理解することで業界との太いパイプを築いていきます。早稲田というか環境の中で、氏がめざしたのは最初は短歌の世界だったというのには驚きました。もちろん目は高校時代に出会った先生にあったのですが、そういう出会いが大橋巨泉の骨と血を形作っていったのでしょう。何しろ、「巨泉」という芸名はこの高校時代に既にあったものなのですから。

 しかし、その短歌の世界は寺山修司との出会いで脆くも崩れ去り、残ったジャズという選択肢の中で生きた英語を操れたことで業界から声が掛かっていきます。人間どういう所にチャンスが転がっているか分りませんが、時代がジャズ喫茶を生み出し、その背景の中でイソノテルオ氏と大橋巨泉は水を得た魚のように成長していきます。その繋がりには枝葉があり、テレビ勃興期という時代もまた彼に味方します。

 あとは、最近のワイドショーで取り上げられる構成作家の裏の世界から司会者という表舞台に出ても才能を生かしながら一時代を築いていきます。北野武を和田アキ子を、そしてタモリを呼び捨てに出来る人間は業界広しといえども大橋巨泉ぐらいしかいないでしょう。

 この本では冒頭に「セミ・リタイア後の優雅な生活」が披露されます。それは、「You can't have everything」の考え方です。要するに「何もかも欲しがってはいけない」「あまり欲張ってはいけない」「ゆずる所はゆずるべし」の精神です。このさじ加減さえ会得出来れば、人生まで楽しく生きることが出来る、と説くのです。そして、時で勝て来内容を語っていくわけですが、その極意は4つに纏められています。すなわち、好きに生きるための優先順位は──

1.まず健康(そのため禁煙)
2.良きパートナー(妻)
3.複数の趣味
4.財政的裏づけ(持家)

 団魂の世代で、仕事が趣味という人間だった人は多分早くボケるか熟年離婚、はたまたは人生に希望が持てなくなって自殺という選択に突き進む人が多いそうです。しかし、人生は最後には死を迎えるのです。その死を迎えるにあたって、人生最後は楽しもうよというのが巨泉流の生き方です。早くから海外の生活を肌で感じ取っていた氏は、太平洋のこちらでは、軽視されたくなくて老齢まで地位にしがみつき、あちらでは若くして引退すればするほど敬意を表されるという生活パターンの違いに気がつきます。この発想の違いを、一日でも早く身につけたものが人生の本当の勝者なんでしょう。

 運も味方し、人生に対して真正面から対峙してきた氏だからこそ、1990年に57歳ですべての仕事を終わりにし、セミ・リタイヤに入ったのです。セミというのは隠居では無いということです。何しろ、彼は「OKギフトショップ」という土産物屋をカナダ、オーストラリア、そしてニュージーランドに展開しています。あれ、ハワイは?とお思いになるでしょうが、アメリカは銃の社会であり、ハワイは本土から離れた物価の高い1州でしかないということで、住むには値しないという事になったそうです。レベルの高い生活を維持しているようでエコノミーな部分はちゃんと考え方の中に持っているのでしょうな。

 そして、この本の纏めとしてロイド・シェアラー『幸せな人生への手引き』を引用しています。これは大橋家の家訓でもあるようです。それは「後半生への九戒」ということで、次のようになっています。

|||1.誰もこの世を生きて通り抜けることはできない。だから正しい価値観を持とう。
2.体を大事にしよう。健康こそ万人の富の源泉である。健康なくして幸福は不可能だ。
3.いつも明るく、人の役に立つ人間であれ。情けは人のためならず。
4.怒りっぽい人やもめ事の好きな人を避けよ。そういう人は執念深く、復讐心が強いものだ。
5.熱狂的信者も避けよ。彼らはユーモアを解さない。
6.自分でしゃべるより、人の言うことを聞くようにしよう。自分でしゃべって得ることはない。
7.人に助言を与えることにも用心深くしよう。賢い人はそれを必要としないし、愚かな人は心に留めないだろうから。
8.若い人に優しく、年寄りや困ってる人に同情的で、弱者や道を誤った人には寛容であれ。人生のどこかで、自分もその一人だったか、またそうなるかもしれないから。
9.成功と金を同等に考えてはいけない。世の中には、大金を儲けながら、人間としては惨めな失敗に終わった人が多勢いる。『成功』で最もじゅうようなことは、人が如何にそれを成し遂げたかということ。}}}

 まあ、詳しくはこの本をお読み下さい。小生は単行本で所有していますが、今は文庫でも読むことが出来ます。でも、絶版かな?でも、暫くすると平積みされるかもしれませんなぁ。

 最後に、

 大橋巨泉氏は早稲田大学を中退しています。タモリも同じ。ホリエモンも東大中退でしょう。そして、ビル・ゲイツもハーバード大を中退。成功者は大学なんて卒業していないのです。そう、今の世の中、大学なんかいかなくても意思と目的があればゴールはめざせるものなんでしょう。