知らぬが半兵衛手控帖ー主殺し | geezenstacの森

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知らぬが半兵衛手控帖ー主殺し

著者 藤井邦夫
発行 二葉社 二葉文庫

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 日本橋の高札場に年端もいかぬ子供が一人泣きながらしゃがみ込んでいた。臨時廻り同心の白縫半兵衛は、新吉と名乗るその子供が住む小舟町の長屋を訪ねてみるが、そこには新吉の父初五郎が腹を刺されて倒れていた。初五郎を刺したのは一体誰なのか、高札場に新吉を残して姿を消した母親おとよの行方は―。“知らぬ顔の半兵衛”の粋な人情裁きを描く人気シリーズ第十八弾。 ---データベース---

 小石川療養所を中心に話が展開する「養生所見回り同心神代新吾事件覚」シリーズは、どちらかというと、この「知らぬが半兵衛手控帖」のスピンオフ作品という位置付けです。こちらがメインのシリーズで、これはその18巻という事になります。2012年に刊行されたということは、養生所見回り同心神代新吾事件覚/淡路坂」と同時期の作品です。そのために書き出しがよく似通ったものが存在する巻となっています。

 事実に気づかぬ振りをして罪を軽くすることで、「知らぬ顔の半兵衛」と呼ばれる臨時廻り同心。4つの短編で構成される。テーマはDV、好色の殿さまとお家騒動、嫌われ者の実父が息子への贖罪、律義者。優しい口調に半兵衛の人柄が表れる作品です。その中での第2話が新吾のシリーズ手よく似た展開がありました。ただ、殺されるのが老人と子供で逆になっているという点で、話の展開が違う方向に進んでいきます。まあ、同じような展開でも、切り口を買えると別のストーリーが生まれるという作家の力量でしょう。

 さて、この巻の章立てです。

●主殺し
●落し物
●鼻摘み
●金づる

 「主殺し」はデータベース記載のストーリーですが、要は男と女の三角関係のもつれによる傷害事件です。ここに子供が絡んでいるということで、半兵衛は子供よりの視点でことを穏便に解決しようと務めます。本来なら殺新未遂事件としての裁きが当然なのですが、そこは知らぬが半兵衛ですから、タイトルとは裏腹な解決になります。
 
 「落し物」はこんなものを落とすのかという始まりがやや解せないのですが、好色な殿様とそれを快く思わない奥方の仕打ちが思わぬことから露呈するという展開です。本来なら町奉行の関わる事件ではないのですが、物乞いの男が殺されたことから首を突っ込むことになります。ドラマの脚本ではありがちな展開で、ここに松平家の葵の御紋が関係するということでちょいと重みのある展開です。

 「鼻摘み」が子供が殺される展開です。転びそうになり御家人にすがりついてことでお手打ちにあってしまうのですが、これがまた大名家のバカ息子なんですから半兵衛が立ち上がるのはむげ無きではありません。まあ、ここでもちょっと複雑な家族関係があり、鼻摘みはそのためにこのバカ息子に立ち向かうのですが当然のごとく最後は死にます。

 「金づる」は正直者が馬鹿を見ない半兵衛の計らいが見事です。ただ、それにまつわるストーリーがやや唐突で、こんなことで本当に金づるになるのかというちょっと納得のいかない展開です。

 さて、「養生所見回り同心神代新吾事件覚」シリーズは第5巻の「人相書き」で一応完結のようです。養生所見回りではテーマが続かないんでしょうかね。浅吉の素性は分らずじまい、新吾の行く末も分らずじまいという何とも中途半端なシリーズでした。