現在「UFJ貨幣資料館」では「広重の花鳥版画」と題された催しが開催されています。前回がちょっと情けない展示だったので今回はあまり期待しないでいきました。ですが、最初から期待はずれです。毎回案内状が来るので、その案内状を持っていくと広重の絵はがきが一枚もらえるのですが、いつもは展示に関連した絵はがきが用意されています。今回はどんなものが頂けるのかと期待したのですが、のっけから外れです。既存の風景がの中から選んで下さいと出されたのは、過去に配布された東海道五十三次の図柄です。一枚ぐらいは花鳥風月の作品があっても良さそうなのに・・・

個人的には「月に雁」を期待したんですがねぇ。これは個人的には広重を知るきっかけになった作品です。とはいっても知ったのは切手でです。昔は切手にも興味がありました。いえ、今でも時々は買うんですけどね。この「月に雁」は1949年に発行された切手です。郵便週間の記念切手で、今は1枚9800円ほどの値が付いています。しかし、 昭和30年代から40年代にかけては、今からは想像もできないほどの空前の切手ブームがありこの切手の価値も高騰しました。大卒の初任給が2万~3万だった時代にあって、1万円を超えていたこともあったそうです。小生が集めていた昭和40年代半ばには6~7万円の値をつけていましたっけ。人気となった原因は、一つに例をみない巨大な切手だったことがあります。今ではさほど珍しくありませんが、7cm×3cmは当時ユニークなビッグサイズでした。

そういう高価な物というイメージがあったので、今回の展示の中では一番見てみたい物でした。左右から藍のボカシを交錯させ立体感を作り出しています。冴え冴えと輝く満月、静かに流れる蒼い雲、そして三羽の雁。澄み渡った秋の空遠く、物悲しげな雁の声が聞こえてくるかのようです。切手では部分しか採用されていませんが、この作品の落款が変わっています。馬と鹿を象形文字のように使用して広重と読ませているのでしょうか。馬=壽と鹿=福の落款(らっかん)は江戸幕末期1830年代前半(天保年間?)に福壽の願=雁を掛けるという意味です。高い教養と供にお茶目な広重の一面を知ることの出来る作品なんです。

風景版画家としてその名の知られている広重は、実は数多くの花鳥版画も制作しています。天保年間から没するまでの約30年間にわたって作り続けられ、花鳥画が風景画とともに広重の重要な作画領域であったことがわかります。これらの花鳥画は、多く大短冊判、中短冊判という縦長の画面で刊行されています。これは、浮世絵の花鳥画が、掛物(かけもの)にされる肉筆花鳥画の手軽な代用品という性格をもっていたことの現れです。今回は花鳥版画が26枚、団扇絵が4枚、そしておまけには全15枚の「本朝名所」から6枚が展示されていました。
パンフレットには、「添えられた句や歌と絵とが見事に調和してすがすがしい詩画一致の世界を作り出し、普通の肉筆花鳥画の中に置いても、ひときわ魅力を放っています。また擬人化された動物たちは、親しくこちらに話しかけてくるようでもあり、それが時代を超えて愛されるゆえんでしょう。」とありますが、その添えられた句や歌は何の解説もありませんでした。うーん、どうも片手落ちの展示です。ちなみに、上の「月に雁」には「こむな夜か 又も有うか 月に雁」という句があります。
こんな夜がまたもあるだろうか。
冴え冴えとして輝く十五夜の月
静かに流れる蒼い雲
落つる雁たちの声。
冴え冴えとして輝く十五夜の月
静かに流れる蒼い雲
落つる雁たちの声。
せめて、これくらいの解説は付けて欲しいものですな。
今回の展示2作品が別バージョンの展示をしています。「山吹に蛙」と「小松に雉」なんですが、前者は天保の初期版と後期版、後者はタイトルが違います。扱っている雉が色彩と背景が違うものです。雉は雪景色の末が一般的なものですが、別刷りではタイトルが「小松と金鶏」となっていて、季節は春なんでしょうか山肌が見えますし、稜線が違います。これはやはり「雉」でしょう。同じ雉の仲間ですが、「金鶏」という鳥はとさかがありませんからね。背中に一部金色が配してはありますが、実物は首の後ろに縞模様がありますからね。もっとも、金鶏自体は中国南西部からチベット、ミャンマー北部にかけて分布している鳥なので、広重は何かの文献を参考に描いたのでしょうなあ。


そして、スペースが余った部分で「本朝名所」から6景が展示されています。そのトップが「「相州江ノ島岩屋之図」で北斎とはまた違う波の絵を鑑賞できます。そして。2枚目は「信州更科田毎之月」です。実際に棚田に映る月は担保の一カ所のみですが、広重はすべての田に月を映しています。まあ、写真では絶対出来ないことですが、絵画ならこういうことが出来るのですね。広重の絵は心象描写で成り立っていることがこの作品から伺えます。

他には、薩埵富士、遠州秋葉山、天橋立、拙州布引之滝が展示されています。