
1939年ナチス・ドイツ脅威下のワルシャワで、戦火のなか、ひたすら演奏を続けるユダヤ人ピアニストがいた。家族と離れ、死の収容所行きを辛うじて免れた彼は、飢えと恐怖に耐え、奇跡的に生き延びる。自らの原体験に回帰したポランスキー監督が、ホロコーストから生還した実在の天才ピアニストを描く感動作。魂を揺さぶる真実の物語。カンヌほか数々の映画賞受賞。写真多数収録。===データベース===
これは映画「戦場のピアニスト」の脚本を本にしたものです。もともとこの本にはシュピルマン自身の原作がありますからノヴェライゼーションは必要ありません。映画のシナリオがそのまま本になっています。実際、映画を見ながらこの本を読んでいるとカット割りまで映画の醍醐味を味わうことが出来ます。
ユダヤ人迫害を描いた映画で思い浮かぶのはまず『シンドラーのリスト』です。ただ、この映画は客観視点だったし、白黒画面のせいもあってどぎつさは少なく、ストーリーや演出にもわかりやすいヒューマニズムがありました。しかし、シュピルマン本人が原作の本作は、脚色されているとはいえまるで目の前で惨劇を目撃しているように生々しく描かれています。そして、自らもホローコスト体験をしているポランスキー監督は原作の冷徹な描写をそのまま映像化し、そのむごさに拍車をかけています。
もともと、このストーリーはシュピルマンの実体験を基にした原作だけに、淡々とした語り口の中に戦争の惨さと人間の尊厳さとは何かを切々と描いています。それはドイツとポーランドという図式だけでなく、ユダヤ人対親ドイツ派のユダヤ人という構図もこの作品ではきちんと描かれています。これこそが、シュピルマンの視点であって、脚本家のロナルド・ハーウッドもそこはきちんと押さえています。
この脚本の翻訳は富永和子さんなんですが、一つだけ残念なのはシュピルマンがホーゼンフェルト大尉に出会い言葉を交わすシーンの訳がどうしても見下し視線で訳されていることです。原作では大尉はシュピルマンに対して敬意を表した言葉使いをしているのに翻訳ではそうなっていない点です。ここが適切に表現されていれば、最後の大尉が捕虜になった時にポーランド兵に話しかけることの意味がもう少しきっちりと伝わるのになぁと感じました。
とにかく、この脚本があれば映画が映像でさらっと流しているようなシーンでも、ト書きがその背景を説明してくれていますので、映画をより深く鑑賞出来ます。原作と供に、この一冊も手元に有るとふんだんに映画のシーンが写真で収録されていますので鑑賞の助けになります。