ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ | geezenstacの森

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ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~

著者 三上 延
発行 アスキー・メディアワークス

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 珍しい古書に関係する、特別な相談―謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが―。---データベース---

 この巻はちょっと特徴的で、いつもは連作短編形式のビブリア古書堂シリーズですが、今回は江戸川乱歩にまつわる長編です。たまたまといっては何ですが、この本を読む少し前に江戸川乱歩の短編小説集を読んでいました。そんなことで、この小説にも登場する「二銭銅貨」を読んでいたこともあり、非常に興味深く読むことが出来ました。ここで注意したいのはこの「二銭銅貨」のネタばらしがあるので、出来れば乱歩の短編小説ぐらいは読んでおいた方がいいのかもしれません。その方が納得しながら読むことが出来ます。

 この第四巻は以下の構成になっています。

プロローグ
第一章 江戸川乱歩『孤島の鬼』
第二章 江戸川乱歩『少年探偵団』
第三章 江戸川乱歩『押絵と旅する男
エピローグ)

 まずはプロローグです。当時はリアルタイムで書かれていましたから、2013年3月11日の東日本大震災が描かれています。篠川姉妹は従姉妹の結婚式に行き、大輔はひとりで店番をしていいるとろへ、この巻で初めて姉妹の母親である智恵子が登場します。そして、文香が預かっていた、本来栞子さんが智恵子から渡されていた「クラクラ日記」が、栞子さんのところへ戻ってきます。登場人物の人間関係がだんだんと姿を表してくるのでいい展開です。ただ、この登場の仕方、娘達がいない時を見計らったタイミングでの登場ということでなんか作為を感じさせます。

第一章『孤島の鬼』
 智恵子が訪れた翌日、栞子さんと大輔は、地震に備えて老朽化した母屋を改築するため、本を運び出していたのですが、本の山の奥の方に埋もれていた本を発見する度に栞子さんが手を止めるせいで、作業はあまり捗りません。そこへ、来城(きしろ)慶子の代理人と名乗る人物が現れ、ある依頼に来ます。この来城慶子はかつて智恵子が目録で通信販売をしていた頃の客の、鹿山明の関係者という設定です。登場人物が錯綜してきますが、第1作から繋がっていますので、順番に読んでいかないと辻褄があわなくなります。そして、この巻は江戸川乱歩の謎解きが持込まれます。

 来城慶子は鹿山明という江戸川乱歩マニアの男の愛人であり、コレクションも、この立派な家も鹿山明から相続したものということです。ただ、慶子は半年ほど前に喉頭癌で声帯をとってしまっており、おまけに車椅子に乗っているため、色々と生活に支障があることが分かりました。ビブリア古書堂へ行くの代役を立てたのも、そのためだったのです。そして、依頼は鹿山明が生前、慶子の家の金庫の中に何か貴重なものを入れたのですが、鍵は本妻の家にある上に、暗証番号(カタカナで何文字かは不明)も分からず、金庫を開けることができないとのこと。その金庫を開けて欲しい、というのが慶子からの依頼でした。成功報酬は、鹿山明の貴重なコレクションをビブリア古書堂に売るというおいしいものでした。

第二章『少年探偵団』

 第一章のつづきで、同日の夕刻、鹿山明についての資料が篠川家に届いたということで、大輔は再び篠川家へ行きます。するとそこには文香と、ホームレスせどり屋の志田がいて、今回の依頼の件について話をしていました。この志田のこのタイミングでの登場は何か引っかかりがあります。雪ノ下を去ってから2時間も経たないうちに届いた資料は、何枚ものレポート用紙に系図やら鹿山明の父・鹿山総吉の略歴などが、確りとまとめられていた。明は総合専門学校の経営者として成功し、今は明の息子・義彦が学長を務めているのです。こんな手際の良いことにふたりはいぶかしいものを感じます。ここで、話の流れで、大輔は栞子さんにデートしてほしいと言い、篠川家を出ました。

 翌日、栞子と大輔は鹿山明の本宅へ行き、明の息子の義彦と会いました。義彦が持っているはずの金庫の鍵をもらい受けるのが第一の目的だったのですが、義彦は本当に鍵の在り処を知らない様子でした。当然、義彦は父親の愛人の慶子に良い感情を抱いておらず、厳格だった父親が愛人を囲っていたこと、そして江戸川乱歩マニアだなんて信じられない、と話します。ただし、物事には表と裏があるように、義彦は、唯一の例外として江戸川乱歩の「少年探偵団」を所有していました。そう、本題の少年探偵団の登場です。今では「名探偵コナン」に引き継がれていますが、元祖です。当然「少年探偵団バッジ」が関わってきます。栞子たちは義彦のポプラ社版の「少年探偵団」を見せてもらった後、鹿山明の書斎を見せてもらい、書斎で少年探偵団のBGバッジを発見します。ところが、この探偵団バッジは光文社版のおまけだったのです。そして、探すと書斎の中に隠し戸棚のようなものがあり、そこに鹿山明の「少年探偵団」のコレクションがあるのではないか、と栞子さんは推理します。

 義彦には直美という妹がいるのですが、子どもの頃の義彦はそれを宝物にしていて、妹の直美にすら貸さないほどでした。そして、この直美は何と3巻に登場したヒトリ書房で働いているのです。また、義彦、直美、そしてヒトリ書房の井上太一郎の3人は、子どもの頃に少年探偵団ごっこをしていた幼馴染だったのでした。この巻の江戸川乱歩的推理展開はこの後、これらの人物を巻き込みながら展開していきます。テレビドラマではこの乱歩の話が最終回に登場して、栞子と智恵子の親子のバトルが展開されますが、小説では、より複雑な人間関係が展開していて読み返しながら進まないと話が混乱してしまいそうです。

 直美がキーになって、生前の鹿山明がソファの中にコレクションを隠していたことが明らかになり、やがて、鍵も見つけることが出来ます。しかし、その鍵を持って来城慶子の家へ行くと、何とそこには智恵子がいたのです。

第三章「押絵と旅する男」

 母娘なのに敵対する関係ですが、栞子と大輔は車に智恵子を乗せ、ビブリア古書堂へ向かう途中、1章の書名当てクイズの話題になります。智恵子は栞子さんよりも早く、
そして栞子さんも気付かなかった評論集「鬼の言葉」の可能性もあると指摘します。母娘の壮絶なバトルですが、母の智恵子は主人公の篠川栞子を上回っています。伊達に古書ハンターとして世界を飛び回っているだけでは無いようです。で、ビブリア古書堂に着くとそこには妹の文香が待っていました。文香は、母親が失踪する際、自分には本をくれなかったことで恨んでいましたが、実は文香は小さいときに母親がくれた安野光雅の「旅の絵本」を捨ててしまい、それを栞子さんが保管していたことが明らかになります。どう考えても、「クラクラ日記」といい「旅の絵本」といい、失踪した母親が娘に送る本のチョイスとは思えないですなぁ。

 このとき文香は母である智恵子に、篠川家と店は姉妹で維持できているので母が必要な状態には既に無く、今までのような連絡もせず会いに訪れない状況を続けるようなら、帰ってきた時に家に入れない可能性もあり得ることを智恵子に宣言するのです。

 去り際、智恵子は大輔と栞子に、あの金庫には乱歩が自分の手で捨てたはずの「『押絵と旅する男』の第一稿」が入っているという自分の推理を語ります。このあたりの推理、乱歩が名古屋の大須のホテルでり出来事だと知って驚きました。また、金庫のパスワードについては、鹿山明が「わたし以外は誰も知らない名前にするつもりだ」と言っていたというヒントもくれます。

 去り際の智恵子のこの行動を訝しく思った栞子は直ぐに大輔を呼び、鹿山邸へ行くことを頼みます。案の定、先回りされていました。智恵子は先に鹿山邸に電話をかけ、栞子と声がそっくりなのを利用して栞子に成りすまし、堂々と侵入していたのです。スリリングな展開ですが、鹿山義彦の息子の鹿山渉が暗証文字のヒントになりそうなものを持ち出していたことが分かります。チャラい感じの鹿山渉は栞子さんをナンパしようとしますが、栞子が古本オタク文学少女であることを知ると、手の平を返すようにヒントをくれました。それは二銭銅貨のレプリカでした。それは乱歩の短編小説「二銭銅貨」のレプリカではなく、本物の銅貨のレプリカでした。さあ、ここで「二銭銅貨」に登場する「点字の」暗号を元にした、暗号文が書かれた紙が登場するのですが、ここではまたひと捻りあります。そして、金庫の中身ですが、それは読んでのお楽しみです。

エピローグ

 ここで、この巻でキーマンとして登場した志田の正体が暴かれます。智恵子に篠川家のこと、栞子が慶子から依頼を受けていること、栞子と大輔の関係などの情報を提供した第3者の存在が志田だということを大輔は推測します。本のことでは栞子に歯が立ちませんが、語り部としての大輔が単なる狂言回しに終わらず独自に推理していく所がこの巻の肝になっています。

 さて、第6巻が発売されたのは昨年の12月でした。この調子でいくと第7巻はまだ年末になってからでしょうかね。