ラウテンバッハーのロカテルリ | geezenstacの森

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ラウテンバッハーのロカテルリ

曲目/ロカテルリ「ヴァイオリンの技法 op.3」

 

1.Concerto 1 In D Major 6:33 5:48 8:34
2.Concerto 2 In C Minor 10:51 4:38 8:42
3.Concerto 3 In F Major 10:24 7:41 6:57
4.Concerto 4 In E Major 9:13 4:11 9:18
5.Concerto 5 In C Major 9:42 2:41 6:58
6.Concerto 6 In G Major 8:44 2:34 6:28
7.Concerto No. 7 In B-Flat Major 9:25 6:04 7:07
8.Concerto No. 8 In E Minor 8:41 3:53 8:32
9.Violin Concerto No. 10 in F Major 6:56 5:11 7:40
10.Violin Concerto No. 11 in A Major 7:38 4:44 7:48
11.Violin Concerto No. 12 in D Major 7:38 4:00 10:42

 

ヴァイオリン/スザーネ・ラウテンバッハー
指揮/ギュンター・ケール
演奏/マインツ室内管弦楽団

 

録音/1957 

 

Quadromania 222143(原盤 VOX)

 

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 先日の「クラシックは死なない」で名前があがっていたスザンネ・ラウテンバッハーのロカテルリです。今の人はこの名前は余り聞いた事が無いでしょうが、レコード時代全盛の1960-70年代を知っている人に取っては結構馴染みのある名前でした。小生もラウテンバッハーのレコードを最初に購入したのはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でした。コロムビアのダイヤモンド1000シリーズの一枚で、個人的には曲が聴きたくて演奏者は二の次という感じで購入したのを覚えています。指揮者はフーベルト・ライヒェルト、オケもウェストファリアン交響楽団とまったく知らないものでした。
 
 廉価盤が市場に登場した頃は、中々この曲のものが無かったように思います。調べると、ティヴール・ボルガ/バルビローリ/ハレ管の演奏もあったようですが、中学生だった当時はどの演奏者もほぼ知らない状態でしたから、ラウテンバッハーのものはロマンス2曲が収録されていてコストパフォーマンスが高かったのでこちらを選択したのでしょう。

 

 その頃の印象は、取り立てて特徴の無い演奏で曲を知る以上の感想は持ち合わせませんでした。ただ、端正な演奏で引かれるものがあったのでしょう、聴き惚れて聴き込んだことだけは覚えています。それで、ラウテンバッハーの名前は刷り込まれました。このブログでも他にヴィオッティのヴァイオリン協奏曲を取り上げたことがあります。

 

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 そんなラウテンバッハーでしたが、このCDをいつ買ったかはとんと忘れていました。このクアドロマニアは2004年に発売された物で、かなり日本市場を意識していたのかジャケットにカタカナで「クフドロマニア」と書かれていたのが印象的なシリーズでした。その名の通り4枚組の構成で、CLASSICO、VOX、RPOレーベルなどの音源を使用して尚かつ激安で販売していたので飛びついたものです。その中にこんな音源が含まれていたんですなぁ。このシリーズ玉石混淆で、中にはエルネスト・ブールのモーツァルト交響曲集とかペーター・マークのシューベルトの交響曲集とかあり狂喜したものです。このラウテンバッハーのロカテルリはVOXの音源です。最初このCDの告知を見た時は1ー12番が収録されていることになっていました。しかし、実際には9番が欠落しているんですなぁ。まあ、そんなことで裏切られた気がして多分一回聴いたきりで棚にしまい込んでしまったものでしょう。

 

 久しぶりに棚から取り出して聴いてみました。最初の一枚目の1番から3番を聴いた印象はまるでムードミュージックのような演奏だなという印象でした。ところがCDの2枚目になると第4番からですが、俄然音楽が輝いて来て、ヴァイオリンソロのカプリッチョになるとグイグイ惹き込まれていきます。このロカテルリのカプリッチョは後のパガニーニに多大な影響を与えています。パガニーニの24のカプリースはこのロカテルリに触発されて書いたといわれています。カプリッチョ(カプリース)は日本語では奇想曲と訳されています。カプリースというのはフランス語、カプリッチョはイタリア語で「気まぐれ」という事なんですね。と言うわけできままなこの曲ですが、きままと言うよりは、かなりテクニカルな曲になっています。

 

 ところで、作曲者のピエトロ・ロカテッリはイタリアのベルガモ出身出身なんですが、ローマで学んだ後1729年にアムステルダムに定住し、その地で没したイタリア後期バロック音楽のヴァイオリニスト・作曲家です。この作品3には急~緩~急の3楽章からなる、独奏ヴァイオリンのための協奏曲が12曲収録されています。特徴は、各曲の第1&第3楽章の最後に、「カプリチオ」と題された長いカデンツァ(技巧的な無伴奏部分)がついていることです。1曲の協奏曲が2つのカプリチオを含むので、計24のカプリチオが組み込まれています。ということで、パガニーニに繋がるわけですな。下は第1番です。

 

 

 不思議なもので、このCD聴き進むに従ってラウテンバッハーのひたむきな魅力に取り憑かれていきます。多分バックのオーケストラが地味すぎて、最初はつまらない演奏に聴こえたのでしょう。しかし、控えめなのはソロを引き立てる為の演出かも知れません。タイトルが「ヴァイオリンの技法」ですからソロヴァイオリンにスポットが当たっていることには違いありませんからね。そして、ラウテンバッハーは決して技巧的に超絶ということはありませんが、このカプリッチョを聴き手に解り易いようにひたむきにヴァイオリンと向かい合って演奏しています。そういう良さが聴いているとひしひしと伝わって来ます。

 

 このクオドラマニアのシリーズは限定盤として発売された物ですから今ではすっかり廃盤になってしまっています。実際この録音はオリジナルのVOXからも2枚組として2管に分けて発売されています。まあ、そう言う所に配慮し手か、このライセンス盤では9番を省略しているのではないでしょうか。もう一つ難癖をつけるなら、オリジナルはどうか知りませんがマスターに起因すると思われるドロップアウトが散見されます。下は5番です。

 

 

 ラウテンバッハーは技巧をひけらかす大家のような派手なパフォーマンスは無く、室内楽奏者としても活躍していたように、どちらかというと内面から出る正直さがあって、楽曲の世界に一身を献じようとする真摯さが感じられます。決して銘器のヴァイオリンを使っていたとは思われませんが、巨匠と較べても遜色のない造形力と高い格調を持っています。今の時代からすると、スタイルは古いですが味わいがあります。最後は11番です。