
『スター・ウォーズ』『サイコ』『失楽園』『アンダーグラウンド』…壮大なシンフォニーから民族音楽まであらゆるジャンルの音楽が楽しめてしまうスコア・サントラの広大な世界。---データベース---
立風書房の「200CDシリーズ」の一冊です。実際には200枚(+α)の映画音楽ディスクを一ページの解説と関連ディスクとで紹介しています。この「200CDシリーズ」、たった200枚とはいえことサントラに関しては盛り込まれた情報量はけっこう莫迦になりません。世界で最初の映画音楽は1908年、サン=サーンスが『ギーズ公の暗殺』(L'Assassinat du duc de Guise、アンドレ・カルメット監督およびシャルル・ル・バルジ監督のサイレント映画)のために作曲した音楽と言われていますが、ここではその120年あまりの古今東西の映画音楽を俎上にのせて、映画のさまざまなジャンルや時代を横断的にたのしむことができる構成になっています。執筆者には、明石政紀(『第三帝国と音楽』ほか)、片山杜秀(『伊福部昭の宇宙』ほか)、小沼純一(『ミニマル・ミュージック』ほか)など、14名が名を連ねていますが、テーマ事に分担して書いていますので、複数のページで同じ作品が登場しているものもあります。
目次としては次の内容になっています。
目次
第1章 映画の中で音楽はどのように鳴るのか?(映画における音楽の役割、感情や動きを表現する映画、ジャンル別の代表的な名曲)
第2章 音楽を演出する監督たち(監督と作曲家のコラボレーション、監督たちの選曲ワザを聴く)
第3章 これだけは聴いておきたい作曲家(人気絶頂の現役たち、映画音楽の鬼才たち、映画音楽の意外な作曲家)
第4章 映画音楽のひとり歩き(変わった響きの映画音楽、映画音楽に参加した意外なアーティスト、映画から独立した映画音楽)
第1章 映画の中で音楽はどのように鳴るのか?(映画における音楽の役割、感情や動きを表現する映画、ジャンル別の代表的な名曲)
第2章 音楽を演出する監督たち(監督と作曲家のコラボレーション、監督たちの選曲ワザを聴く)
第3章 これだけは聴いておきたい作曲家(人気絶頂の現役たち、映画音楽の鬼才たち、映画音楽の意外な作曲家)
第4章 映画音楽のひとり歩き(変わった響きの映画音楽、映画音楽に参加した意外なアーティスト、映画から独立した映画音楽)
第1章は一般の書籍に倣った分類で恋愛とかアクション、戦争映画、SF、スペクタクル、ホラー、サスペンスという分類分けしたそれぞれの名作が紹介されていきます。それに先立ち、映画音楽の方向性を変えたのが「スター・ウォーズ」だという視点で1970年代以降を総括しています。たしかに、1960年代後半から1970年代前半はそれまでのスペクタクルな「ベンハー」とか「十戒」、「アラビアのロレンス」、「ドクトルジバゴ」などの豪華なサウンドが聴かれなくなった時期です。奇しくもベトナム戦争で、アメリカが疲弊しハリウッドも元気が無くなった時期です。作品的にも、ニュー・シネマといわれるちょっと軽めの既成のポップミュージックを使った作品が台頭し、一世を風靡します。
しかし、それを打ち払うかのように「スター・ウォーズ」が登場し、分厚いシンフォニックサウンドを武器に躍動感ある活劇を復活させます。このサントラは公開当時200万枚を売るヒットになり一大サントラブームを巻き起こしました。それが証拠に80年代に入ると世界中でサントラの専門メーカーが乱立しました。GNP Crescendo、MilanRecords、SILVA SCREEN、Varese Sarabande、Hollywood Records、Kirtland Recordsなどなどがあり、日本でも一時期SLCなどがありましたが、ブームはやや下火になり、現在でも活躍しているのはほんの一部です。
そういう時代に登場したのが本書です。1999年の出版ですから既に20年あまり前になるんですなぁ。ここではサウンドトラックとはいわずにスコアサントラと表記しています。CD時代になって映画音楽もデジタル化されますが、古い作品はそれなりのアナログの音です。その為、近年欧米ではオリジナル・スコアを使った再録音盤が盛んに製作されています。先に紹介しているチャールズ・ゲルハルトなんかはその先鞭なんですが、こういうものもここでは積極的に紹介されています。そもそも、映画に於ける音楽はなんでもありです。クラシックはもちろん、ロック、ポップス、ジャズ、民族音楽、コンクリート音楽からシンセサイザーまでなんでもござれです。
この本のツボは第2章でしょうか。監督と作曲家のコンビというか結びつきが強い作品を取り上げています。スピルバーグとジョン・ウィリアムズはそういう中でも筆頭ですが、一昔前には、クロード・ルルーシュとフランシス・レイ、ブレイク・エドワーズとヘンリー・マンシーニなんてのがありましたが、最近ではティム・バートンとダニー・エルフマン、一時期の北野武と久石譲なんて関係でこのコーナーを括っています。
第3章は2000年前後に輝いていた作曲科にスポットを当てつつ、往年のコンポーザーにも光を当てるという構成でバナード・ハーマン、ディミトリ・ティオムキンなどの懐かしい名前からジェームズ・ホーナー、エリック・セラなどが取り上げられ、更に日本人作曲家にもスポットを当てています。この本コラムも充実していて、予告編音楽に付いても取り上げています。よく映画館で見ると国編の音楽はその後に公開される本編の音楽とはまったく違った音楽が使われていることに気がつきます。そういう音楽が別にあるのだということをこの本で初めて知りました。
クラシックの作曲家も切っても切れない関係にあり、先に取り上げたサン・サーンスの作品からして然りですが、考えてみればベンジャミン・ブリテンの「青少年の為の管弦楽入門」も映画の為の音楽だったんですなぁ。また、映画音楽がもとになり、後にれっきとしたクラシックの作品となったものにはストラヴィンスキーの「3楽章の交響曲」やコルンゴルドの「ヴァイオリン協奏曲」、ボーン・ウィリアムズの「南極交響曲」なんて作品があります。
また、2001年宇宙の旅はもともと、アレックス・ノースが音楽を書いていたのですが、それが没になり、いま知られているクラシックの曲目をちりばめたサントラが正式なサントラになっています。しかし、この没になった音楽は後に「2001年デストロイド・ヴァージョン」として発売されているそうです。これも、この本で初めて知りました。サントラ・ファンとしては是非とも聴いてみたい一枚です。