ビブリア古書堂の事件手帖3ー栞子さんと消えない絆 | geezenstacの森

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ビブリア古書堂の事件手帖3ー栞子さんと消えない絆

著者 三上 延
発行 アスキー・メディアワークス

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 鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連となった賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは思いもせぬ人と人の絆を表出させることもある。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読み取っていき──。彼女と無骨な青年店員が、妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない。あるいはこの二人にも。---データベース---

 この巻は、栞子の妹の文香のプロローグで始まり、文香のエピローグで締めるという形をとっています。つまり、1、2巻の単なる五浦くんのモノローグによるバイト物語ではなく、二世代三世代にわたる、家族の物語といった側面を帯びてくる訳です。そして、シリーズの幅を広げる為に新たなキャラと、彼らから引っ張る形で母親の情報が本格的に出てきます。新キャラはヒトリさんや滝野などまた様々なキャラですが、一番印象に残ったのは既出キャラの坂口夫妻でした。母親の情報には直接関わらないものの、しのぶの結婚、妊娠と本探しから「親子(家族)の対話」というこのシリーズのテーマへの一つの回答を出していきます。母親関連では文香が母親の連絡先も『クラクラ日記』の在処も知っているという新しい展開がありましすが、彼女も核心からは少し離れていそうです。そんなことで、母親の存在はまだこの巻では明らかになりません。登場する『たんぽぽ娘』はこの本で取り上げられて話題になったようです。そういう効果もこの小説にあるんですなぁ。さて、このシリーズは古書を通しての推理小説という形を取っています。ただ、ちょっと形式的に事件解決のヒントがご都合主義的に登場してくるというパターンが安っぽく見える所も感じられます。

 この第三巻に登場する本は以下の作品です。

『王様のみみはロバのみみ』(世界名作ファンタジー55)(ポプラ社)
ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘(英語版)』(集英社・コバルト文庫)
『タヌキとワニが出てくる、絵本みたいなの』 -- ウスペンスキー『チェブラーシュカとなかまたち』(新読書社)
宮沢賢治『春と修羅』(關根書店)

 プロローグの文香の語りは、栞子とはまったく違う性格の妹というフィルターを通して、この物語が篠川家の姉妹とその母親の物語であるという伏線を張っています。そして、第1章ではここでは、古書組合主催の「古書市場」を舞台に、昔なじみや、なぜか栞子さんに敵意を抱いている同業者など、周りをとりまく人物も増えて、果然ドラマが動き出した!といった印象を受けます。しかし、そこでロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』の盗難事件が起きてしまいます。この『たんぽぽ娘』という本は、2巻からずっと鍵となっている「クラクラ日記」ともつながっています。つまり、「クラクラ日記」が母が子に託したメッセージならば、「たんぽぽ娘」は妻から夫への想いというわけですね。

 第2話はこの巻のツボでしょう。ここでいう、『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』とは、坂口しのぶさんが子どものころに読んだ絵本のことです。それは、タイトルどころか、作者も出版社もわからない、肝心のストーリーも断片的にしか覚えていないという本です。そういった本を見つけ出す。これこそ、ビブリオ古書堂の、いや栞子の真骨頂というものでしょう!それにしても、坂口夫婦には今回も泣かされます。しのぶとしのぶの両親、どちらが悪いわけでもないけれどわかりあえない家族関係が描かれます。しかし、真実は違うんですね、琴線に触れたのは、しのぶ母。犬小屋を捨てない。部屋は残され、掃除されている、コミックスも残されている。この描写だけで、娘への愛情が伝わってきます。孫・昴もいい子です。犬がいなくなった後のしのぶ母の行動のしのぶが知っていたらもう少し違っていたかもしれないけど、わかりあえないまま年月が経って、わかり合おうとして拗れて、それでもやっぱり親子だから歩み寄ろうして....。今度こそうまくいくといいなと思う展開で締められます。

 第3話は宮沢賢治の著作が登場します。しかし、宮澤賢治は小学校の教科書には必ず名前があるような作家(詩人)さんなのに、生前に出せた本が「春と修羅」,「注文の多い料理店」だけだなんて知りませんでした。そして、それも自費出版に近い形で、ほとんど売れずに一部は自分で引き受け、その本に自分で推敲を重ねたという事実は興味深いものでした。ここでは、そういう曰くのある本の捜索依頼が舞い込みます。それも、栞子の母、智恵子のかつての友人だった玉岡聡子から、彼女の父がビブリア古書堂で買った宮澤賢治の『春と修羅』2冊のうち、1冊が盗まれたので本を取り返して欲しいという依頼です。それも2冊のうち状態の悪い1冊なのです。なぜ、状態の悪い方が盗まれたのか。調べを進めると、故人である聡子の父の相続を巡って、兄夫婦とトラブルと確執を抱えていたことが分ります。事件は簡単そうに見えて、意外な人物が浮き上がります。ただし、これは、ミステリーにおいては余りおすすめでない禁じ手のような展開です。まあ、ここら辺がちょっと安っぽいという印象でしょうかね。

 しかし、締めのエピローグは、「クラクラ日記」の登場で終わります。姉の探している日記は青い鳥状態だったんですなぁ。まあ、プロローグでそんな感じはしていたんですけどね。長年推理小説を読んでいると、こういうことには意外と気がつくものなんです。