野良犬の夏―口入屋用心棒7 | geezenstacの森

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野良犬の夏―口入屋用心棒7

著者 鈴木英治
発行 双葉社 双葉文庫

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 南町奉行所同心・樺山富士太郎は頭を抱えていた。駿州沼里の浪人・湯瀬直之進に思いを寄せているのに見合いの話が持ち上がったからだ。その直之進は、米の安売りの黒幕・島丘伸之丞を追う的場屋登兵衛の用心棒を請け負い、田端の別邸に詰めている。島丘は直之進の友・平川琢ノ介が師範代を務める中西道場の主・悦之進の仇でもあった。好評書き下ろし長編時代小説シリーズ第七弾。---データベース---

 米の密売ルートに絡んだ事件、前巻はその序の口といった感じで、この巻では黒幕を探索する様子が描かれます。それはそれでストーリーの展開上は必要な過程ですが、依頼主の札差と直之進、千勢と佐之助、中西道場のメンバーと3つの方向から事件を追及する様が描かれます。これとは別に奉行所の富士太郎らも探索しているのかしないのかという形で酸化しています。みっとも、あまり本編に登場機会が無いということでか、要りもしない富士太郎のお見合いの話をぶち込んでストーリーを無理に膨らませています。さらに、探索の様子をテレビのコマ割りのように短いシーンで色々な視点で語っていくので頭の中がこんがらがり、ちょいと作者が策に溺れているような所が伺えます。こういう時代小説はどうせ読み捨てにされるものですから、もう少し素直なストーリー展開じゃないと読者が付いてこないおそれがあります。

 この巻では登場人物の整理も一つの目的かなと思える大胆な設定で、中西道場の道場主やその家臣たちが一網打尽で、敵の修蔵の策に落ちあっという間に殺されてしまいます。あまりにあっさりとした展開に呆れるほどです。しかも、直ぐ近くには直之進と和四郎たち札止グループもいての斬殺です。これは解せません。今までの直之進ならそこに修蔵が入る殺気を感じるはずなんですがねぇ。

 この第2部になって、佐之助の性格付けががらっと変わってしまっているのも物語をある意味つまらなくしてしまっています。それまでの悪人から、千勢を助ける良い人にすっかり変身しているからです。そんなこともあり、千勢の亭主としての直之進の立場はあやふやになってしまっています。最も、作者は口入屋の双子の姉妹のどちらかと直之進をくっつけようとしているさまがありありと伺えますげどね。ところが、この巻では千勢と佐之助の関係の進展は描かれますが、直之進の方はほったらかしです。こまったものです。

 千勢が勤める料亭の料永は、跡継ぎのいざこざで娘のお咲希が家を飛び出し千勢の下に身を寄せることになります。この後、料永は奉公人の半数が店を止めることになり崩壊寸前です。これも一つの切り捨てでしょう。千勢は別の奉公先を探すことになります。

 タイトルがちょっと意味不明で、野良犬とは不良旗本の部屋住みたちのことを指しているのでしょうが、この者たちの存在はなかなか露になりません。奉行所の探索ならばもっと早くに身元が分かりそうですが、そうしないところはじれったさがあります。その割にはラストで、中西道場の連中が一網打尽に殺される様はあっさり描かれ、ええっ、こんな所でこの巻は終了なの?と唐突に終わってしまいます。それとともに、富士太郎のお見合いの話もたった一行で断ったという文字で済まされています。物語を引っ張った割にはあっけない幕切れです。テレビドラマなら途中で打ち切りの展開ですな。