
駿州沼里の藩内騒動がもとで江戸に出た湯瀬直之進は、殺し屋・倉田佐之助との死闘の末、深手を負う。時期沼里城主・又太郎の心配りや日頃から世話になっている小日向東加古川町の口入屋・米田屋一家の献身的な看病もあって、ようやく傷も癒えはじめた折りも折り、米田屋の長女おあきの亭主・甚八が思わぬ事件に巻き込まれる。好評書下ろし長編時代小説シリーズ第五弾。---データベース---
ストーリー的には第2部という様相を呈しています。4巻目で宿敵の佐之助と死闘を演じた為か、5巻目の最初の2章は直之進、佐之助、ともに怪我の回復に努めるだけで何ら変った動きはありませんでした。まあ、真剣勝負の立合いをしたのですから怪我を負うのも当然でそういう意味ではリアリティがあります。もっとも佐之助は千勢に助けを求めたのは成り行きでしょうか。流れからして、もう直之進と千勢が復縁することはなさそうです。事件としては、今まで枝葉のエピソードでしか描かれなかった口入屋・米田屋の長女が嫁いだ旦那の甚八が殺されてしまい、その犯人を捜して解決するという話が後半の主要展開になっています。
しかし、離縁はしていない直之進と妻・千勢の関係は完全に冷えきっています。まあ、以前好きだった人の敵を討つ為に家出、というだけでも??なのに、今度はその敵を好きになってるっていうのは…?その千勢と宿敵の佐之助はいわゆるナイチンゲール症状で、千勢はどんどん佐之助に惹き込まれていきます。女心の変節は理解出来ない物がありますなぁ。この巻は、その流れで直之進と左之助の対立関係さらに抜き差しならないものになるという縦軸がありつつ、メインのエピソードとしては米田屋の嫁した娘おあきとその夫甚八に関する事件がメインです。
直之進の体調は万全ではありませんが、おあきの亭主・甚八が殺されたことで口入屋・米田屋から身辺を調べてくれるように頼まれていた直之進は責任を感じます。そんなことで、一応形は口入れ屋用心棒を保っています。殺しということで奉行所の富士太郎も動きます。まあ、この富士太郎、だんだんおねえの性格が顕著になっていきます。行ってみれば「直之進命」っていう感じですね。まあ江戸時代ではあり得ない設定でしょうが、こういうキャラクターがいることでストーリーに膨らみがもたらされています。
事件は甚八が寺の僧侶を相手にした女郎宿を始めていたことが、殺しの原因と解ります。資金の無い甚八は、賭場の元締めの篤蔵一家と手を組んで商売をはじめますが、思いのほか繁盛するので篤蔵は取り分の変更を要求します。甚八がそれを拒否したことで篤蔵一家に殺されてしまったようなのです。直之進はその秘密の女郎宿を見つけ出し、富士太郎ら奉行所の応援も得て篤蔵一家と客となっていた僧侶らを一網打尽にします。
しかし、喜んで入られません。ふらりと佐之助が直之進の前に姿を現すのです。千勢が佐之助を匿ったことは既に直之進の知る所です。宿敵との対決は身体が本調子でない二人には時期ではありません。しかし、佐之助が現われたということは千勢を賭けての挑戦の現れでもありました。なんか、話が世俗じみて来ましたが口入れ屋としての活躍はどうなるのかは楽しみです。