
紙問屋の若旦那・与之助は吉原の花魁・綾菊と情を通じあい、違う場所で同じ日の同じ時刻に心中することを決意した。実行前に父親にとめられた与之助に対し、綾菊は約束を守り自害して果てた。やがて与之助の前に綾菊の亡霊が現れ、その悩みを佐平次たちに打ちあけるのだが……。数日後、与之助は綾菊の短刀で自分の喉をついて死んでいる姿で発見される。佐平次たちは悩みながらも真相をつきとめるべく探索をするのだったが……。書き下ろしで贈る、大好評のシリーズ第八弾!--データベース---
この巻は、シリーズで一番手抜きの作品かもしれません。ストーリーの前半には確かに、吉原の花魁が約束の心中を果たす様の描写があります。そして、その死後、約束を果たさなかった紙問屋の川田屋の若旦那・与之助の近辺に亡霊として現われるという展開が描かれます。まさしく、タイトルの怨霊でしょう。そして、この綾菊の死をめぐってはその亡骸から簪を奪った紙漉職人が異様な死に方をします。また、祟られた与之助本人も祈祷師の祈祷の甲斐も無く綾菊の短刀で自分の喉をついて死んでしまいます。
まあ、十中八九これがメインのストーリーだと誰しも思うでしょう。ところがどっこい、展開上はこちらはサブストーリーでしかありません。では、メインは何かというと武家屋敷から家宝を盗み出して闇で売買する一味の捕縛です。まあ、この一味のドンが綾菊絡みと言う点で二つの事件に接点が無いわけではありません。
この巻の章立てです。
第一章 情死
第二章 祟り
第三章 祈祷師
第四章 隠れ家
第二章 祟り
第三章 祈祷師
第四章 隠れ家
一応さもそれらしいタイトルで、怨霊をひっばり廻していますが、怨霊は途中で姿を消してしまいます。ここには伎楼の主、大浦屋の鶴八が一枚噛んでいました。結論から言うと、綾菊は自害していなかったのです。本来儀老の主は花魁に手を出してはいけないのですが、この鶴八はその禁を破って小蝶という花魁と良い仲になり、それが発覚してからも
通じていたことが災いして、内儀に見つかり折檻の末殺されてしまいます。とんでもない出来事なんですが、この小蝶の死を綾菊とすり替えてしまうのです。本来ならこういう事件吉原会所が乗り出す所ですが、これは吉原裏同心ではないのでここでは面番所の方が対処します。でもっていい加減な処理です。
通じていたことが災いして、内儀に見つかり折檻の末殺されてしまいます。とんでもない出来事なんですが、この小蝶の死を綾菊とすり替えてしまうのです。本来ならこういう事件吉原会所が乗り出す所ですが、これは吉原裏同心ではないのでここでは面番所の方が対処します。でもっていい加減な処理です。
本来ならこれも事件なんですが、この大浦屋には遊女になった「おさと」こと綾糸が絡んでいる所から佐平次に何時もの切れがありません。なあなあで、鶴八を放免してしまうのです。金にはきれいでも、人間関係には俗っぽいんですなぁ。
一方、メインの事件は北町の井原伊十郎も南町の押田敬四郎も武家屋敷から盗まれた家宝を取り戻すことを依頼されています。どちらが手柄を立てるかの競争です。お互い質屋をめぐって盗品が流れていないか八方手を尽くしますが感触はありません。そんな中、紙漉職人が投げた質草の簪から足がつき、それが小蝶のものだと分ります。それをネタに大浦屋の鶴八を問いつめると、綾菊は生きていて、茶道具問屋の飯倉屋金右衛門が身請けしていたのです。しかし、この男の店は間口も大したことのない店です。どうも茶道具の商いは表向きで裏があるようです。それが盗品の横流しであったのです。こんなルートでは盗品が表には出ません。
ということで、佐平次たちが立ち上がり飯倉屋金右衛門が盗品を隠し持つ寮へ乗り込みます。今回は井原伊十郎も捕り物には参加しますが、手柄を奉行所に知られたく無いのか応援を頼みません。どこかいけ好かない井原伊十郎は健在です。この武家荒らしの盗賊一味は捕縛されますが、如何せん祟られて死んだ与之助の前に現われた怨霊は一体なんだったのか、真相は語られていません。
このストーリー、一服の清涼は佐助が大浦屋の寮で病に臥せっている「おさと」を艶やかな女姿で訪れることでしょうか。