吉原裏同心12 再建 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

吉原裏同心12 再建

著者 佐伯泰英
発行 光文社 光文社文庫

イメージ 1


 仮宅明け間近の吉原に、二人の遍路が野地蔵を置いた。先の大火で死んだ姉(女郎)の供養だという。だが、死んだはずの女郎を江ノ島で見たという男が現れた。足抜か?神守幹次郎は、会所の頭取の命で番方の仙右衛門と共に現地へ赴き、女郎に連れ添う居合いの達人と対決する。決着をつけ江戸に戻ってきた幹次郎を、新たな事件が待ち受けていた。シリーズ第十二弾。---データベース---

 第八巻の「炎上」で吉原が全焼して以来、三作かけて仮宅営業中の吉原を舞台に物語が進み、そして今作ではいよいよ新しい吉原が再建されます。吉原炎上は何度もありますが、天明七年の吉原炎上が取り上げられたのは珍しいでしょう。一番有名なのは映画にもなった明治44年4月9日の「吉原炎上」でしょう。ただ、記録によるとこの天明七年の炎上はあまり大火ではなかったようです。この小説の面白さは、その後再建までの仮宅営業時代をも小説に取り込んでいるところです。ただし、前巻の「異館」はちょいとやりすぎでしたわな。 

 さて、今回の吉原再建。これまでと同様に再建の様子を背景として、そのどさくさと上手く絡めた事件が展開します。この巻の章立てです。

第一章 二人遍路
第二章 野地蔵の怪
第三章 小頭の災難
第四章 仮宅祝言
第五章 遊女の嘘と真

♦二人遍路
 妓楼の普請が急ピッチで進められる吉原に、爺さんと小汚い孫娘が、地蔵をかついでやってきます。話を聞けば、この娘の姉が吉原に奉公していたが、先の火事で焼死したと聞いて、菩提を弔うために地蔵を持ってきたといって、天女池に祀ります。そして、家が貧しく吉原に奉公して仕送りしてくれていた娘が死んだとなると、来年植え付ける種籾の代金も出ない状態だといいます。そのため、まだ幼いこの下の娘を亡くなった姉の代わりに売りにきたのです。会所の番方と幹次郎は二人を会所に連れて行き、四郎兵衛の判断を仰ぎます。

 この娘、おみよといいますが、田舎から吉原まで出てくるのに、よからぬ輩に攫われないように、顔に煤を塗って美貌を誤魔化すほどの美形です。しかも、頭の回転も悪くありません。そのため、おみよをいったん四郎兵衛の山口巴屋で預かり、しかるべき大見世に禿として奉公させようと意見が一致します。話はトントン拍子に進みますが、おみよの姉の小紫は吉原炎上の折り焼け死んだという事になっていたのですが、大山参りの帰路江の島で小紫を見かけたという噂がありました。幹次郎はその点が引っかかり、おみよの爺様が30両という金を手にした事でなんぞ動きを見せるのではと四郎兵衛に注進します。

♦野地蔵の怪
 会所を後にした爺様は、案の定両替商に飛び込みます。また、小紫が焼け死んだ自分の事を知る人間に会い、その時湯屋で働いていた女が一人行方知れずになっている事を聞きつけます。そんなこともあり、番方と幹次郎は事の真相を明らかにするために江の島に向かいます。その江の島では、やはり不審な女が出没している事が明らかになります。ここではおせいと名乗り、何やら侍と暮らしを立てているようです。ただし、よそ者とあって地元の伝五兵衛から所場代を払わないと睨まれています。

 幹次郎たちは為替を受け取りにくると藤沢の宿駅で情報を集めますが、どうやら鎌倉で現金化するようです。そして、おせいと浪人の佐野謙三郎を追いつめますが、そこに伝五兵衛一家も加わります。佐野謙三郎は居合いの達人で伝五兵衛一家を蹴散らしますが、幹次郎と相見える事になります。まあ、これで決着は決まったようなものですが、そこへおせいが簪で幹次郎を襲います。番方が匕首で助けに入り、おせいこと小紫は心臓を貫かれて息絶えてしまいます。

♦小頭の災難
 改めて三ノ輪の投込み寺の浄閑寺で小紫の身代りで亡くなっていたお六の弔いをあげる事になります。そして、小紫の情報をもたらした畳職人の鉄次と女郎のお蝶の身請けの話が纏まります。

 ところで、仮宅の夜回りに出た夜、小頭の長吉が浪人に襲われ、会所の植栽の寄付金を奪われそうになります。長吉は脇腹を刺されてしまい、医者の柴田相庵の診療所に担ぎ込まれます。幸い大事には至りませんでしたが、ここで働くのがお芳という女で、番方の仙右衛門とは幼なじみという設定です。小説ではここで初めて登場しますが、テレビドラマでは既に登場し、夫婦になるのも時間の問題という展開で進行しています。災い転じて福と成すと言う展開でこの章が纏められています。

♦仮宅祝言
 第一章で吉原に売られたおみよは、姉の小紫が足抜けして殺された事を承知していました。最初は山口巴屋で預かりということでしたが、三浦屋に引き取られ薄墨太夫の禿の一人に取り立てられます。

 幹次郎と仙右衛門は仮宅から引っ越してくる郭内の面々を見ていましたが甘酒茶屋で悲鳴が起こるのを聞きつけると、三浦屋への祝言を持って紅屋の番頭が金を奪われたのです。幸い会所の若いものが直ぐに駆けつけ三人組を追います。猿回しと鳥追い女、それに浪人組の三人でした。まあ、難なく会所と幹次郎の活躍で事件は直ぐに解決するのですが、ここでは隠密同心が絡んで狂言回しが演じられます。

 吉原に活気が戻る中、四郎兵衛と幹次郎は池の端に移した野地蔵の入魂式に向かいます。しかし、そこにはすでに薄墨太夫が禿と手を合わせていました。そして、太夫は幹次郎らが取り戻した祝言の猪口紅を手にしていました。幹次郎に送られた太夫は、帰り道唇に引いた猪口紅を幹次郎の唇に重ねます。何とも色っぽい話です。

♦遊女の嘘と真
 吉原にはつきものの遊女と客の駆け引きを描いた一編ですが、一度読んだにも関わらずまったくそのストーリーを忘れていました。それほど、この一章は付け足しのような印象で、吉原再建がなった日に起こった事件としてはありふれています。亀鶴楼の滝瀬という花魁の三角いや四角関係が招く事件で、ここでも身請け話が絡んでいますが、なにも再建が叶った日に起こらなくてもいいような事件です。

 ここでは敢えて書きませんでしたが、足抜けしようとする遊女もいれば進んで吉原に身を投じる女もいます。実はこの女の方が興味があるのですが、果たしてこの女の絡む事件が後に起こるのでしょうかね。次巻からは別の新しい敵が登場するので、こういう枝葉の布石は切り捨てられるのかもしれません。

 さて、ドラマの「吉原裏同心」は来週ではや第5回となります。タイトルの『父と娘』はどの巻にも登場した事の無い話のようにも思われます。ひょっとして、この冒頭のエピソードをベースにしているのでしょうか?第3話、4話が原作があるにもかかわらず、イマイチの内容だったのでいささか心配です。



第5回『父と娘』
2014年7月24日(木) 午後8時~8時43分放送予定【総合】

キャスト
神守幹次郎/小出恵介
汀女/貫地谷しほり
四郎兵衛/近藤正臣
薄墨太夫/野々すみ花
仙右衛門/山内圭哉 
玉藻/京野ことみ
柴田相庵/林隆三
お芳/平田薫
谷平/柳沢慎吾