
時空を超えた人間と宇宙の物語を精緻に描出したスペースコミックの決定版。未踏の星々に織りなす珠玉のドラマは華麗なSFの世界。鬼才・星野之宣渾身の三部作だ!!---データベース---
SFは好きなジャンルでそもそも本がそれほど好きではない学生時代はSFから小説を読み始めました。学習雑誌の付録のダイジェスト小説がそれでした。E・E・スミスのスカイラークシリーズやレンズマンシリーズ、エドガー・ライス・バローズの火星シリーズ、金星シリーズなんて夢中で読みました。まあ、今読むと現実から乖離した摩訶不思議な設定があり、エーテルだのサイクロトロンだのが登場して宇宙空間を自在に飛び回るのですが、SFがまだサイエンス・フィクションではなく、サイエンス・ファンタジーと呼ばれた頃の作品でしょう。
科学技術の発展でそれがようようSFらしくなって来たのは1980年代以降でしょうね。そういう中で登場したきたのがこの星野之宣氏あたりでしょう。絵の巧さ、深い知識に裏打ちされた ストーリー構成の緻密さ、心に迫る ヒューマニズムと エンターテイメント性、そして「人類にとって、宇宙とは何か」という 深遠なテーマを2001年宇宙の旅の姿を借りながら、千一夜物語の連作短編のオムニバス形式を用いて見事に描かれていて、今読んでも 色褪せない傑作だと考えます。
科学技術を前面に出せば、それは現実の世界からいつかは遊離してしまいます。それを根本的に人間のドラマとして描いていますから色あせない所が良いですね。竹宮恵子の「地球(テラ)」は人間対ミュータントの対決を描いていて、何となく最後は冷めた感覚で読んでいた気がするのですが、この作品は人類と、宇宙に乗り出す人類の欲望と挫折、対には宇宙からの撤退、そして地球を知らない人類の誕生、さらには地球外の惑星での生活を選択する人類を描くと言う三世代の壮大な物語です。
さて、この三部作、以前は断片しか読んだ事がありませんでした。それを、今回友人からちょいと早いお中元という形で頂きました。で、待てよ、とCDラックを探していたらなんと、この「2001夜物語」のサウンドコミック・シリーズのCDが見つかりました。物語を記憶していて音の世界だけでもと購入した物ですな。そんなことで、今回はこのCDをかけて視覚と聴覚を総動員してこの壮大なスペースドラマを楽しむ事が出来ました。全3巻には次のエピソードが収録されています。
第1夜:大いなる祖先
第2夜:地球光
第3夜:豊饒の海
第4夜:大渦巻III
第5夜:宇宙の孤児
第6夜:宇宙への門
第7夜:遥かなる旅人
第8夜:悪魔の星
第9夜:天の光はすべて星
第10夜:明日を越える旅
第11夜:石化世界
第12夜:見知らぬ者たちの船
第13夜:共生惑星
第14夜:最終進化
第15夜:楕円軌道
第16夜:鳥の歌いまは絶え
第17夜:植民地(コロニー)
第18夜:愛に時間を
第19夜:緑の星のオデッセイ
最終夜:遥かなる地球の歌
第2夜:地球光
第3夜:豊饒の海
第4夜:大渦巻III
第5夜:宇宙の孤児
第6夜:宇宙への門
第7夜:遥かなる旅人
第8夜:悪魔の星
第9夜:天の光はすべて星
第10夜:明日を越える旅
第11夜:石化世界
第12夜:見知らぬ者たちの船
第13夜:共生惑星
第14夜:最終進化
第15夜:楕円軌道
第16夜:鳥の歌いまは絶え
第17夜:植民地(コロニー)
第18夜:愛に時間を
第19夜:緑の星のオデッセイ
最終夜:遥かなる地球の歌
遠い宇宙の恒星系を目指すため、凍結した精子と卵子を積み込んで長い年月をかけて 外宇宙を航行する宇宙船…。そう何万光年おも航海する宇宙船は生身の人間では当然無理です。そこで考えられた方法です。しかし、科学の進歩は人間に高速を超える航行術をもたらします。海王星の外側で反物質星が発見され、そのエネルギーを利用した人工ブラックホールによる超空間航法の発達により、先に地球を出発した宇宙船を、後から飛び立った宇宙船が軽々と追い越してしまうという状況になります。そういうパラドックスには深い突っ込みはありませんが、地球外生物と人類の対峙や新しい発見による人類のフロンティア物語が次々に語られていきます。
つまり、ワープ航法技術が生まれる前夜から始まり、反物質で出来た星の発見から、反物質を利用したワープ技術が生まれ、人類が外宇宙へと広がっていく過程を描いた壮大な物語ということができます。オムニバス形式の中短編でそれぞれ完結した物語となっていますが、中には相互に関連した物語も多く、再読すると様々なつながりに気付かされます。そして、宇宙家族ロビンソンへのオマージュとして語られるロビンソン一族の物語が全編を貫いています。これによってバラバラに語られていたここのストーリーが最終話に集約され、見事なエンディングを迎えます。
いまでも天文学は日々進化していて様々な新発見があります。しかし、このストーリーは当時の最新の情報を網羅しながら、物語を視覚とリンクさせながら楽しむ事が出来ます。ディフォルメされた漫画の世界ではなく、人物のデッサンはもちろん、背景の描きこみも尋常ではなくリアルに描かれ、そこに点画、アミカケなどのテクニックもつぎ込みながらの描写はそれ自体芸術作品です。それは、コミックの表紙画を見ただけでも感じる事が出来ます。
宇宙のロマンを描く作家はあまたいますが、宇宙の深遠、怖さ、リアリズムを描かせたら、星野氏の右に出る者はいないのではないでしょうか。序章を飾る「大いなる祖先」は先達の冒頭を再現していますが、これなんかは完全に「2001年宇宙の旅」へのオマージュでしょう。「豊饒の海」は月のクレーターを描いていますが、その月は地球の兄弟星である事がそれとなく描かれ、「大渦巻」は太陽風を受けて動く探査機の長大な「帆」の遠心力を利用して危機から脱する宇宙飛行士の話ですが、まるでボイジャーの外宇宙への飛翔を描いている様な気がします。
アニメ化されたエピソードのひとつ、「宇宙の孤児」は、宇宙船を設置した高速彗星ごと、生存可能な惑星めざして旅する家族の物語です。長き旅路には「親子」のささやかな喜びと悲しみの歴史があります。そして、この作品こそが宇宙家族ロビンソンの世界をえがいていますし、この物語の核心の話として後の物語の伏線になっていきます。このように随所に過去のSF作品へのオマージュが、星野の作品にうまく取り入れられています。「遥かなる旅人」ではHAL9000を彷彿とさせるスパコンが登場して、思わずニヤリとしてしまいます。
太陽系の冥王星の更に深淵の宇宙に存在する「魔王星」も特異な設定です。そして、この惑星の存在こそが人類飛躍のきっかけとなるのですから物語のターニングポイントでしょう。こうして、物語は外宇宙へ物語の舞台を拡げていきます。
しかし、このストーリーは人類の枯渇しつつある地球のエネルギー資源を求める冒険旅行とだけ描かれているわけではありません。途中のエピソードでは地球の東西の対決も描かれています(楕円軌道)し、宇宙進出に対する人類のエゴもきっちりと描かれています。人間ドラマとしてはもう少し多彩なエピソードを盛り込んで、それこそライフワークとして描いて欲しいなぁという気がしないわけでもありません。何となれば第3巻で描かれる世界はやや端折ったような印象でエンディングを迎えるからです。
先の「楕円軌道」ではないですが、過去の作品もストーリーの中には取り込む事も可能です。ロビンソン一族の物語はとりあえず完結していますが、新人類の話はまだまだ先がありそうです。ぜひとも、2001夜ほどに書き継がれて欲しいですね。ともかく、本作品は今SFの世界に入門したい非とには恰好の作品です。出来れば、出版社もこのシリーズで出ているコミック、CD、映像作品を網羅した形での発売をしてもらいたいものです。とくにCD(キャニオン D32G0037)は今ではほとんど入手不可能です。
映像はYouTybeでも楽しむ事が出来ます。