新・オリエント急行殺人事件 | geezenstacの森

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新・オリエント急行殺人事件

著者 森村誠一
発行 光文社 光文社文庫

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 ロンドン‐ベニス間を走る“夢の列車”オリエント急行。日本からツアーに参加した、大学教授ら十名の男女は、その華やかさに酔いしれた。一年後、参加者の一人が所有する土地から死体が発見される。そして、参加者の間で起きる謎の連続殺人。彼らを結ぶ不思議な因縁。捜査の焦点は、一つの事件へ…。人間心理の深層を鋭く描く、トラベル・ミステリー意欲作。---データベース---

 森村誠一氏の本領発揮ともいうべきサスペンス小説です。タイトルから分るようにアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」を借用しての作品だと誰もが気がつくでしょう。ただし、森村氏の作品は似て非なるもので、舞台は当然日本という事になります。本家が列車内での密室殺人というシュチュエーションで、誰もが疑わしいという設定なら、こちらは「ノスタルジック・オリエント急行を楽しむヨーロッパツアー」というツアーに参加した全員が疑わしいという点では似ています。何よりも考古学が絡んだ事件という事で、アガサ・クリスティへのオマージュとでもいう作品でもあります。何となれば、アガサ・クリスティの再婚相手は考古学者であったといいますからね。

 ありがたい事に、疑わしき人物は全員で9人、冒頭にその参加者の名前の一覧が提示されています。これを手がかりに読者は交響曲の推理小説にチャレンジする事になります。同じツアーに参加したメンバーが、後日同窓会を開くという事は翌あることですが、これが要因であらぬ人間関係が発生します。ここでも、不倫の嵐で、お互いが別の女性と関係してしまうという展開です。これに加えて、一人の少年が行方不明になります。まったく関係なさそうですが、この少年の半ば白骨死体が古墳発掘の現場で発見されます。そして、その死体の側には旅行の記念に配られたピンバッジが落ちていた事から俄に事件の容疑者が絞られていきます。

 ストーリー的には当事者たちと、警察の両面の視点から語られていきます。そして、第2の殺人事件が発生し、それが旅行の参加者であった事から二つの事件の関連性が取りざたされます。警察は所轄が違い、お互いが縄張り意識を持っていて最初のうちは事件の解明は遅々として進んでいきません。ただ、その中で旅行関係者たちの入り乱れた不倫関係が炙り出されます。誰もが動機のある中、事件が大きく動くのは第3の殺人事件が発生し、それが一番容疑の濃い人物が殺されるからです。この男、インターポールから監視されていた事が明らかになり、その背後で考古学の貴重な発掘品の密売が絡んでいた事が発覚します。しかし、最大の容疑者が殺された事で事件は振り出しに戻ってしまいます。

 警察は関係者をリセットして再度基本に戻って捜査をする事になります。こと、ここにいたり合同捜査本部がようやく回りだし、リストの中から一番関係なさそうな人物がクローズアップされます。そこに行き着いたとき、又、事件が発生します。

 いわゆるどんでん返しがしっかり用意されていています。森村氏はやはりこういうミステリーを書かせたらピカ一です。この作品、ドラマ化されていないようですが、いつかされる様な気がします。