メータのシューマン
曲目/シューマン
Symphonie Nr.1 B-Dur, "Fruehlingssymphonie"
1.Andante Un Poco Maestoso, Allegro Molto Vivace 11:51
2.Larghetto 7:24
3.Scherzo: Molto Vivace 5:52
4.Allegro Animato E Grazioso 8:39
Symphonie Nr.4 D-Moll
5.Ziemlich Langsam, Lebhaft 11:19
6.Romanze: Ziemlich Langsam 5:09
7.Scherzo: Lebhaft 6:28
8.Langsam, Lebhaft 7:51
指揮/ズー・ビン・メータ
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1976/06 ゾフィエンザール、ウィーン
P:クリストファー・レイバーン
E:ジェイムズ・ロック
P:クリストファー・レイバーン
E:ジェイムズ・ロック
DECCA 425728-2XN

メータはデッカにアナログからデジタルの変遷期にシューマンの交響曲全集を完成させています。これはそのうちのアナログ収録された方の一枚です。この時代の録音、録音会場のせいもあるのでしょうが、バーンスタインが残した全集よりもウィーンフィルらしい音がするのが良いですね。今年に入ってウィーンフィル・エディションなる物を購入しましたが、どうもDGの音はウィーンフィルらしさがあまり感じられないものが多いのが玉にきずでした。元々ゾフィエンザールはデッカの専用ホールであった訳ですが、これはウィーンフィルの本拠地であるムジークフェラインよりも音が良いとして選定されたものです。この建物の天井は高く、床下のプールの影響などで音響効果は優れていたことがデッカの録音スタッフの目に止まったようです。このソフィエンザール、建物が建ったのは1826年。当初は Sofienbad と呼ばれるスチーム風呂場だったそうで、その後ダンスホールに改修。この頃、ヨハン・シュトラウスがウィンナ・ワルツを演奏したそうです。デッカの録音には1956年から80年代中頃まで使用されたそうですが、2001年に火災によりダメージを受け、現在は外観は残っているようですが建物は共同住宅になるようです。火災でやけてしまったのが返す返すも残念です。

消失したゾフィエンザール
そうゆう古き良き日の記録を聴くことが出来るのがこのアルバムです。ここではウィーン・フィルの持ち味を遺憾なく発揮させたものに仕上がっています。弦はあくまでもシルキーであり、管は全体を包み込むような柔らかさがあり、現在のDgの録音のような突き刺さる刺々しさはまったくありません。このCD、それこそ東京まで伸して秋葉原駅前にあった「Z」やら渋谷の「クラシコ」へ行って見つければ手当り次第に買うといった時代の産物で、すっかり忘れていました。久しぶりに取り出して聴いてみたら、思わず聴き入ってしまいました。デッカ時代のメータは良い仕事を残していますね。それに比べるとニューヨークフィル時代は何と不毛な事か....個人的にも、ベートーヴェンの英雄をレコードで買っただけで見限ってしまいました。やっぱりデッカ時代のそれも、ウィーンフィルを振ったこの全集、デッカ録音で聴ける幸せを味わいました。
第1番はメータの指揮は第1楽章からイン・テンポでグイグイ進んでいきます。メータはこの時50歳代のバリバリでしたからまだまだ颯爽としていたのでしょう。実に切れ味の良い演奏を展開しています。若々しく弾むようなテンポというか、春への希望・青春の憧憬に満ちた足取りというものが感じられます。メータはウィーンフィルの出身でもあるので、全体ウィーンフィルが和気あいあいと演奏している様が聴き取れます。これは多分メータの役得でしょう。包み込むようなウィーンフィル独自のウィンナホルンの響きが秀逸です。この響きがあって、金管の全体がうるさく感じられません。
メータはこの頃ロスフィルの常任でしたが、ロスフィルとの演奏ではどうしてもオーケストラを強引に引っ張る必要がありました。しかし、ウィーンフィルはそういう手法を使わなくてもオーケストラが自発的にメータの求める響きを作ってくれます。第2楽章では特にその感が強いです。得にメータが演奏していたコントラバスはこの楽章ではうまいサポートを見せています。それに乗せられてかチェロ群も艶のある良い音色を響かせています。色っぽさを感じさせる弦がこの楽章の特徴でしょう。これがゾフィエンザールの醸し出すウィーンフィルの響きなのかもしれません。
一転第3楽章のスケルツォは、やや落ち着いたテンポで一音一音噛み締めるような響きを求めています。さらっと舞曲のノリで流してしまう指揮者が多い中でこれは発見です。まあ、こうする事で知勇患部との対比を明確に出来るというメータの判断なのかもしれません。こういう、演出に思わず耳をそばだててしまいました。ところで、ウィーンフィルのシューマンの交響曲全集の最初の録音はショルティで1967年の事です。この頃のショルティは例の1967年といえば、あの記念碑的なショルティ/ウィーンフィルによるワーグナーの『指輪』全曲録音をはじめ、R.シュトラウスの歌劇『サロメ』、『エレクトラ』、ブルックナーの7番と重量級の録音が続いた後ということになります。しかし、ショルティのシューマンはさっぱり存在が忘れられています。何でも担当のプロデューサーが「こいつはひどいっ!」といったセッションだったようです。
アレグロの終楽章も悠然としたテンポです。バーンスタインはもっと速いテンポで、エネルギッシュに演奏しているのと、この点かなり違うようです。それにしてもこの弦のアンサンブルの巧さはどんなものでしょうか。強奏でもあくまでノーブルさを失いません。ここでの聴きものはコーダ直前で響くウィンナ・ホルンの深々とした音でしょう。1975年のベームとの来日公演のときも彼の名演を聴くことができましたが、この音は、多分ローラント・ベルガーと思われますが、もう圧倒的な存在感の響きです。この音を聴くだけでもこの演奏の存在感があります。
後半は交響曲第4番です。ただし、この4番に関してはメータも意気込んで録音した割には、いたって平凡な演奏です。ウィーンフィルの演奏という事で録音的には上記の一番と違わない良い音がします。何しろアナログの完成期の音ですからね。やっぱり、この曲にはフルトヴェングラーの巨大な姿が影を落としているのでしょうか。言ってみれば、フルトヴェングラーに似せた演奏です。まあ、こちらは以前HPでも取り上げた演奏です。その時の感想は、
{{{フルトヴェングラーに一番近い演奏かも。トータルの演奏時間も近似している。ウィーン・フィルの音色がシューマンに合っているのか非常に聴きやすい演奏。独特のデッカサウンドでステレオ感たっぷりで低域までがっしりと押さえた録音。メータは結構テンポを揺らしての演奏だがウィーンフィルを相手だけに嵌めは外していない。ロマンティシズムに溢れた演奏で70年代の時代を色濃く映し出した演奏ともいえる。テンポ設定がよく、音楽が流れている。決して力で押し切るという指揮ではなく、表現は悪いがウイーンフィルを上手くおだてながら演奏させており音楽の自発性が感じられる。その点がショルティの指揮とちょっと違うところだろう。}}}
というものでした。今聴いても雰囲気はフルトヴェングラーのそれですが、フレーズの扱いは平凡です。やはり、フルトヴェングラーは役者が数枚上です。テンポの揺らし方もそれなりに工夫はしているのですが、フルトヴェングラーの演奏を聴いた後ではどうにもその小賢しいテクニックが見えてしまいます。ただし、ショルティの演奏よりは格段に出来はいいです。何にしても、ウィーンフィルが楽しんで演奏していますからね。
それにしても、メータはデッカにかなり貢献しているはずなのに纏ったボックスセットが出てこないのはどうしてなんでしょうかね(注 現在は発売されています)。たしかに、デッカやソニー、テルデックにソースが別れているという事はありますが、それなりに纏める事は可能に思えます。今ひとつ人気がないのかなぁ。YouTubeでも彼の演奏はほとんど聴くことができません。そんなことで、今回はシューマンの第1番をアップしてみました。第1楽章ですが、その若々しい指揮ぶりを聴いてみて下さい。
そうそう、メータといえば鮮烈だったのはロスフィル時代です。今回記事湯書くにあたって検索したら、このロスフィルとのラヴェルのボレロのセッション録音が見つかりました。リハーサル付きで中々の聴きものです。