ザンデルリンクのシベリウス | geezenstacの森

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ザンデルリンクのシベリウス

曲目/シベリウス
Sibelius: Symphony #2 In D, Op. 43
1. Allegretto 10:26
2. Andante Ma Rubato 13:19
3. Vivacissimo 7:01
4. Allegro Moderato 14:58
Sibelius: Symphony #3 In C, Op. 52*
1. Allegro Moderato 10:44
2. Andantino Con Moto, Quasi Allegretto 8:27
3. Moderato, Allegro 8:20

 

指揮/クルト・ザンデルリンク
演奏/ベルリン交響楽団

 

録音/1970*、1974 イエス・キリスト教会、ベルリン

 

BRILLIANT 6328/2

 

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 ザンデルリンクのシベリウス交響曲全集中の一枚です。ザンデルリンクのシベリウスの交響曲録音は、最初旧西ドイツのレーベルであるアリオラ=オイロディスクに第3番と第5番が録音されました。これは日本では提携関係のある日本コロムビアから発売(COCO-70829)されています。やがて旧東ドイツのドイツ・シャルプラッテン(日本での発売窓口は徳間音工)に引き継がれて、残りの交響曲を録音し全集となりました。日本では窓口が違うため全集という形にはなりませんでしたが、欧米ではこうして一つのセットに纏められています。その最初に発売されたのがこのブリリアントのセットです。

 

 こういう経緯があるので、ここでは第2番と3盤が1枚に納められていますが、録音スタッフが違うので音が微妙に違います。冒頭に納められている第2番の方がやはり音の鮮度が良いです。先きにシベリウスはベルグルンドの演奏を取り上げています。このザンデルリンク番と同じように第2番と第3番を収録しています。で、いやがうえでも比較してしまいます。そして、その印象はザンデルリンクの方が役者が上だなぁという気がします。ベルグルンドは北欧出身という事で直情的に曲を解釈しています。まさに、おらが音楽という気持ちの入れ様です。一方ザンデルリンクはドイツに生まれながらソ連での生活が長い指揮者でした。ロシアの土壌は北欧に近いものがあり、生活環境としてはそれより厳しいのかもしれません。そう言う人生体験をやはりこの曲に反映させている演奏です。さらに、役者が一枚上と思わせるのは、音楽を響かせるフレーズの一つ一つが聴き手に語りかけるように解り易くオーケストラをドライブしている点です。響きの点ではドイツ・グラモフォンがカラヤンの初期の録音でも利用していたイエス・キリスト教会と同名の東ベルリンの教会です。同じじゃないんですなぁ。ここの適度な残響をうまく生かしています。シャルプラッテンの録音は緻密にして重厚、バランスに配慮した聴きごたえのある正統派の名演を引き立てています。オケの幾分暗い響きはシベリウスの音楽に非常に合っていると思います。

 

 第一楽章冒頭から遅めのテンポで。重く厚みのある響きで音楽は雄大に展開していきます。各フレーズの歌い回しはまるで演歌のような抑揚をつけています。これが良い見での押し出しになっていてシベリウスの語法を解り易くしています。コロムビアに残されたチャイコフスキーを聴いてもそうですが、ザンデルリンクは概して遅めのテンポで悠々と聴かせます。それがシベリウスには似つかわしいですね。北欧の冷涼感や透明感には遠いなと感じさせる部分もありますが、それはロシアの荒涼なツンドラ地帯を思わせるほの暗さは自由分に感じさせてくれます。オーケストラの名前は現在ではベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団と名前が変わっていますが、このザンデルリンクが君臨していた時代は良いアンサンブルを誇っています。

 

 第二楽章冒頭のティンパニはくっきり聴き取れますが、その後の弦のピチカートはえらい弱音で演奏されています。その分続くファゴットの第一主題やホルン響きはくっきりと演奏されます。全体的には暗い響きでメロディラインは速いテンポでサラリと流していきますが、低音部の暗い響きが孤独感を助長していきます。ザンデルリンクは弦の響かせ方がうまく、静寂な部分は室内楽を思わせる響きです。バランス的に金管が奉公する部分が有るのですが、以外と金管は押さえた響きで捉えられています。この辺りが、オイロディスクとシャルプラッテンの録音ポリシーの違いの部分なんでしょうか。

 

 第三楽章は、一般的には中間部のバス・クラリネットのLentの指示のあるオーボエの旋律が聴き所でここでもしみじみと良く歌っています。この部分で下支えするチェロの音も美しい響きを聞く事が出来ます。その後の全奏はLentの指示とは好対照にスピード感を上げて強奏されます。急ー緩ー急のこの楽章のこういうメリハリ良いですねぇ。ベルリン響はザンデルリンクら育てられたオーケストラで彼の意図を見事に再現しています。あまり荒々しくはありませんが金管が咆哮してアタッカで第4楽章に突入していきますがここの弦のじっくりとしたテンポでの弦の波打つような響きが秀逸です。

 

 第四楽章の第一主題はトロンボーンの合いの手がやや割れ気味のサウンドでパリッと決まっています。ザンデルリンクは弦の扱いがうまいです。このベースがしっかりしているのでそれに乗っかる管楽器が安心して吹いていられるのでしょう。テンポが自在に変化してもぶれません。シベリウスはここで第2楽章の変形の音型を使っていますが、こういう所を再確認出来るようなきっちりとした演奏です。まあ、弦が主体という事で管が少々埋没してしまうバランスなんですけどこういう演奏も良いものです。ティンパニもどちらかというと控えめの鳴らし方であくまで主メロディ主体の演奏です。オーケストラのやや暗めの音色にこの弦楽の瑞々しい響きが絶妙にブレンドされていて、聴くほどに味が出てくる演奏に仕上がっています。巷ではベルグルンドの演奏が断トツの人気のようですが、日本人にはこういうザンデルリンクの解釈の方が似合っているような気がするのは小生だけでしょうか?

 

 

 さて、シベリウスの第3交響曲です。ザンデルリンクは奇しくもこの第3番からシベリウスの交響曲の録音を始めています。まあ、考えられる事は一番得意としている曲から手を付けるという考え方でしょう。個人的にはそれが成功していると思います。この第3番はテンポ的には2番と違い中庸なテンポで無難な解釈を見せています。しかし、実際の音楽は第1楽章の冒頭からコントラバスとチェロの刻むリズムが躍動しています。オイロディスクの録音は心持ち木管や金管の響きをクローズアップした収録方法をとっています。そんなことでシベリウスの作品ではやや影の薄いこの作品を思いのほか引き立たせていてくれます。フレーズの跳ねや止めもアクセントを強調したり溜を作ったりしていて楽しく聴かせてくれています。まるで、これが新生シベリウスの響きですという事を高らかに世間にPRしているような歌い回しです。ザンデルリンク、侮れませんよ。世間ではブラームスの評価が高いですが、小生はフィルハーモニアとのベートーヴェンとこのシベリウスを押したいですなぁ。

 

 最近この曲で、よく聴くのがこの第2楽章です。シベリウスのすべての交響曲の中でこの第3番の第2楽章が一番のお気に入りです。ベルグルンドの演奏も美しかったですが、ザンデルリンクも良い仕事しています。何処となく民謡調の主題は郷愁を誘いますし、オーボエとフルートの掛け合いがいい味を出しています。よく聴くとピィツィカートの弦が幾分シンコペーション気味に進行していく演奏になっています。ザンデルリンクは決して単調なピィツィカートを要求している訳ではないんですなぁ。バス・クラリネットも良い仕事しています。

 

 第3楽章は第2楽章のメロディを奏でさせ、曲としての統一性をアピールしている所はこれまでの交響曲と同じ点ですが、この交響曲ではこの部分の前半の序奏を短い第3楽章と捉える事も出来ます。そして、ひとしきり盛り上がった後のコラールの部分は第4楽章としての性格なんでしょうな。まあ、この手法は第4番で開花する訳ですが、この第3番でも充分に聴いて取れます。ただ、コーダの部分はもう少し粘ってもうひとくさり盛り上げてほしいというのがこの3番の残念な所です。ザンデルリンクの演奏を聴いてもそういう印象は変わりませんが、金管を含めてオーケストラは好演しています。充分にザンデルリンクの期待に応えているでしょう。

 

 

 ブリリアント盤は既に廃盤ですから、今はベルリンクラシック盤しか無いのかな?