ナヌート/マーラー交響曲第5番
曲目/マーラー
交響曲第5番嬰ハ短調
1. Trauermarsch 11:50
2. St??rmisch Bewegt 13:12
3. Scherzo 15:29
4. Adiagietto 9:03
5. Rondo: Finale 13:41
指揮/アントン・ナヌート
演奏/リュブリアナ放送交響楽団
演奏/リュブリアナ放送交響楽団
録音/1987
豪PICWICK MUSIC PCC3013


先日、恒例のCDの棚整理をしました。その中からまた所有しているのも忘れていたCDを見つけ出しました。2枚組でワーグナーとの組み合わせであったのでそちらの方に分類されていて、てっきりマーラーが収録されているのを失念していました。で、もってその演奏者を改めて確認してまたびっくり。なんと、アントン・ナヌートではないですか!ばったもんCD界の帝王ですからね。レコード時代ならハンス・ユルゲン=ワルターなんかがいましたが、CD時代はナヌートに替わっていました。まあ、調べてみると様々なソースで彼の演奏が発売されています。過去には国内盤では、ばったもんCDでクラシックコレクションを発売していたディアゴスティーニ盤、同じく2枚組で発売されていたピルツ盤、そしてBELLA MUSICAからは現在でもダイジェスト盤が発売されています。オリジナルはストラディヴァリというレーベルなのですが、POINTやPILZ、ZYXなど手持ちの様な海外盤は数しれずです。ところで、このCDは珍しいオーストラリア盤です。レーベルはPICKWICKですが発売元はCASTLE COMUUNICATIONというところです。ご覧のようにジャケットだけでは何のCDかさっぱり分かりません。インナーでようやく曲目と演奏者が分かります。1枚目は悪名高いアルフレード・ショルツやハインリッヒ・ホルライザー(実在)なんて名前が挙がっていますが、オーケストラは怪しいものです。そんなことで、2枚目のCDの演奏がナヌートだということを見逃していたようです。
で、久しぶりに聴いてみました。といっても、多分2度目の視聴でしょう。そして、意外と良い演奏であることに満足したのでブログに取り上げることにしました。録音は1987年、多分コンサートにも使っているガルス・ホールでの録音でしょう。この一連の録音は決して悪くありません。適度のホール残響があってなかなかバランスの取れた響きです。ナヌートの演奏も、そこらのぽっと出の指揮者とは違う安定感があります。長年手塩に育てて来たオーケストラだけあって長所も短所も知り尽くしているのでしょう。決して一流のオーケストラではありませんが、指揮者と一体感のある演奏を繰り広げてくれます。

第1楽章は冒頭のトランペットも落ち着いたものです。良い出だしです。録音当時はユーゴスラヴィアのオーケストラでしたが、現在は国名が変わってスロヴェニアという国になっています。当然オーケストラもスロヴェニア放送交響楽団と名前が変わっています。演奏はナヌートの信条とでもいうべき中庸さを地でいくテンポです。今は世代が変わってるのでしょうが、演奏レベルは悪くありません。決して重々しい演奏ではありませんが、さりとて、さらっと流す様な感じの演奏ではなく、地味のある大陸的な響きを持っています。しいていうなら、個人的にはチェコフィルの匂いを感じます。まあ、聴いてみて下さい。
第2楽章はバランス的にやや弦楽器が奥に引っ込んでいるイメージがありますが、管楽器ががんばっているといった印象が強い出だしです。しかし、一転して第2主題の提示になると弦もがんばってきます。ま、ここでの響きも重心は低くはありませんので、音楽としては割とあっさり進んで行きます。ティンパニのトレモロもやや遠目の音色で反って幻想的に響いています。全体には速めのテンポで、「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」の指示を守っている演奏といえます。そういういみでも、過不足の無いスタンダードな演奏といえるでしょう。
第3楽章の冒頭のホルンは、トランペットに比べるとやや自己主張が弱い響きです。そこがちょっと物足りないといえば嘘になりますが、以後の管楽器のソロをはじめ弦はナヌートの指揮に必至に付いていっているひたむきさがあります。耳を澄ましていると全体に手作り感が感じられる音楽です。名人芸で押し切られる演奏よりも、多少ごつごつはしても、こういうニュアンスを持つ演奏の方が親しみが持てます。中盤のピチカートで演奏される部分なんかはややハラハラドキドキで聴き入ってしまいますがなんとか崩壊せずに繋がっていきます。この第3楽章を15分台で演奏するのは以前ドホナーニで聴いた時にも感じましたが、基本的にはスケルツォの楽章ですからあまりゆっくりな演奏では興が削がれてしまいます。こういう演奏も良いものです。
映画「ベニスで死す」に使われてからもっぱら交響曲第5番というとこの第4楽章のアダージョが有名になってしまいました。ハープと弦楽器のみで演奏される、静謐感に満ちた美しい楽章であることから、癒し系の音楽の代表格になっていますわな。ここでは、ナヌートは殆どためを作らず、淡々とメロディラインを紡いでいきます。人によってはちょっと弦に物足りなを感じるかもしれませんが、全5楽章のうちの第4楽章としての位置付けであるなら、この演奏は許容出来ます。多分単独でこの楽章だけ聴いたらもっと上手い演奏はいっぱいありますからね。でも、この演奏もすっと入って来てすっと抜けていきます。そういう意味では充分癒しの音楽になっています。
ナヌートの演奏は全体で63分強とどちらかというと早い演奏です。この第5楽章もその流れの中で演奏されています。この楽章のホルンの出は悪くありません。そこにファゴット、クラリネットが牧歌的に掛け合います。速いテンポですが、せかせかした感じはありません。一つ一つのパッセージは落ち着いて力まず演奏されています。まあ、全体に低弦のパッセージのところがもう少し力強ければいいなぁとは思いますが、全体がそういう音楽作りなのでこれもまた良しとしましょう。久しぶりに聴いた時は、繰り返し2度も全曲を聴いてしまいました。ナヌートの音楽は何も正座して聴く音楽ではなく、マーラーはこういう音楽を書いているんですよ、と優しく諭してくれる様な演奏なのです。この記事を書くにあたって再度2度聴きしています。CDを聴くとどっと疲れる演奏もありますが、ナヌートのマーラーは、そういう心配がありません。
「クラシック・コレクション」に含まれていたので、この演奏のお世話になった人は多いのではないでしょうか。どれほどこのシリーズが売れたかは知りませんが、そういう意味では、一番多くの日本人に聴かれたマーラーかもしれませんね。