ルイ・ド・フロマンのドビュッシー | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

ルイ・ド・フロマン
ドビュッシー

曲目/ドビュッシー
1.牧神の午後への前奏曲, L 86 9:28
交響的素描 「海」
2. De l'aube ?? midi sur la mer 8:24
3. Jeux De Vagues 6:25
4. Dialogue du vent et de la mer 8:08
管弦楽のための映像
5.Gigues 7:46
6.Iberia 19:08
7. Rondes de Printemps 7:52

 

指揮/ルイ・ド・フロマン
演奏/ルクセンブルグ放送管弦楽団

 

録音/1972

 

MENBRAN 222125 (原盤VOX Records)

 

イメージ 1

 

 一時期VOXから怒濤のようにこのコンビのレコーディングが発売されました。このドビュッシーの録音はVOXBOXというボックスセットの形で3枚組2巻という全集で発売されていました。このレコードは現在手放してしまいました。それでも、彼の指揮では手元にサン・サーンスのオーケストラ作品集が残っていて、交響曲も協奏曲も手堅い演奏で纏めています。ただ、レコード時代はVOXの盤質はあまり褒められたものではなく、何となく芯のない音質とともに、ただ曲を聴くということの印象しか残っていませんでした。まあ、それでもレコード時代にはお世話になった指揮者です。そんなことで、このコンビのCDがこのクアドロマニアで復活した時は、思わず手を出してしまいました。レコード6枚分がCD4枚に凝縮されているではありませんか。それに、このシリーズは別の演奏者の録音を混ぜたりとかして、まともな内容のものがほとんどありません。先に紹介したベートーヴェンの協奏曲セットもそうでしたし、マーク/フンガリカのシューベルトもそうでした。しかし、これは完全な形で発売されています。そして、入手した時の価格は何と4枚組で880円という激安価格でした。このシリーズでMENBRANというメーカーを知ったと言ってもいいでしょう。

 

 ルイ・ド・フロマンといっても知らない人が多いでしょうね。1921年トゥールーズ生まれのフランス人指揮者でパリ音楽院では、ルイ・フレスティエ、ユージン・ビゴー、そしてアンドレ・クリュイタンスに学んでいます。1948年には首席で指揮科を卒業しています。ですからクリュイタンスの弟子でもあります。最初はカンヌやドーヴィルのカジノで活躍していましたが、1958年からルクセンブルク放送管弦楽団のシェフになり、1981年に引退するまで米VOXに大量の録音を残しています。ただ、日本ではほとんど紹介されたことが無く、僅かに日本コロムビアの廉価盤シリーズで先のサン・サーンスの交響曲第3番(CO OC7058)がリリースされたことがあるだけです。とにかく、レパートリー的にはバッハからハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの古典派からこのドビュッシー、ミヨー、さらにはメシアンなどのお国ものまでまで幅広く録音していました。こんな横顔です。

 

イメージ 2

 

 まあ、一口に言うなら手堅い指揮をする人で、ここでもジビュッシーの音楽を過不足無く演奏しています。ただ、味付けは薄く濃厚なドイツオーストラリア風の演奏を期待すると失望します。個人的にはこの肌触り好きです。オーケストラも一流という訳ではありませんが、名前の通り放送局の所属のオーケストラですからそれなりの聴かせる演奏はしています。どちらかというとフランス音楽は、色彩的には豊かなものがありますが、オーケストラの響き自体は重厚さというものは感じられません。そういう部分ではこのフロマン/ルクセンブルクのドビュッシーはまさにお国ものを料理しているという風情があります。

 

 レコード時代は、もっと線が細く感じられたのですが、CDで復活した音源は軽いながらも、なかなかバランスのとれた録音で聴き劣りはしません。冒頭の「牧神の午後への前奏曲」は録音のせいか、レコードで聴いた時は今ひとつピントが合っていない様なぼやけた音でいい印象は持っていなかったのですが、改めてCDで復刻された音を聴くと、これはこれでドビユッシーのアンニュイな雰囲気を捉えたなかなかの録音であることに気がつきます。まあ、テープヒスはわずかに感じられますからアナログ時代の録音であることは間違いないのですが、我が家の装置で聴くといい案配に低域までフラットに伸びている音で、自然な録音の様な気がします。耳を澄まして菊と指揮者が譜面をめくる音まで生々しく収録されています。こういうソフトフォーカスの牧神もいいものです。聴いてみましょう。

 

 

 次の交響的素描 「海」には名演がひしめいています。フランス系だけを取っても、ロンバール、マルティノン、クリヴィヌ、パレーなんかがひしめいています。まあ、そういう名演の狭間でこのフロマンの録音は、お茶漬けさらさらの演奏でしょう。はったりもためも何も無いまるで水彩画の様な「海」です。ドビュッシー自身は、この曲を日本の浮世絵の北斎の作品をイメージして書いたようで、初版の表紙には北斎の「神奈川沖浪裏」(富嶽三十六景) の一部が印刷されています。

 

イメージ 3

 

 力強さはあっても単純化した図案のシンプルさに惹かれた訳でしょうから、こういう淡白な演奏の方が向いているのかもしれません。まあ、オーケストラ作品ですから、時に大音量で鳴り響きはしますが、濃密な重苦しさは感じられません。ブーレーズが指揮する様なかっちりとした音楽ではありませんが、これぐらいの緩さの方が聴く方も疲れません。まあ、嗜好の問題でしょうが、小生はこれぐらいの演奏の方が気楽に聴くことができます。もっとも、これも東京へドライブした時に車の中で聴いていたので、そういうシュチュエーションに合っていたのかもしれませんが・・・「海」からは第3曲の「風と海との対話」を聴いてみましょう。

 

 

 
 最後は「映像」です。元はピアノ曲ですね。管弦楽版はイギリス(スコットランド)、イベリア、そしてフランスをイメージする曲が配されています。性格分けは取り立てて成功しているとは思いませんが、それなりの雰囲気は感じられます。一突き城所といっては何で空かせ、70年代のヨーロッパの普通のオーケストラはこんなレベルだったんだろうなということが分かります。ソロ楽器として登場する木管はなかなか味のある演奏をしていますが、金管は何処となくがさつなイメージがします。まあ、そういう猥雑さが合って雰囲気を醸し出しているんでしょう。映像からはやはりフランスをイメージした「春のロンド」を聴いてみましょう。

 

 

 総じて、ほんわかイメージのまるで、ディアゴスティーニの名曲ものの様な出来ですが、これが意外といいんですね。今はこの形では廃盤になっていますが、デザインを買えて価格もアップしてMembran/Documents 231566という規格で再発されています。ここで取り上げたのは1枚目だけですが、この4枚組なかなか選曲がいいので機会があれば他も取り上げてみたいと思います。