幕末日本の風景と人びと-フェリックス・ベアト写真集 | geezenstacの森

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幕末日本の風景と人びと-フェリックス・ベアト写真集

編集 横浜開港資料館
発行 明石書店

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 幕末・明治初期の数年間、横浜を拠点に各地の風景や日本人の風俗・習慣を撮影し、芸術性豊かな風景写真や彩色を施した風俗写真を生み出したF.ベアト。その作品の数々を、ベアト自らの解説と共に収録する。---データベース---

 幕末の横浜をはじめとして、鎌倉、箱根、東海道の街道や宿場、江戸城や藩邸、浅草・王子、更には四ヶ国艦隊との戦争後の下関砲台(教科書などにも引用される有名な写真です)や長崎の風景など、幕末の日本各地の貴重な風景とそこに生きた人々の姿を写真を通して現在の我々も覗きこむことができます。
 
  フェリックス・ベアト(以下F・ベアト)という人物をご存知でしょうか? 19世紀を代表する報道写真家で、クリミア戦争、セポイの乱や、中国のアロー号戦争など歴史的な場面に立会い、取材し、文久3(1863)年に来日したイギリス領コルフ島の写真家です。彼は幕末から明治初期まで日本に滞在し、横浜、江戸、長崎など日本各地の風景や風物、風俗を撮影します。本書では彼の撮った写真、236点を収録。F・ベアト写真集の決定版とも言える内容となっており、当時の日本の姿を知る事ができる貴重な史料でもあります。小生が閲覧したのは1987年に出版されたもので、昭和61年度の企画展「写真家ベアトと幕末の日本」の図録を兼ねたもののようです。

 彼の写し出した時代は、日本が世界の枠組みに取り込まれようとしている激動の時代。それを外国人の視点と写真家としての視点織り交ぜながら記録していますから、様々な風景の中から時代のリアリティを垣間見る事ができます。例えば開国の後、すさまじい勢いで開発が進む「横浜」と、徳川幕府のお膝元「江戸」ではまったく違う風景を楽しむ事ができます。「横浜」は外国人居留地が次々と生まれていき、道や町も区画整備されていきます。建物も屋根は和風なのに、外見はレンガ造りという面白い建物なども窺う事ができ、異文化との融合がそこかしこに。そこにぽつんと立つ開発の為に駆りだされたであろう工夫の姿は時代から取り残されているようで哀愁すら感じさせてくれます。

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 写真で見る限り、横浜の開港は想像以上のスピードで、数々の船が湾に出入りしています。今更ながら、列国が怒濤のように日本を目指していた様を伺い知ることが出来ます。特に四国艦隊が下関へ向かう前に(四国艦隊下関砲撃事件)、横浜に集結していると言われている写真は圧巻!!おそらくあなたの歴史観を変える一枚となるのではないでしょうか。新しい時代の息吹を「横浜」の写真からは感じることができます。そして、この艦隊が1964年8月5日関門海峡に押し寄せるのです。結果長州藩は敗れ、前田砲台も占拠されてしまいます。その史実を写し取った結果が下の写真です。

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 この他にも写真集には「生麦事件(1862) 、鎌倉事件(1864)などの現場写真も残されています。ベアトは生々しく時代を写しています。

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         生麦事件現場
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         鎌倉事件現場

 本書の写真編には8つのテーマでベネとの写真を分類しています。

横浜とその周辺
金沢と鎌倉
東海道
箱根と富士
江戸とその周辺
琵琶湖と瀬戸内海
長崎
風物・風俗


 この中には鎌倉の鶴岡八幡の写真もあり、そこには「神仏分離(1868)」で取り壊されてしまった大塔と薬師堂(後方)の珍しい写真もあります。また、鎌倉の大仏は鬱蒼とした木々の中に悠然と鎮座している様が写し取られています。

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 個人的には東海道に興味があり、残された写真を興味深く見ました。広重の東海道五十三次ではデフォルメされていた宿場町の様子や街道の風景が残された写真で実際に確認出来ます。東海道はやはり幹線道路ということで広く街道沿いには松が林立しかなり歩きやすい様子が見て取れますし、宿場も人通りはあるものの整然としていることが伺い知れます。

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            東海道横浜ー藤沢間
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            茶店の点在する東海道
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            箱根宿
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            小田原宿

 それに対して「江戸」の町は、武家屋敷が広がり、凛とした佇まい。幕末とはいいながら横浜から感じられる熱気とは違った静けさを感じます。そこには日本の伝統的街並みを見ることができ、大名屋敷や藩邸の堂々とした建物が並びます。有名な薩摩藩を写した写真はその後の調べで、島原藩松平主殿頭の上屋敷で現慶応大学三田校舎、坂の上が松山藩松平隠岐守の屋敷(現イタリア大使館)、そして右側は会津藩松平肥後守(松平 容保のこと)の上屋敷です。

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 また、意外にも神奈川台町の写真では関門が写されていますが、これを見るとこの時代の町木戸には開閉式で閉めることが出来る柵が残っているのが確認出来ます。これは新しい発見でした。

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 この写真集には、発売当時(1869年頃)に書かれたキャプションが掲載されています。解説シート筆者の、文明国イギリスと江戸時代日本との比較の視点、それは、文明の中に現在生きている現代の我々の江戸を見る時の視点に似通うものを感じ取ることが出来ます。この解説は中々興味深いものです。

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           塔ノ沢温泉

 他にも箱根や、鎌倉など現在でも人気の観光地も写され、当時の美しい姿を窺う事ができます。当時も外国人に人気だったようですね。歴史の本というとお堅い感じという印象を持つかもしれませんが、この本は写真がメインなので、比較的楽に楽しむ事ができると思いますよ。歴史が好きな人にとっては、今までの歴史観を壊してくれる本かとも思います。また、江戸時代は確かに現在に繋がっていることを実感させてくれます。幕末の日本と日本の原風景がたくさん詰まった本書で、今流行のノスタルジーを通り越して、江戸時代にタイムトラベルしてみてはいかがでしょうか。

 バックには仁のテーマソングを流してみました。