ショルティの「ザ・グレート」 | geezenstacの森

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ショルティの「ザ・グレート」
曲目/
シューベルト/交響曲第9番ハ長調D.944「ザ・グレイト」
1. Andante - Allegro Ma Non Troppo 16:58
2. Andante Con Moto 14:28
3. Scherzo (Allegro Vivace) 15:25
4. Finale (Allegro Vivace) 14:34
5. ワーグナー/ ジークフリート牧歌* 18:30

 

指揮/ゲオルグ・ショルティ
演奏/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団

 

録音/1981/06 
   1965/11* ゾフィエンザール、ウィーン
P:ジェームス・マリンソン、ジョン・カールショウ*
E:ジェームス・ロック、ゴードン・バリー*

 

DECCA UCCD5007(460311-2)
  
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 デイヴィスに続いて取り上げるのはショルティの「ザ・グレート」です。多分これはショルティ初のデジタル録音ではないでしょうか。時代的にはデイヴィスと1年あまりしか違いませんが、時代は大きく動いていました。その差が大きい1年でアナログからデジタルへの技術革新が進んでいました。デッカは既に1978年から試験的にデジタル録音をスタートしていましたから、もうこの81年にはデジタルのデッカサウンドを完成していたといっていいでしょう。ショルティは手兵のシカゴ交響楽団とこのウィーフィルを巧みに使い分けてレパートリーを増やしていました。早い話しがオペラモノはほとんどがヨーロッパのオーケストラです。そして、シューマンの交響曲もウィーンフィル、シューベルトも意外にもウィーンフィルとしか録音していません。そのショルティのシューベルトは5番、8番とこの9番しかありません(映像としてはシカゴ交響楽団との第6、第7番[ここでは未完成のこと]があります)。ディスコグラフィを見るとワーグナーの楽劇を録音しながらウィーンフィルとベートーヴェンの交響曲を録音していますが、その時代はかなりオーケストラと確執があったといいます。ショルティは耳が良かったんでしょう。ウィーンフィルが少しずらして音を出してくるのに我慢ならなかったようで、厳格なリハーサルを要求したようです。まあ、ショルティとは1950年代から付き合いがあるわけですから、ウィーンフィルはそういうショルティの要求をきっちりと受け入れて、ここではややドラスティックな演奏を聴かせています。

 

 何時もの優雅な音とは違う、ある意味クールでウィーン・フィルの響きを残しつつも金管は何時もより咆哮するといった具合にシカゴ響の様なダイナミックさも併せ持った演奏になっています。まあ、そこはホルン一つとってもウィンナ・ホルンを使っていますからやはり響きは違うんですけどね。弦の響きは柔らかさの中にも、切れ味鋭いアクセントを潜ませていますからシャープです。そういうところがクールさを引き出しているのです。デッカの録音は専用のソフィエンザールを使っています。各楽器の響きは明瞭でバランスも申し分ありませんが、ティンパニの音だけは定位が定まらず音もややオフマイク気味で後方でぼこぼこ鳴っているのが残念です。特にデイヴィスの演奏を聴いた後だと音楽の芯がぴしっと決まっていないようで座りが悪い印象です。ただ、ショルティの紡ぎ出す音楽は骨格ががっちりしているので聴き映えはします。明確なリズム処理で組み立てられた音楽を聴いているとショルティがきびきびと両腕をバタバタさせながら指揮している姿が目の前に浮かんできます。

 

 第2楽章は、やや手綱を緩め加減にしているのか木管の響きなんか実に伸び伸びとしていて、さすがウィーンフィルと感心してしまいます。その部分と、フルオーケストラで演奏される部分との落差が大きいので、ここにオーケストラと指揮者のせめぎ合いを見ることが出来ます。でも、そこはプロ同士の仕事です。結果オーライのオーケストラの音色の美しさと、恰幅の良い音楽が耳に届いて来ます。

 

 第3楽章も、歯切れのいいリズムでシューベルトの歌謡性を前面に押し出して、流れるように音楽を作っていきます。ただ、決して浪花節的にならず、出てくる音楽はたとえオーケストラがウィーンフィルでもクールです。ウィーンフィルを相手にこれだけ自己主張の強い演奏をしたのはショルティを置いて他にはいないのではないでしょうか。

 

 ショルティの演奏の最大の特徴はやはり第4楽章に現れています。ショルティという指揮者はやはりちょっと変わった指揮者で、全集モノにはあまりこだわりを持っていません。あるのはベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー、マーラーはあるにしても、シベリウスやラフマニノフの交響曲は一曲もリリースされていません。ショスタコーヴィチは晩年になって取り上げましたが、数曲しか録音していません。そのかわり、オペラは膨大な量があります。まあ、そういう点で、日本ではあまり人気がなかったのかもしれません。ですが、このエペラで磨きをかけているというところが彼の音楽性を象徴しています。すこぶる音楽の構成がドラマチックに纏められているのですね。聴かせどころのツボを押さえているというか、ソロの部分はその演奏者に任せ、自分はひたすら全体の構成をきっちり考え交通整理をし、ここぞというところはショルティ節でぐいぐい押し出して来ます。

 

 さて、この演奏は81年の録音だということは前にも書きましたが、この当時のこの曲の演奏は、フルトヴェングラーからカラヤンまでの時代はコーダは大見得を切ってデクレシェンドは無視して演奏しています。ただし、最近の楽譜は下のようになっています。デイヴィスはアクセントともデクレシェンドともつかない処理をしていましたが、ショルティはきっちり楽譜通りの最後はフォルテからデクレシェンド処理をして終了しています。大曲にしてはやや唐突な響きになることは分かりきっているので、カラヤンあたりは盛り上げて盛大に鳴らしているのですが、ショルティは楽譜通りに演奏してしょぼい終わり方をしています。でも、これがショルティの楽譜を読み込んだ解釈なんですね。まさに、時流に流されない確固たる信念に基づいた演奏であることが分かります。
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 最初聴いた時は、なんじゃこれ?!と思いましたが、楽譜をあたるとショルティが正解なのです。そんなことで、この「ザ・グレート」を集中的に取り上げるにあたっては、よく聴く第1楽章ではなく第4楽章を取り上げた理由です。それではショルティの演奏を聴いてみましょう。

 

 
 さて、このショルティ盤にはカップリングで、ワーグナーの「ジークフリート牧歌」が収録されています。ワーグナーが妻のコジマの誕生日プレゼントに作曲したという作品です。なぜか、この曲は「ザ・グレート」がCD化された当初からカップリングされています。アナログ時代の録音ですが、名録音です。カールショウ、パリーの黄金コンビです。こちらの方が低域まで伸びがあるそれこそDECCAの標榜した「ffrr」を聴くことができます。同じショルティの演奏でも、室内学的なこの作品、ソロが多いせいか60年代のウィーンフィルの雰囲気を良く伝えてくれるお任せの演奏で楽しめます。初心者向きにはちょいとお進め出来ませんが、良いカップリングです。

 

 一つ文句を言えば、ころころと再発されることです。一番安かったのは「DECCA NEW BEST100」で発売された時の1000円、それが今ではSHM-CD化で2,800円になっています。解説は当たり障りのない曲の紹介が中心で、このショルティの演奏についての特徴については全く触れられていません(長谷川勝英氏)ので、この演奏を聴く足しにはなりません。ここは、中古CDを捜した方が良さそうです。
 
 確認したところで、今度は改めて全曲を聞いてみましょう。