クレンペラーのブルックナー交響曲第5番 | geezenstacの森

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クレンペラーのブルックナー交響曲第5番

曲目/ブルックナー
交響曲第5番変ロ長調
1. Introduktion (Adagio)-Allegro 21:21
2. Adagio (Sehr Langsam) 16:37
3. Scherzo (Molto Vivace) - Trio (Im Gleichen Tempo) 14:45
4. Finale (Adagio-Allegro Moderato) 26:47

 

指揮/オットー・クレンペラー
演奏/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

 

録音/1967/03/09-11,14,15 キングスウェイ・ホール、ロンドン

 

P:ピーター・アンダーソン
E:ロバート・グーチ

 

EMI CDM 7 63612 2 
  
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 クレンペラーはブルックナーの交響曲を4~9番まで録音していますが全集は完成していません。そんな事で評価としてはそんなに高く無いようです。EMIにはヨッフム/ドレスデン国立管弦楽団の名盤があるので、どうしてもそちらが優先されてしまうのでしょう。かくいう小生も、LP時代はクレンペラーのブルックナーには見向きもせず、やはりヨッフムの演奏に耳を傾けていた方です。一時期クレンペラーのCDを集めたときがありますが、このCDはその時に購入した物のようです。でも、この一枚しかコレクションされていません。まあ、多分聴いて面白く無かったので次に手が出なかったのでしょう。

 

 第1楽章からして、遅いテンポでがっちりとした構成の中で音楽が紡ぎだされています。ちょっと息苦しいほどです。クレンペラーにしては珍しいほどの弱音で開始されます。この部分だけ聴くとフルトヴェングラーの演奏と間違うかもしれません。そんな事で後に続くフォルテとの対比は際立って聴こえます。ここで聴く事が出来るフィルハーモニアの音は、非常に渋くまさにドイツ的な響きがします。この時期は確かにクレンペラーの楽器になっていたのでしょう。その音は、何処となく冷たさを伴ったもので、金管の響きはオルガン的で、ブルックナーの深遠な世界と同化している様な趣です。クレンペラーはブルックナーの交響曲ならどれでも暗譜で指揮出来たそうですが、そういう下地の上にここではセッション録音の緻密さをプラスし、良くいえばブルックナーの世界観に極みに達した表現になっています。

 

 

 第1楽章の世界観をより深淵化したのがこの第2楽章でしょう。自己没頭型の極みで、ブルックナーと神とクレンペラーが同化した様な演奏です。細部にまで気を配った絶妙な音のバランスで、ブルックナーの書いたテクスチュアが目の前に浮かんでくる様な整然とした響きです。ここには、クレンペラーとフィルハーモニアのコンビが完成の域に達した神々しい音の表現があります。翌年クレンペラーはウィーンフィルに客演してこの曲を演奏しています。そのライブが残っていますが、この演奏と比較するとやはり、他流試合的な側面は感じられます。この演奏の白眉はこの第2楽章にあるといってもいいのではないでしょうか。

 

 

 第3楽章もスケールの大きな演奏で、スケルツォですから少しは軽快さがあってもおかしくは無いのですが、遅めのテンポで悠然と進んでいきます。じっくりと丹念に描き出された旋律線が、時として瑞々しい響きで聴き手をハッとさせます。金管はかなり咆哮しますが、それでも全体はオルガン的響きの中に集約されます。木管とホルンの主題で奏される中間部ののどかなトリオとの対比も、第3楽章全体の有機的な統一感が最高度に高められている。

 

 

 第4楽章は、冒頭、第1・2楽章の主題が回想された後、弦楽器によって第4楽章第1主題が提示されます。曲の構造的にはベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章を思わせます。クラリネットやオーボエの響きがそれらを否定して、第4楽章の主題を導いています。じっくり聴き込むと、その開始部分が極めて印象的で、合唱こそ伴っていませんがブルックナー的にはこの曲を天国的高みにまで昇華させる作用を持っています。クレンペラーはその主題の一つ一つを、そしてフガートを丁寧に積み重ねていきます。決して聴き手にこびる演奏ではありませんから、この世界についていけない人にとってはとても退屈な演奏に聴こえるかもしれません。多分この演奏を最初耳にしたときは、小生はそう感じてしまったのではないでしょうか。購入してから20年近くの歳月を経て、人間的にも成長したのか?、ここにきて、このクレンペラーの演奏の素晴らしさ、神々しさが理解出来るようになりました。実に壮大なブルックナーの世界です。

 

 

演奏/録音年 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
シューリヒト/VPO 21:58 17:36 12:33 25:26
マタチッチ/チェコPO 19:25 18:18 11:50 20:30
カラヤン/BPO 20:43 21:26 13:44 24:42
ヨッフム/ドレスデン国立O 21:19 19:16 13:02 23:42

 ところで、この一連のブルックナー録音はすべてキングスウェイ・ホールで録音されています。やはり、こちらの方が断然音がいいバランスで収録されています。ベートーヴェンなんかはアビーロードスタジオを一部に使っているので音の統一性がありませんからね。