破格の値段で購入した絵画からレオナルド・ダ・ヴィンチの指紋が見つかる!BS朝日の開局10周年記念番組として、昨年12月に放送されたものの再放送が1月2日にありました。「サイトウキネン」の続きで録画していておいたものなんですけどね。初回放送は完全に見落としてました。じつは、このことに関してはネットでは随分話題になっていました。最初知ったのは、下記の2009年10月14日付けのAFP配信のニュースでした。
で、2010年6月に草思社からはM.ケンプ、P.コット著/楡井浩一訳で「美しき姫君――発見されたダ・ヴィンチの真作」という本が出版されています。
ということで、そこそこ話題にはなっていたのですが、「ダヴィンチ・コード」のような爆発的ヒットとまではいかなかったようです。そんなことで、読もう読もうとは思っていたのですがついつい後回しにしているうちに忘れてしまいました(^▽^
しかし、BS朝日がこれを取り上げるということで俄然興味がもたげてきました。


「19世紀初期のドイツ作品」として1998年にニューヨークのクリスティーズのオークションで1万9000ドル(約170万円)で落札された「Young Girl in Profile in Renaissance Dress(ルネサンスのドレスを着た少女の横顔)」という肖像画がレオナルド・ダ・ヴィンチの未発見作品である可能性が非常に高いことが明らかになりました。絵画から発見された指紋が最大の決め手となるようですが、もしダ・ヴィンチの真作だと証明されれば数十億円相当の価値があるとのことです。番組は玉木宏がナビゲーターとなってこの絵がどういう経緯で表舞台に登場し、どういう評価を辿ってきたかを克明に追求しています。
冒頭の写真がその肖像画です。実際のサイズは約33×23cmとあまり大きくはありません。レオナルドの作品としては今までに発見されていない羊皮紙にチョーク・ペン・インクで書かれた作品ということです。作品は以前はWoman's profile in Renaissance suit=ルネサンス時代の服を着た婦人の肖像と呼ばれていましたが、最近では「美しき姫君」と名付けられています。
そんなことで、番組は草思社から発刊されたマーティン・ケンプとパスカル・コット共著の単行本「美しき姫君-発見されたダ・ヴィンチの真作」を下敷きにして制作されています。ケンプはオックスフォード大学美術史学科名誉教授、コットはマルチメディア高解像度の発明者で、フランスはリュミニエール・テクノロジー社の代表でもあります。
現在のオーナーはカナダ生まれのPeter Silverman氏。このドキュメントでも冒頭に登場します。1998年にこの絵画を落札したニューヨークのアートディーラーKate Ganzさんから、2007年にほぼ同じ価格で購入したそうです。Kate Ganzさんによると「イタリア遊学中のドイツ人の画家が、ダ・ヴィンチの絵画を模写したものかもしれない」とのことだったのですが、Silverman氏はこの絵画を見るなりその作画技法の緻密さから胸の高鳴りを覚え、「フィレンツェの画家によるものかもしれないと即座に思い、レオナルド作という可能性もすぐに浮かびました」とのことで、専門家に鑑定を依頼しました。
その結果、絵画の左上から中指または人さし指の指紋が発見され、この指紋がバチカン美術館収蔵のダ・ヴィンチ作「St. Jerome in the Wilderness(荒野の聖ヒエロニムス)」から発見された指紋と「高度に一致する」ことが明らかになりました。「荒野の聖ヒエロニムス」はダ・ヴィンチ初期の作品でまだ弟子を使っていなかった時期の作のため、ダ・ヴィンチ本人の指紋である可能性が非常に高いようです。
指紋が見つかった部分。
番組ではまた、この絵画は左利きの画家(ダ・ヴィンチは左利き)によるものであることが明らかになっているほか、赤外線による分析ではウィンザー城収蔵の「Portrait of a Woman in Profile」と技法に著しい類似が見られ、炭素年代測定では1440~1650年と、ダ・ヴィンチの存命時期(1452-1519)や絵画の中の少女の15世紀後半ミラノ風の服装とも一致する年代であることが確認されています。 もしダ・ヴィンチ作であれば、これまで知られている中で羊皮紙に描かれた唯一の作品となるわけですが、「ダ・ヴィンチは1494年にフランスの宮廷画家Jean Perr??alに羊皮紙に色つきのチョークで描く技法について質問をしたことがある」とオックスフォード大学の美術史の名誉教授Martin Kemp氏は述べています。当時のダ・ヴィンチは、ミラノ公のルドヴィーコ・スフォルツァ(1452-1508)に召し抱えられていました。もしこれがダ・ヴィンチの作品だとすると、描かれた人物はルドヴィーコに纏わる女性で、描かれた女性の質素な衣装から判断してそう高位ではないルドヴィーゴの妾(Bernardina de Corradis)の娘、ビアンカ・スフォルツァ(Bianca Sforza)ではないかという説が有力となってきます。ちなみに、彼女は、13~14歳で嫁いでいますが、婚礼から僅か4カ月で亡くなった薄幸の女性のようです。そして、病名は子宮外妊娠と伝えられています。この絵は、そのKemp教授によると、「消去法でいくと、モデルとなったのはミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァと愛人との間の娘であるビアンカである可能性が高い」とのことです。彼女の婚礼祝いか追悼のためかに、スフォルツァ王公から指示され製作されたものだったのかもしれません。その本の扉絵が、切り取られて流出した可能性は否定出来ません。

この画が羊皮紙に描かれたものであるということは、これが綴じられた書物の一部であることを示唆しています。ダ・ヴィンチの作の中には、羊皮紙を使用した画は1枚もないのですが、フランス人画家ジャン・ペレアルに羊皮紙の制作方法や彩色法について問い合わせた記録が手記に残っているといいます。羊皮紙の年代測定で、1440~1650年と判定されていることも上記の説を補強していますし、この作品の左側に3つの穴があいていて、さらに左側にはナイフで切り取られた痕跡が残っているからです。
番組は現在東京の日比谷公園で開かれている「特別展 ダ・ヴィンチ~モナリザ25の秘密~」の番宣的な意味合いも多分にありますから多少割り引いて考える必要はありますが、そういう歴史の新たな発見のドキュメントとして、この番組は興味津々で見てしまいました。この作品の真贋はまだはっきりとはしていませんが、やがて歴史の評価はきまってくるでしよう。しかし、番組を見た限り、この絵の細部にまで緻密に描き込まれた表現能力の高さには驚嘆するものがあります。それだけでも、この絵がダ・ヴインチの作品であっても不足はない魅力を秘めています。