2010年のサイトウキネンはトラブル続きで大変でしたが、その中でも新たな収穫も合ったのも事実です。その一つが下野竜也氏の代演でしょう。また、うれしいことに昨年はNHKとテレビ朝日(長野朝日放送)とは収録するプログラムが違ったということで、我々聴く方としては選択の幅が広がったということです。
そんなことでBS朝日で1月2日に放送されたプログラムを楽しみました。ただ、やっぱりCMでずたずたの番組になってましたけどね。まあ、予定のプログラムには載っていなかったので期待はしていませんでしたが、せっかくの世界初演の権代敦彦の新作「デカセクシス」が一部しか放送されなかったのが残念です。
冒頭で演奏された小沢征爾の指揮によるチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」は小生の印象ではNHKで放送された9月5日の演奏よりは深みがあって充実した演奏のように聴こえました。これは、NHKと長野朝日放送(ABN)ではカメラのセッティングもマイクのセッティングも違うので一概には言えませんが、小沢征爾の息づかいまでもが聴こえてくる演奏で、指揮棒のない10本の指から発せられるオーラがオーラ乗り移ったかのような調べでした。
この小沢の気迫が乗り移ったかのような指揮ぶりが、次の世界初演の「デカセクシス」の下野竜也の力演に現れていました。ここでは、下野竜也氏も指揮棒は使わず両手と10本の指を目一杯使っての指揮ぶりでした。ただ、慣れないのかちょっとやや一本調子のような感じで、小沢征爾のような細やかな表現にはなっていませんでしたけどもね。しかし、演奏の方はしっかりとしたものであまり変化のない作品をうまく纏めていました。放送は、時間の関係で途中で終わってしまうという中途半端な形でしか放送されませんでした。正月だし、せっかく中継とは違う編集の形での放送なんですからきちんと全曲を放送してほしかったものです。それと、女子アナのナレーションが余韻もなく被ってくるのでややうるさくも感じました。

メインのブラームス、これもいきなり始まります。地上波じゃないのですからもう少し余裕を持った編集で放送してほしいものです。2010年のCプログラム初日となるこの演奏、やはり、ちょっと固さが出たのか第1楽章はやや寸詰まりのような性急なテンポで始まりました。サイトウ・キネン・オーケストラも最初の頃とは違ってかなりメンバーが入れ替わっています。特に管楽器や打楽器はほとんどと言っていいほど入れ替わっています。ティンパニはボストン響のエバレット氏からフィラデルフィア管首席のドン・リウッツィになっています。ひして、このティンパニが強打で速いテンポで連打するのでよけい性急に感じられたのですね。会場の残響とかバランスを考えたらもう少しゆっくり目のテンポの方が良かった様な気がします。下野氏の指揮姿を見てどことなく若い頃の岩城宏之氏をふと思い浮かべました。まあ、岩城氏も若い頃はころころと太っていて指揮姿もどちらかというと直線的な腕の振り下ろしであって、全くイメージがだぶってくるのです。そして、汗っかきなところもそっくりです。さて、プログラムから調べてみると、オーボエ&コーラングレのビョルン・フェストレは北ドイツ放送響、クラリネットのリカルド・モラ
レスファゴットのマルテ・レファートは北ドイツ放送フィル首席、トランペットのクリストファー・マーティンはシカゴ響首席、日本人でもピッコロの時任和夫氏もフィラデルフィア管弦楽団のメンバーなんですから、なんかスーパーワールドオーケストラの雰囲気です。弦楽器にも日本人以外の演奏者がちらほら交じっています。さすが、20年以上にもなるとサイトウ・メソッドのメンバーだけで演奏を続けるのは不可能というものになってきています。
レスファゴットのマルテ・レファートは北ドイツ放送フィル首席、トランペットのクリストファー・マーティンはシカゴ響首席、日本人でもピッコロの時任和夫氏もフィラデルフィア管弦楽団のメンバーなんですから、なんかスーパーワールドオーケストラの雰囲気です。弦楽器にも日本人以外の演奏者がちらほら交じっています。さすが、20年以上にもなるとサイトウ・メソッドのメンバーだけで演奏を続けるのは不可能というものになってきています。
そんなことで、「サイトウキネン」の名称変更の問題も出てきたのでしょうな。もう閉め切られましたが、SKFの公式ホームページではこの名称変更のアンケートを募集していました。来年からはセットで海外公演も考えているとかで、その第1弾は中国公演が決まっています。中国では漢字がそのまま使えますからさし当たって名前が変わらなくてもそんなに支障がないでしょうが、英語圏では名称が変わったら戸惑いもあるんではないでしょうかね?
ブラームスの「交響曲第1番」は、第1楽章前半こそやや力み返った演奏のように聴こえ、その性急なテンポから響きが硬質で表情も希薄なように感じられたものの、楽章が進むに従い音楽にゆとりが出てきて、ある部分からオーケストラに表現を委ねる余裕も出てきたのでしょうか、本来のサイトウキネンが持っている瑞々しさが加わり、たっぷりと鳴る低音の上にしっかりした緻密な音の構築が響き渡るようになりました。下野氏の指揮は、どこかその印象からクソ真面目な面が感じられる部分も無きにしもあらずなんですが、途中から余裕が出てくると元々うまい弦を含めたこのオケの音色に艶が出てきて方業な響きに変わってきたのが分かります。
ただ、長野朝日のカメラはこういうクラシックの映像に慣れていないのか時々、ソロ楽器のアップと音が合っていませんし、変なところでパンして関係ないところを映しているというシーンが結構ありました。そういうところはやはりNHKの映像に一日の長がありますね。でも、音はABNの方が迫力のあるサウンドを捉えている様な気がします。
そんなサイトウキネンの響きですが、このブラームスでは以前の小澤の演奏に比べて下野竜也氏はティンパニの音を強烈に叩かせています。まあ、それが第1楽章の違和感にもあったのですが、ABNのマイクはティンパニの回りに3本ほど立っていました。実際の響きはどうだったのでしょうかね?それだけがやや気にはなりましたが、いやあ実に堂々としたブラームスでした。第4楽章まで演奏し終えた後の下野氏はまるで放心したかのような状態でした。多分、いつもの演奏会をやり終えた充実感と小沢征爾の代役の大任をやり終えた安堵感とでそうなってしまったかのようです。すべてのプログラムをそつなくこなした下野氏は、この後のニューヨーク公演にもその代役の任を果たしています。彼にとっても貴重な体験になったコンサートであり、一年になったのではないでしょうか。